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二章 混ざり怪編
二十五話
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音がした。
一個の物体が空気を切り裂きながら、ありえない速度で接近してきている音。
その音の発生源を確かめようと大黒は空を見上げたが、それは大黒が見上げるよりも早く標的のもとにたどり着いていた。
「は!?」
どさっと鈍い音が前方から聞こえ、大黒は上を向きかけていた首をすぐさま戻した。
それは大黒が結界で囲っていたはずの鵺が力なく地面に倒れ伏した音だった。
大黒が作っていたはずの結界はいつの間にか破壊され、倒れている鵺の首には丸い小さな穴が空いていた。
それが意味する所は一つ、
「純のやつ……! どんな所から弓を撃ってきてるんだ……!?」
――――大黒純による超遠距離狙撃であった。
大黒の戦慄をよそに、純の攻撃はまだ続く。
一射、二射、三射、四射、五射。
矢の接近音がする度に鵺と地面に穴が増えていく。高速で放たれた矢は呪いと熱をその身に宿し、容易く鵺の体を破壊する。
最初の方こそ攻撃を目で追おうとしていた大黒だったが、矢の数が百を超えたあたりでこの攻撃について考えることを諦めた。
そして快晴だった空が大量の矢で覆われ暗くなってきたところで、鬼川がゆっくりと口を開いた。
「『千里の道の向こうから、降り注ぐものは呪詛の雨。いかに堅固なものだとて、雨の後には塵も残らぬ』」
「…………何の言葉だ?」
「当主がこの技を使う時に言う呪文みたいなもんっすよ。いっつも傍で聞いてるから覚えちまったんす」
鬼川は煙草の灰を地面に落としながら気怠げに話す。
「当主は自分の技に名前を付けない。その代わり、決まった言葉を唱えることで自分の集中力を上げて技を放つんす。だけどそんなのは戦闘中に致命的な隙になる。大技になるにつれ言葉も長くなっていきますしね」
「ああ、そういやそうだったな。だから誰かが近くで守っといてやらないといけない。……昔は俺がその役をやってたっけな」
大黒は昔を懐かしむように目を細める。
「へー、それは初めて知りました。じゃ、あたしはお兄さんの後釜ってわけっすね」
「鬼川なら俺なんかよりはよっぽど頼りになるだろうし、純も安心だろうよ。にしてもこんなえげつない技、昔は使ってなかった気が……」
「そんなわけないじゃないすか、あたしが守る時はいつも不満そうな顔してますよ。今思うとお兄さんと比べられてたんでしょうけど。それとこの技を知らないのは当たり前っすよ、当主がこれを使えるようになったのはつい半年前くらいのことっすから」
話している間に一体目の鵺を完全に消滅させた矢が、次は二体目の鵺に向けて放たれ始めていた。
二人はそれをどこか現実味のない光景として捉えながら話を続ける。
「技術的にはとっくに出来るようになってたそうなんすけど、なんか道具が無かったそうなんす。それが半年前に霊力の通りやすい加工がされた鼈甲眼鏡? を手に入れたとかでこのえげつない技が実現に至ったらしいっす」
「あー、なるほど」
狙撃というのはまず標的が見えないことには始まらない。たとえ遠距離まで矢を射る力があっても、射る場所が明確でないとあまり意味を為しはしない。
陰陽師は体に霊力を通すことで身体能力の底上げができる。それにはもちろん五感も含まれるが、この超遠距離射撃をするには弓矢や体にも莫大な霊力を通す必要がある。
つまり眼に霊力を集中させれば遠くのものまで見る事ができるが、そうすると弓矢や体に回す霊力が足りなくなる。眼以外に霊力を集中させれば遠くを射ることは出来るが、標的が見えなくなる。
もちろん距離さえ縮めればある程度の遠距離狙撃は可能ではあったが、この技を自身の必殺技にしようと考えていた純にとって、そんな半端な距離の狙撃では到底満足し得なかった。
絶対に相手の攻撃が届かない、いや、意識さえ出来ないところから一方的に相手を殺し尽くす。
それこそが純がこの技に込めたテーマであった。
しかし自分の力だけでは実現し得ない技、それを実現するために純は道具を探した。
道具に霊力を込めれば、その道具の持つ力が増幅される。
刀に霊力を込めればさらに斬れる刀に、弓矢に霊力を込めればより遠くまで入れる弓矢に。
そして霊力の通りやすい道具さえ使えば、より少ない霊力でより大きい力の増幅が可能になる。
そんな技に適した道具を探すこと数年、とうとう純は眼鏡全てを射殺す眼を手に入れた。
結果完成した技は、この半年誰にも破られてはいない。
「大した妹だよあいつは」
「ホントに、もはや人間兵器っすよね。こーんな力を持ってる人には多少理不尽なことされても逆らう気すら起こんないす」
全ての矢を射終わり、あたりはすっかり静まり返る。
大黒と鬼川の眼前には爆撃を受けた後のように穴が空いた地面のみ。
まるで、鵺なんて初めからいなかったかのような光景だった。
「…………矢で射殺される、か。偽物だったっていうのに最期は鵺らしい死に様だな」
矢の跡を見て、大黒は静かにひとりごちる。
こうして、暫定鵺との戦いは終焉を迎えることとなった。
一個の物体が空気を切り裂きながら、ありえない速度で接近してきている音。
その音の発生源を確かめようと大黒は空を見上げたが、それは大黒が見上げるよりも早く標的のもとにたどり着いていた。
「は!?」
どさっと鈍い音が前方から聞こえ、大黒は上を向きかけていた首をすぐさま戻した。
それは大黒が結界で囲っていたはずの鵺が力なく地面に倒れ伏した音だった。
大黒が作っていたはずの結界はいつの間にか破壊され、倒れている鵺の首には丸い小さな穴が空いていた。
それが意味する所は一つ、
「純のやつ……! どんな所から弓を撃ってきてるんだ……!?」
――――大黒純による超遠距離狙撃であった。
大黒の戦慄をよそに、純の攻撃はまだ続く。
一射、二射、三射、四射、五射。
矢の接近音がする度に鵺と地面に穴が増えていく。高速で放たれた矢は呪いと熱をその身に宿し、容易く鵺の体を破壊する。
最初の方こそ攻撃を目で追おうとしていた大黒だったが、矢の数が百を超えたあたりでこの攻撃について考えることを諦めた。
そして快晴だった空が大量の矢で覆われ暗くなってきたところで、鬼川がゆっくりと口を開いた。
「『千里の道の向こうから、降り注ぐものは呪詛の雨。いかに堅固なものだとて、雨の後には塵も残らぬ』」
「…………何の言葉だ?」
「当主がこの技を使う時に言う呪文みたいなもんっすよ。いっつも傍で聞いてるから覚えちまったんす」
鬼川は煙草の灰を地面に落としながら気怠げに話す。
「当主は自分の技に名前を付けない。その代わり、決まった言葉を唱えることで自分の集中力を上げて技を放つんす。だけどそんなのは戦闘中に致命的な隙になる。大技になるにつれ言葉も長くなっていきますしね」
「ああ、そういやそうだったな。だから誰かが近くで守っといてやらないといけない。……昔は俺がその役をやってたっけな」
大黒は昔を懐かしむように目を細める。
「へー、それは初めて知りました。じゃ、あたしはお兄さんの後釜ってわけっすね」
「鬼川なら俺なんかよりはよっぽど頼りになるだろうし、純も安心だろうよ。にしてもこんなえげつない技、昔は使ってなかった気が……」
「そんなわけないじゃないすか、あたしが守る時はいつも不満そうな顔してますよ。今思うとお兄さんと比べられてたんでしょうけど。それとこの技を知らないのは当たり前っすよ、当主がこれを使えるようになったのはつい半年前くらいのことっすから」
話している間に一体目の鵺を完全に消滅させた矢が、次は二体目の鵺に向けて放たれ始めていた。
二人はそれをどこか現実味のない光景として捉えながら話を続ける。
「技術的にはとっくに出来るようになってたそうなんすけど、なんか道具が無かったそうなんす。それが半年前に霊力の通りやすい加工がされた鼈甲眼鏡? を手に入れたとかでこのえげつない技が実現に至ったらしいっす」
「あー、なるほど」
狙撃というのはまず標的が見えないことには始まらない。たとえ遠距離まで矢を射る力があっても、射る場所が明確でないとあまり意味を為しはしない。
陰陽師は体に霊力を通すことで身体能力の底上げができる。それにはもちろん五感も含まれるが、この超遠距離射撃をするには弓矢や体にも莫大な霊力を通す必要がある。
つまり眼に霊力を集中させれば遠くのものまで見る事ができるが、そうすると弓矢や体に回す霊力が足りなくなる。眼以外に霊力を集中させれば遠くを射ることは出来るが、標的が見えなくなる。
もちろん距離さえ縮めればある程度の遠距離狙撃は可能ではあったが、この技を自身の必殺技にしようと考えていた純にとって、そんな半端な距離の狙撃では到底満足し得なかった。
絶対に相手の攻撃が届かない、いや、意識さえ出来ないところから一方的に相手を殺し尽くす。
それこそが純がこの技に込めたテーマであった。
しかし自分の力だけでは実現し得ない技、それを実現するために純は道具を探した。
道具に霊力を込めれば、その道具の持つ力が増幅される。
刀に霊力を込めればさらに斬れる刀に、弓矢に霊力を込めればより遠くまで入れる弓矢に。
そして霊力の通りやすい道具さえ使えば、より少ない霊力でより大きい力の増幅が可能になる。
そんな技に適した道具を探すこと数年、とうとう純は眼鏡全てを射殺す眼を手に入れた。
結果完成した技は、この半年誰にも破られてはいない。
「大した妹だよあいつは」
「ホントに、もはや人間兵器っすよね。こーんな力を持ってる人には多少理不尽なことされても逆らう気すら起こんないす」
全ての矢を射終わり、あたりはすっかり静まり返る。
大黒と鬼川の眼前には爆撃を受けた後のように穴が空いた地面のみ。
まるで、鵺なんて初めからいなかったかのような光景だった。
「…………矢で射殺される、か。偽物だったっていうのに最期は鵺らしい死に様だな」
矢の跡を見て、大黒は静かにひとりごちる。
こうして、暫定鵺との戦いは終焉を迎えることとなった。
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