九尾の狐、監禁しました

八神響

文字の大きさ
80 / 117
三章 壊れゆく日常編

三話

しおりを挟む
 不安そうな相生をよそに、何とか大黒は昼休憩の時間の内に昼食を食べ終えた。

「ふぅ……」

 しかしかなり無理をしたようで、大黒は運動をし終えた後のような息を吐く。

 しばらく静観していた相生だったが、さすがに見るに見かねて立ち上がり大黒の手を取った。

「? どうした委員長?」
「いや、もうあれだよ。帰ろう大黒くん。いくら大丈夫って言われても説得力ないよ」

 眉根を下げて心配そうにする相生を正面から見れず、大黒は思わず顔を逸らす。

「でもまだ講義残ってるしなぁ……、ゼミだってあるし。ほら、委員長にまで催促が言ってるくらいだろ? そろそろ出席くらいしとかないとマジで単位が危うい」
「講義くらい私が代返しといてあげるよ。ゼミの方も私から教授に話は通しとくから。大黒くん本人が『体調不良です』って言っても信じてもらえないだろうけど、私が言ったらちゃんと本当のことなんだって分かってくれると思うし」
「俺は教授からそんなに信用無いのか……」
「大黒くんが教授と顔合わせた回数なんて十回あるかないかくらいだし、そこは自業自得だと思うよ……」

 担当教授からの信頼の無さにがっくりと肩を落とす大黒を見て、相生の顔に呆れの感情が混じる。

「とにかくっ、大黒くんはちゃんと元気になるまで学校は休むこと! 今まで散っ々学校生活をサポートしてきてあげたんだから、これくらいのお願いは聞いてくれるよね?」
「…………敵わないな委員長には。分かった、従うよ。委員長には負い目、というか借りしかないのも事実だし」

 大黒は諦めて相生の手を借りたまま立ち上がる。

 そしてホッとした笑みを浮かべた相生はそのまま大黒の手を引っ張って食堂から出ていく。

(本当に、借りばっかり増えていく。磨を守れず、ハクとギクシャクして、周りに心配ばっかりかけて、…………何をやってるんだろう俺は)

 相生に手を引かれながら大黒は俯いて自分を責める。

 過去は振り返らず、自分のせいで起きたことの責任は自分で取り、他人に借りは作ってもきちんと返す。

 そうした信条を大黒は持っていた。

 だが、それもこれも磨が死んでからは満足に貫けておらず、ひたすらに自分に言い聞かせることしか出来ていなかった。

 今も、自分が不甲斐ないせいで相生に要らぬ世話をかけてしまっている。そのことは大黒の心に重い澱を蓄積させ続けている。

「……そういや委員長どこまで行くんだ? 逃げやしないしもう手を離してもらっても大丈夫なんだけど」

 様々な思いを巡らせていた大黒はふと我に返り、現在の状況に疑問を投げかけた。

 それに対し相生は、幼子の面倒を見る母親のような顔で答えた。

「そんなわけにもいかないよ。今のままだと大黒くんいつ倒れるか分からないし。確か家は近いんだよね? だったら次の講義にも間に合うだろうし送っていくよ」
「え、いやいや流石にそこまでしてもらうわけには……」

 言葉の通りの遠慮と、万が一にでもハクを見られたらという不安で大黒は相生の申し出を断ろうとする。

「いやいやいや、むしろここで別れた方が私的には気になるからさ。家に着けるかも心配になるし。これは私の我儘だから大黒くんが気にすることはないよー」

 しかしその面倒見の良さや責任感の強さから委員長と渾名される彼女が、それくらいの言葉で引き下がるわけもなかった。

(ありがたいけどどうしよう……。なんなら家に着いた後も看病してあげるとか言ってくれそうな勢いだ。普通の大学生だったら狂喜するシチュエーションだけど、俺の場合はマズいことにしかならない。ハクのことを知られたら通報もありえそうだし……)

 相生の心遣いをどう後腐れなく躱そうかと大黒は頭を悩ますが、何も思いつかないまま校門が見える位置まで来てしまう。

「んん? なんかざわついてるね」

 だが、そこで二人の足は止まる。

 相生は校門の近くで生徒たちが騒いでいることへの疑問のため、そして大黒は戦いが始まるかもしれないという警戒のため。

(……何だ、あいつは。人間に変化してるけど、それでも感じられるこの怖気……!)

 校門には一人の男がいた。

 二メートルは優に超えている体躯。攻撃的な吊り目。金髪のオールバック。さらには人くらい簡単に食いちぎれそうな鋭い歯。

 それら全てが近寄りがたい要因となっていて、校門を出入りする生徒は皆その男を出来るだけ避けるように歩いている。

 男は時折スマートフォンを見ながら道行く生徒の顔を一人一人確認しており、傍から見れば人探しでもしているようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...