九尾の狐、監禁しました

八神響

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二章 混ざり怪編

十四話

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「という訳で、磨はお前の子どもでもなければ俺の子どもでもないんだ。分かったか?」
「はい、大丈夫です。大丈夫なのでもうそろそろ解放してください。足首が、足首がもう限界なのです」

 純は涙目になりながら懇願する。

 椅子に座ってそれを見ている大黒は護符を指に挟みながら、念のために再度確認する。

「本当に分かったか? また暴走するようなら後一時間はそのままだぞ?」
「分かりました! あの子を住まわせている経緯も、あの子の境遇もちゃんと認識しましたからぁ!」

 直立不動のまま純は心からの叫びを大黒にぶつける。

 大黒たちがリビングから出て一時間、こんこんと磨についての話を言い聞かせることで、大黒はやっと純を現実に引き戻すことに成功した。

 大黒は自分の部屋に付いた途端、純がリビングに戻らないように純の足首と膝を小さい結界で囲った。

 歩くどころか体勢を変えることすらできなくなった純は、身じろぎ一つしないまま大黒の話を聞くことを強要された。

 最初はそれでも自分の意見を覆さなかった純だったが、時間が経ち、体が悲鳴を上げ始めたことでようやく大黒の話を耳に入れ始めた。

 そうして出てきたのが先程の発言であり、そこに嘘偽りは一つもなかった。

 大黒としても必要以上に妹を虐める趣味はなかったため、純の言葉が真実であることに確信を持つと、『解除』の言葉とともに純を捕らえていた結界を崩した。

「やっと自由になれました……。たった一時間が永久のように感じられましたよ……」
「俺としては、そのたった一時間でお前が音をあげたことに驚いたけどな。豊前坊のしごきなんてこれの比じゃないだろ」
「あっちは強くなるという目的がありましたから……、こっちは私が妄想を続けられるかどうかというだけでしたし」

 純は床に突っ伏したまま、消え入りそうな声を出す。

「妄想ねぇ……、実際お前はどれくらい本気で磨が自分の子どもだと信じてたんだ?」
「最初はちゃんと本気であの子が自分の子だと信じてましたよ。……ただ、兄さんの話を聞くうちに急激に冷静にはなっていました。そこで神様がそんな優しいわけがない、と思い出せたのも大きいです」

 磨のことを神様が自分のために具現化してくれた子だと思っていた純。

 しかし自分の人生を振り返ると、そんな都合のいいことをしてくれる神様なんていないという事実が立ち塞がった。

 そうするともう、自分の考えを維持することなど出来るわけがなかった。

「ま、そうだな。神様が優しければ俺達の境遇も違うものになってただろうし。俺は今の環境に満足してるから、それで神様を恨んだりはしないけど」
「……私も兄さんさえ大黒家に戻ってきてくれれば、環境に不満なんて一つもないんですけどね」
「よし! 話がついたところで俺の身体を診てくれ! これ以上磨を待たせるのは忍びない!」
「………………」

 純は不利な話題になった途端に話をそらす大黒をジト目で見ながら、ゆっくりとベッドに座る。

「そうですね、とりあえずはやるべきことを済まさないといけません。採血するので右腕を伸ばしてもらえますか?」

 言いたいことは飲み込んで、純は大黒の身体を調べるための準備をする。

 まず、腰につけているポーチからゴムチューブのようなものを取り出した純は、それで大黒の二の腕を強めに縛った。

「血をとりやすくなるまでの間に、軽い問診をしましょうか。この二週間、身体に異常はありませんでしたか?」
「無いな、ずっと今と同じ状態のままだ」
「瞳の色が変わったりなども?」
「ないない、そんなことがあったらちゃんと連絡してるって」
「……それでは霊力を使ったり等も、もちろんしてませんよね?」
「…………」

 それまでは即答していた大黒だったが、最後の質問をされると急に押し黙り、明後日の方向を向き始めた。

「分かっていると思いますが、私に嘘は通用しませんよ?」
「……はい。実はほんの少しだけ霊力を使って戦いました」

 誤魔化せないことを悟った大黒は、素直に純の言いつけを破ったことを告白する。

 それに対し純は、心配そうな顔はするものの特に怒ったりはしてこなかった。

「はぁ……、あの子を妖怪から助けたなんて話を聞いた時から嫌な予感はしてました……」
「あー、言ったな。そういえば。お前に磨が自分の子どもじゃない、と分かってもらうのに必死でつい」
「それが無ければ隠し通すつもりだった、なんて言わせませんよ」

 純はポーチから注射器を取り出して、大黒から血を抜き取り始める。

「大事なことなので今一度言いますが、兄さんは身体に異常が無いのではありません。異常が見えないだけです」
「……でも、二週間前に調べてもらった時には、俺は完全に人間だったんだろ?」
「ええ、その時は身体の隅々まで診ましたが、そのどれもが兄さんを人間だと証明していました」
「なら……」

 大丈夫なのではないか、と言いかける大黒を純の言葉が遮る。

「あんな劇薬を使って身体に異常が出ないなんて、絶対に有り得ません。その異常が分かりやすいものなら対処も出来ますが、そうでもない。自覚してください兄さん、兄さんの身体は、いつ爆発するか分からない時限爆弾のようなものなのです」
「………………」

 深刻な顔で話す純に、さすがの大黒も軽口を叩くことが出来なくなる。
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