67 / 117
二章 混ざり怪編
三十五話
しおりを挟む
――――一戦目。
「ふむ、コースから落下したりアイテムを当てられたりしたら著しく順位が下がるんですね。でしたらまずは安全運転を基本とした方が良さそうですね。……磨、この手に入れたアイテムはどのボタンで使えばいいんですか?」
――――二戦目。
「ああっ! どうしてこの人はアイテムを後ろに投げてくるんですかっ! 前にもまだまだ敵はいるというのに! 下の方で足の引っ張り合いをしても意味がないでしょう!」
――――三戦目。
「私が初心者とはいえ何故こんなにも初動から速度が違うんでしょう。機体の違いとかですか? え? スタートダッシュという機能がある? ボタンを長押し…………、爆発しましたよっ!?」
――――四戦目。
「大体慣れてきました。そろそろ最下位から抜け出すとしましょう。……何でしょうこのコースは、やたらと曲がりくねっていますし妙な障害物まで……、ですがもうそう簡単には落ちませんよ。……あっ! 甲羅がっ!」
――――五戦目。
「しかしこの人達は炎を出せたり雷を落とせたり砲弾に変形したりと、妖怪みたいな事が出来るのに何故空は飛べないんでしょうか。もちろんアイテムのおかげというのは理解していますが、アイテムを使うだけであんな色々な事が出来る体なら空くらい自然に飛べていいものでしょうに。って、また落ちてしまいましたっ! あれ? でも何故か下に道が……?」
――――六戦目、七戦目、八戦目、九戦目、十戦目…………。
その後も数え切れないほどレースを繰り返したが、その間ハクが出した最高順位は十二人中十位という惨憺たるものだった。
『すぐにコツを掴んでみせる』と意気込んだにも関わらずこの体たらく、さらに同じくほぼ初心者な磨がずっと三位以内に入っていたというのも相まって、ハクは床に手をつくほど落ち込んでしまった。
「ふ、ふふふ。まさかこの私がこれほどまでに苦戦するとは……。中々侮れないゲームですね……。いっそ車になんて乗らず私自身が走れたのならこんな結果にはさせないんですけど」
「でもそれじゃあアイテムが使えないんじゃあ……」
「心配無用です。このゲームに出てくる能力で私に出来ないのは甲羅を召喚することぐらいなので、それに私でしたら空も飛べるのでコースから外れることもありません」
「それは反則、になると思う」
磨は困惑した顔でコントローラーを置き、一旦ゲームを中断する。
そして磨は未だに落ち込み続けるハクにどう声をかけたらいいかと頭を悩ます。
磨が初心者とは思えないほどゲームが上手かったというのもあるが、ハクはハクで普通の初心者よりも上達が遅く、それがレース結果としてはっきりと現れてしまった。
磨が今まで遊んでいた相手は片手というハンデがある大黒か、ゲームの熟練度が分からない画面の向こうの人間だけだったので、普通の初心者の基準が自分になっておりそれに比べまさかハクがここまで下手だとは磨としても予想外であった。
慰めればいいのか、それとも何も言わないほうがいいのか、磨の短い人生経験ではそれすらも判別できなかった。
そうして磨はずっと頭の中をぐるぐるさせながら考えていたが、磨が何かを言う前にハクはガバっと勢いよく立ち上がった。
「よしっ! 遅くなってしまいましたがとりあえずお昼ごはんにしましょう! すぐに用意しますので少し待っていてくださいね。ゲームの続きはその後です」
「う、うん」
急に元気になったハクに目を白黒させながら、磨は思わず気になったことをそのまま聞いてしまう。
「……その、大丈夫なの?」
「え? ああ、ゲームのことですか。ええ、ええ、先程までは年甲斐もなく落ち込んでしまいましたが、その間にも脳内でシミュレーションをしていましたし、次のレースこそ下位脱却出来るはずです。磨にも今日中に追いついてみせますのでお昼ごはんの後は覚悟しておいて下さい」
ハクはグッと両手を握りしめ、まっすぐに磨を見つめる。
磨の言う大丈夫とは、本当にこのゲームを続けても大丈夫かという意味だったが、ハクの中には勝負に負けたまま終わるという思考が無かったため微妙に噛み合わない会話になってしまう。
そのため磨はもう一度本意を明らかにして尋ねようかと思ったが、やる気に満ち溢れているハクを見て言葉を飲み込んだ。
そして気合を入れて昼食を作りに行ったハクの背中を見送ると、一人でゲームを練習し始める。
自分が負けなかったらハクと長く遊べるんだ、という想いを心に持ちながら。
――――それから時は過ぎ、時刻は夜の十時になった。
バイトの終わった大黒が帰宅し、リビングの扉を開くとそこにはゲームのコントローラーを握ったままソファで眠っているハクと、ハクの尻尾にくるまって眠っている磨の姿があった。
そんな二人を見た大黒は嬉しそうに微笑むと、二人に毛布をかけ、二人が起きた時すぐに食べられるよう軽い晩御飯を作り始めた。
「ふむ、コースから落下したりアイテムを当てられたりしたら著しく順位が下がるんですね。でしたらまずは安全運転を基本とした方が良さそうですね。……磨、この手に入れたアイテムはどのボタンで使えばいいんですか?」
――――二戦目。
「ああっ! どうしてこの人はアイテムを後ろに投げてくるんですかっ! 前にもまだまだ敵はいるというのに! 下の方で足の引っ張り合いをしても意味がないでしょう!」
――――三戦目。
「私が初心者とはいえ何故こんなにも初動から速度が違うんでしょう。機体の違いとかですか? え? スタートダッシュという機能がある? ボタンを長押し…………、爆発しましたよっ!?」
――――四戦目。
「大体慣れてきました。そろそろ最下位から抜け出すとしましょう。……何でしょうこのコースは、やたらと曲がりくねっていますし妙な障害物まで……、ですがもうそう簡単には落ちませんよ。……あっ! 甲羅がっ!」
――――五戦目。
「しかしこの人達は炎を出せたり雷を落とせたり砲弾に変形したりと、妖怪みたいな事が出来るのに何故空は飛べないんでしょうか。もちろんアイテムのおかげというのは理解していますが、アイテムを使うだけであんな色々な事が出来る体なら空くらい自然に飛べていいものでしょうに。って、また落ちてしまいましたっ! あれ? でも何故か下に道が……?」
――――六戦目、七戦目、八戦目、九戦目、十戦目…………。
その後も数え切れないほどレースを繰り返したが、その間ハクが出した最高順位は十二人中十位という惨憺たるものだった。
『すぐにコツを掴んでみせる』と意気込んだにも関わらずこの体たらく、さらに同じくほぼ初心者な磨がずっと三位以内に入っていたというのも相まって、ハクは床に手をつくほど落ち込んでしまった。
「ふ、ふふふ。まさかこの私がこれほどまでに苦戦するとは……。中々侮れないゲームですね……。いっそ車になんて乗らず私自身が走れたのならこんな結果にはさせないんですけど」
「でもそれじゃあアイテムが使えないんじゃあ……」
「心配無用です。このゲームに出てくる能力で私に出来ないのは甲羅を召喚することぐらいなので、それに私でしたら空も飛べるのでコースから外れることもありません」
「それは反則、になると思う」
磨は困惑した顔でコントローラーを置き、一旦ゲームを中断する。
そして磨は未だに落ち込み続けるハクにどう声をかけたらいいかと頭を悩ます。
磨が初心者とは思えないほどゲームが上手かったというのもあるが、ハクはハクで普通の初心者よりも上達が遅く、それがレース結果としてはっきりと現れてしまった。
磨が今まで遊んでいた相手は片手というハンデがある大黒か、ゲームの熟練度が分からない画面の向こうの人間だけだったので、普通の初心者の基準が自分になっておりそれに比べまさかハクがここまで下手だとは磨としても予想外であった。
慰めればいいのか、それとも何も言わないほうがいいのか、磨の短い人生経験ではそれすらも判別できなかった。
そうして磨はずっと頭の中をぐるぐるさせながら考えていたが、磨が何かを言う前にハクはガバっと勢いよく立ち上がった。
「よしっ! 遅くなってしまいましたがとりあえずお昼ごはんにしましょう! すぐに用意しますので少し待っていてくださいね。ゲームの続きはその後です」
「う、うん」
急に元気になったハクに目を白黒させながら、磨は思わず気になったことをそのまま聞いてしまう。
「……その、大丈夫なの?」
「え? ああ、ゲームのことですか。ええ、ええ、先程までは年甲斐もなく落ち込んでしまいましたが、その間にも脳内でシミュレーションをしていましたし、次のレースこそ下位脱却出来るはずです。磨にも今日中に追いついてみせますのでお昼ごはんの後は覚悟しておいて下さい」
ハクはグッと両手を握りしめ、まっすぐに磨を見つめる。
磨の言う大丈夫とは、本当にこのゲームを続けても大丈夫かという意味だったが、ハクの中には勝負に負けたまま終わるという思考が無かったため微妙に噛み合わない会話になってしまう。
そのため磨はもう一度本意を明らかにして尋ねようかと思ったが、やる気に満ち溢れているハクを見て言葉を飲み込んだ。
そして気合を入れて昼食を作りに行ったハクの背中を見送ると、一人でゲームを練習し始める。
自分が負けなかったらハクと長く遊べるんだ、という想いを心に持ちながら。
――――それから時は過ぎ、時刻は夜の十時になった。
バイトの終わった大黒が帰宅し、リビングの扉を開くとそこにはゲームのコントローラーを握ったままソファで眠っているハクと、ハクの尻尾にくるまって眠っている磨の姿があった。
そんな二人を見た大黒は嬉しそうに微笑むと、二人に毛布をかけ、二人が起きた時すぐに食べられるよう軽い晩御飯を作り始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる