九尾の狐、監禁しました

八神響

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二章 混ざり怪編

三十五話

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 ――――一戦目。

「ふむ、コースから落下したりアイテムを当てられたりしたら著しく順位が下がるんですね。でしたらまずは安全運転を基本とした方が良さそうですね。……磨、この手に入れたアイテムはどのボタンで使えばいいんですか?」

 ――――二戦目。

「ああっ! どうしてこの人はアイテムを後ろに投げてくるんですかっ! 前にもまだまだ敵はいるというのに! 下の方で足の引っ張り合いをしても意味がないでしょう!」

 ――――三戦目。

「私が初心者とはいえ何故こんなにも初動から速度が違うんでしょう。機体の違いとかですか? え? スタートダッシュという機能がある? ボタンを長押し…………、爆発しましたよっ!?」

 ――――四戦目。

「大体慣れてきました。そろそろ最下位から抜け出すとしましょう。……何でしょうこのコースは、やたらと曲がりくねっていますし妙な障害物まで……、ですがもうそう簡単には落ちませんよ。……あっ! 甲羅がっ!」

 ――――五戦目。

「しかしこの人達は炎を出せたり雷を落とせたり砲弾に変形したりと、妖怪みたいな事が出来るのに何故空は飛べないんでしょうか。もちろんアイテムのおかげというのは理解していますが、アイテムを使うだけであんな色々な事が出来る体なら空くらい自然に飛べていいものでしょうに。って、また落ちてしまいましたっ! あれ? でも何故か下に道が……?」

 ――――六戦目、七戦目、八戦目、九戦目、十戦目…………。


 その後も数え切れないほどレースを繰り返したが、その間ハクが出した最高順位は十二人中十位という惨憺たるものだった。

 『すぐにコツを掴んでみせる』と意気込んだにも関わらずこの体たらく、さらに同じくほぼ初心者な磨がずっと三位以内に入っていたというのも相まって、ハクは床に手をつくほど落ち込んでしまった。

「ふ、ふふふ。まさかこの私がこれほどまでに苦戦するとは……。中々侮れないゲームですね……。いっそ車になんて乗らず私自身が走れたのならこんな結果にはさせないんですけど」
「でもそれじゃあアイテムが使えないんじゃあ……」
「心配無用です。このゲームに出てくる能力で私に出来ないのは甲羅を召喚することぐらいなので、それに私でしたら空も飛べるのでコースから外れることもありません」
「それは反則、になると思う」

 磨は困惑した顔でコントローラーを置き、一旦ゲームを中断する。

 そして磨は未だに落ち込み続けるハクにどう声をかけたらいいかと頭を悩ます。

 磨が初心者とは思えないほどゲームが上手かったというのもあるが、ハクはハクで普通の初心者よりも上達が遅く、それがレース結果としてはっきりと現れてしまった。

 磨が今まで遊んでいた相手は片手というハンデがある大黒か、ゲームの熟練度が分からない画面の向こうの人間だけだったので、普通の初心者の基準が自分になっておりそれに比べまさかハクがここまで下手だとは磨としても予想外であった。

 慰めればいいのか、それとも何も言わないほうがいいのか、磨の短い人生経験ではそれすらも判別できなかった。

 そうして磨はずっと頭の中をぐるぐるさせながら考えていたが、磨が何かを言う前にハクはガバっと勢いよく立ち上がった。

「よしっ! 遅くなってしまいましたがとりあえずお昼ごはんにしましょう! すぐに用意しますので少し待っていてくださいね。ゲームの続きはその後です」
「う、うん」

 急に元気になったハクに目を白黒させながら、磨は思わず気になったことをそのまま聞いてしまう。

「……その、大丈夫なの?」
「え? ああ、ゲームのことですか。ええ、ええ、先程までは年甲斐もなく落ち込んでしまいましたが、その間にも脳内でシミュレーションをしていましたし、次のレースこそ下位脱却出来るはずです。磨にも今日中に追いついてみせますのでお昼ごはんの後は覚悟しておいて下さい」

 ハクはグッと両手を握りしめ、まっすぐに磨を見つめる。

 磨の言う大丈夫とは、本当にこのゲームを続けても大丈夫かという意味だったが、ハクの中には勝負に負けたまま終わるという思考が無かったため微妙に噛み合わない会話になってしまう。

 そのため磨はもう一度本意を明らかにして尋ねようかと思ったが、やる気に満ち溢れているハクを見て言葉を飲み込んだ。

 そして気合を入れて昼食を作りに行ったハクの背中を見送ると、一人でゲームを練習し始める。

 自分が負けなかったらハクと長く遊べるんだ、という想いを心に持ちながら。


 ――――それから時は過ぎ、時刻は夜の十時になった。


 バイトの終わった大黒が帰宅し、リビングの扉を開くとそこにはゲームのコントローラーを握ったままソファで眠っているハクと、ハクの尻尾にくるまって眠っている磨の姿があった。

 そんな二人を見た大黒は嬉しそうに微笑むと、二人に毛布をかけ、二人が起きた時すぐに食べられるよう軽い晩御飯を作り始めた。
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