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三章 壊れゆく日常編
六話
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「千二百年生き続けただって……? 確かにお前は強いだろうけど酒呑童子だって一度は討伐されてるのに、そんなのあり得るわけが……」
「じゃあ聞くがよぉ、人間どもの間で俺が死んだって話はどっかにあるのか?」
「ぐ……」
そう言われて大黒は言葉に詰まる。
実際酒呑童子とその仲間の鬼たちは源頼光一行に討伐されたと言われているが、茨木童子だけは渡辺綱に腕こそ斬られるものの無事逃げおおせたとされている。
そしてその後は渡辺綱の乳母に化けて斬られた腕を取り返し、行方をくらませたというのが茨木童子の通説である。
だが、だからといってまさかそこからずっと生き続けていたなどそう簡単に信じられるものではなかった。
「確かにお前が殺されたって話は聞かない。でもずっと生きてたんなら『生きてる』って話が出てこないのはおかしい。これでも元々は陰陽師の端くれだ、色んな妖怪の噂は聞いてきたし、色んな妖怪を滅してきた。だけどその中でお前……、茨木童子の話は皆無だった。お前ほどの妖怪が生きていてそんなに存在感を消せるはずもないだろ」
「まぁだ疑うのか、難儀だなぁ人間ってやつは。目の前で起きている現実よりも常識を信じちまう。俺を買ってくれてるのは嬉しいが、このままじゃあ話も進まねぇな。分かったよ、まずは証拠を見せてやる」
茨木童子は溜息をついて足を組む。
すると、先程まで大黒が感じていた威圧感が一瞬で消え去り、大黒の目には茨木童子が霊力の少ないただの一般人のように見え始めた。
相手を妖怪だと知っている大黒ですらも錯覚してしまう茨木童子の本気の変化、それを見た大黒は冷や汗を流しながら口を引きつらせる。
(渡辺綱さえ騙しおおせた茨木童子の変化の腕があの程度なはずなかったか……。妖怪化してる時ならまだしも今の俺の感知能力なんてイイとこ並だからなぁ)
大黒は茨木童子が今までどうやって陰陽師の目をすり抜けてきたかを知り、茨木童子の長寿具合に納得する。
「……なるほどな、そこまで変化が上手いなら隠れて生きることも出来るか。さっきまでのはわざと分かりやすくしてたってわけか?」
「あぁ、一応お前の人相書きは持ってたが、あんな人の多い所ですぐに見つかるとも思ってなかったからなぁ。あえて少しだけ妖力を出して露骨に反応した奴を探してたんだよ」
「人相書きねぇ。俺が酒天童子と戦ったことも知ってるみたいだし、情報源はどこからだ?」
茨木童子の変化の技能の高さに舌を巻いていた大黒だったが、圧が無くなったことにより緊張が解れ、冷静に話が出来るようになっていた。
「情報源ってほど大したものじゃあねぇさ。妖怪ってのはどこにだっている、陰陽師であるお前らも気づかないくらいそこら中になぁ。そんで俺が話を聞いたのは、そんなほとんど植物や空気みてぇな連中だ。あいつらはちゃんとした言葉なんて話せねぇから要領は得なかったけどな」
「見られてたってことか。あの川のどこかにいた妖怪に……」
「そういうこった。まぁそんなわけでそいつらに戦いの顛末を聞いた後は兄貴と戦った奴の特徴を聞いて俺が紙に書き起こし、スマホで写真を撮って、近辺の妖怪や人間共にお前の目撃情報を聞き回り、なんとか辿り着いたのがさっきってわけだ。人相書きは我ながらいい出来だと思うぜ、見るか?」
茨木童子はやけにウキウキしながら大黒にスマホを見せてきた。
そこに映し出されていたのは浮世絵風に描かれた大黒の全身絵だった。
目は小さく面長で、なぜか髪型はちょんまげに結われている。
大黒のことをよく知っている人物でもそれを大黒と判断するかは限りなく怪しく、左腕が無いという特徴がなかったら本格的に誰のことだか分からないであろう絵だった。
「いや、うん……上手いっちゃあ上手いと思うけど。……何だろうな、何でスマホとか使えるくらい現代に順応してるのに、そこの感覚だけアップデートされてないの? って感じだ」
「何言ってんだお前? 浮世絵が出来たのなんて全然最近だろうよ。だからこそ今の人間に見せてもお前の居場所を教えてくれたんだ」
「そりゃお前、平安時代から考えたら江戸時代なんて最近かもしれないけども。ていうか俺がこの絵みたいに見えてるのだとしたら、それはそれで少しショックだ……」
「全く、何が不満なのか分かんねぇよ。こんなにもイケメンに書いてやってんのに」
「そりゃどうも」
大黒は絵についてこれ以上話しても平行線になるだけだと感じ、早めにこの話を切り上げることにした。
「…………お前は、何でそんな普通にしてられるんだ。俺が酒天童子を殺した相手だってのは分かってるんだろ? だったら仇を取ろうって考えるもんだろ」
大黒はすっかり温くなった紅茶で唇と喉を潤してから、茨木童子の真意を尋ねる。
もしかしたら、それを聞くことで茨木童子が激昂しこの場で暴れ始めるかもしれないという考えもあったが、今の大黒はどうしてもそれを聞かずにはいられなかった。
「じゃあ聞くがよぉ、人間どもの間で俺が死んだって話はどっかにあるのか?」
「ぐ……」
そう言われて大黒は言葉に詰まる。
実際酒呑童子とその仲間の鬼たちは源頼光一行に討伐されたと言われているが、茨木童子だけは渡辺綱に腕こそ斬られるものの無事逃げおおせたとされている。
そしてその後は渡辺綱の乳母に化けて斬られた腕を取り返し、行方をくらませたというのが茨木童子の通説である。
だが、だからといってまさかそこからずっと生き続けていたなどそう簡単に信じられるものではなかった。
「確かにお前が殺されたって話は聞かない。でもずっと生きてたんなら『生きてる』って話が出てこないのはおかしい。これでも元々は陰陽師の端くれだ、色んな妖怪の噂は聞いてきたし、色んな妖怪を滅してきた。だけどその中でお前……、茨木童子の話は皆無だった。お前ほどの妖怪が生きていてそんなに存在感を消せるはずもないだろ」
「まぁだ疑うのか、難儀だなぁ人間ってやつは。目の前で起きている現実よりも常識を信じちまう。俺を買ってくれてるのは嬉しいが、このままじゃあ話も進まねぇな。分かったよ、まずは証拠を見せてやる」
茨木童子は溜息をついて足を組む。
すると、先程まで大黒が感じていた威圧感が一瞬で消え去り、大黒の目には茨木童子が霊力の少ないただの一般人のように見え始めた。
相手を妖怪だと知っている大黒ですらも錯覚してしまう茨木童子の本気の変化、それを見た大黒は冷や汗を流しながら口を引きつらせる。
(渡辺綱さえ騙しおおせた茨木童子の変化の腕があの程度なはずなかったか……。妖怪化してる時ならまだしも今の俺の感知能力なんてイイとこ並だからなぁ)
大黒は茨木童子が今までどうやって陰陽師の目をすり抜けてきたかを知り、茨木童子の長寿具合に納得する。
「……なるほどな、そこまで変化が上手いなら隠れて生きることも出来るか。さっきまでのはわざと分かりやすくしてたってわけか?」
「あぁ、一応お前の人相書きは持ってたが、あんな人の多い所ですぐに見つかるとも思ってなかったからなぁ。あえて少しだけ妖力を出して露骨に反応した奴を探してたんだよ」
「人相書きねぇ。俺が酒天童子と戦ったことも知ってるみたいだし、情報源はどこからだ?」
茨木童子の変化の技能の高さに舌を巻いていた大黒だったが、圧が無くなったことにより緊張が解れ、冷静に話が出来るようになっていた。
「情報源ってほど大したものじゃあねぇさ。妖怪ってのはどこにだっている、陰陽師であるお前らも気づかないくらいそこら中になぁ。そんで俺が話を聞いたのは、そんなほとんど植物や空気みてぇな連中だ。あいつらはちゃんとした言葉なんて話せねぇから要領は得なかったけどな」
「見られてたってことか。あの川のどこかにいた妖怪に……」
「そういうこった。まぁそんなわけでそいつらに戦いの顛末を聞いた後は兄貴と戦った奴の特徴を聞いて俺が紙に書き起こし、スマホで写真を撮って、近辺の妖怪や人間共にお前の目撃情報を聞き回り、なんとか辿り着いたのがさっきってわけだ。人相書きは我ながらいい出来だと思うぜ、見るか?」
茨木童子はやけにウキウキしながら大黒にスマホを見せてきた。
そこに映し出されていたのは浮世絵風に描かれた大黒の全身絵だった。
目は小さく面長で、なぜか髪型はちょんまげに結われている。
大黒のことをよく知っている人物でもそれを大黒と判断するかは限りなく怪しく、左腕が無いという特徴がなかったら本格的に誰のことだか分からないであろう絵だった。
「いや、うん……上手いっちゃあ上手いと思うけど。……何だろうな、何でスマホとか使えるくらい現代に順応してるのに、そこの感覚だけアップデートされてないの? って感じだ」
「何言ってんだお前? 浮世絵が出来たのなんて全然最近だろうよ。だからこそ今の人間に見せてもお前の居場所を教えてくれたんだ」
「そりゃお前、平安時代から考えたら江戸時代なんて最近かもしれないけども。ていうか俺がこの絵みたいに見えてるのだとしたら、それはそれで少しショックだ……」
「全く、何が不満なのか分かんねぇよ。こんなにもイケメンに書いてやってんのに」
「そりゃどうも」
大黒は絵についてこれ以上話しても平行線になるだけだと感じ、早めにこの話を切り上げることにした。
「…………お前は、何でそんな普通にしてられるんだ。俺が酒天童子を殺した相手だってのは分かってるんだろ? だったら仇を取ろうって考えるもんだろ」
大黒はすっかり温くなった紅茶で唇と喉を潤してから、茨木童子の真意を尋ねる。
もしかしたら、それを聞くことで茨木童子が激昂しこの場で暴れ始めるかもしれないという考えもあったが、今の大黒はどうしてもそれを聞かずにはいられなかった。
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