九尾の狐、監禁しました

八神響

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二章 混ざり怪編

十五話

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「ですので、少しでも普段と違うことや霊力を使ったり等したら逐一報告してください。本来なら霊力を使わないことがベストなのですが、最近の妖怪の動向をみるにそれは厳しいでしょうから」

 大黒から抜いた血を専用の容器に入れ、それを左右に振りながら、大黒を強い視線で射抜く純。

 普段なら大黒にそんな目を向けることなどない純だが、今は何よりも大黒の身体が心配なため意識的に厳しく接している。

 目的のためなら自分の身体すら蔑ろにしがちな大黒には、それくらいの態度でいないと効果が薄いことを純はよく知っていた。

「……そうだな。あんまり妹に世話をかける兄ってのも情けないし、これからはちゃんとするよ。当主の仕事が忙しい純に、これ以上苦労はかけたくないってのもあるしな」
「……私のことは気にしないでいいんです。当主の仕事も兄さんの世話も、好きでやってることなんですから。私はただ、兄さんに自分の身体を大切にして欲しいだけなんです」

 微妙に意図と外れた捉えられ方をしたことと、自分のことを気にかけてくれてる嬉しさがない交ぜになって複雑な表情になる純。

「分かってるよ、これからは自重して生きていくって。出来る限りはだけど」
「本当に連絡だけはちゃんとしてくださいね? 約束してくれないと兄さんを力づくでも家に連れ帰りますから」
「大丈夫だからそれを実行しないでくれよ?純の場合そのまま俺を家に閉じ込めたりしそうだから余計怖いんだけど」

 大黒の言葉に純はにっこりと微笑むだけだった。

 その表情は、言葉よりも雄弁に純の気持ちを表していた。

 大黒はそんな純の笑顔に震えていたが、ハクがこの場にいたら『似た者兄妹ですね……』と呆れ返っていただろう。

「分かってもらえたところで、少々兄さんにお話ししておきたいことがありまして」
「何だ? 何かあったのか?」

 十分に脅したことで純も少しは安心したのか、話題を大黒の身体とは違う方向に持っていく。

「大黒、秋人のことです」
「ああ……」

 しかしその話題は大黒にとって喜ばしくないものだったため、止血ベルトが巻かれた腕に思わず力が入ってしまう。

「あれから一ヶ月、私と怜が本気で捜索してもまだあの男の動向が掴めません。豊前坊もいないあの男が、私たちから逃げおおせるなんて不可能です」
「つまり、協力者がいるってことか? ……あくまで可能性の一つとしてだが、その尾崎、があの野郎の味方だったりはしないか?」

 大黒は名前もうろ覚えな純の従者に疑いをかける。

 純が従者に選ぶだけの相手なら、純の目を欺くことも可能ではないかと思ったからだ。

 相手が相手なら怒鳴られても仕方がない大黒の発言だったが、それに対する純の返答はいたってシンプルなものだった。

「ありえません。怜と綾女は、私が選んだ私だけの私兵です。私はあの二人を、兄さんと自分の次に信用しています」

 特に根拠があるわけでもないただの信用。だが、純をよく知る大黒にとってはそれが何よりもの根拠となった。

「あー……、悪いな。とりあえず近いところから疑うのは陰陽師の頃の悪い癖だ」
「いえ、私も兄さんと同じ立場なら同じ疑いをかけていたでしょうし大丈夫です」
「しかしそうなると、あの野郎の協力者は完全に外部の人間ってことか……」
「ええ、妙な人脈だけはありましたからね……」

 それ以外には何も持ってない男ですけどね、と純は小声で吐き捨てる。

 その声には隠しきれない憎しみが宿っていた。

「そんなわけで、まだあの男は生きています。大黒家という居場所を無くしたあの男がどういう考えに至るかは私には分かりませんが、少なくとも九尾を諦めることはないと思います」
「………………」

 ハクが狙われるということは、大黒と敵対するということだ。

 あまり戦うことが望ましくない大黒の状態では、どんな戦力を持っているか分からない相手との戦闘など、最大限に用心して避けねばならない事態の一つ。

 そして大黒にそうして欲しいがため、この話題を出した純だったが、大黒から出てきたのは純の希望とは真逆の言葉だった。

「俺は、俺にとっては、あの野郎がしたことはもう過去のことだ。どこまでも追いかけて殺してやる、なんて気概はない。けど、あの野郎がまた俺の前に現れるのなら、その時はあの野郎が一番屈辱を感じる方法で確実に殺してやる」
「兄さん……」

 ほの暗い笑みを浮かべて殺意を露にする大黒を見て、純はどうしようもなく不安になる。
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