九尾の狐、監禁しました

八神響

文字の大きさ
82 / 117
三章 壊れゆく日常編

五話

しおりを挟む
「それで、お前は結局何なんだ」

 大学を出た二人はしばらく無言のまま歩き、近くの喫茶店へと入った。

 そこで注文を済まし、人心地ついた所でやっと大黒は口を開いた。

「そう急かすなよ。本題に入るのは飲みもんが来てからでもいいじゃあねぇか。時間は山程あるんだ」
「そっちにはあってもこっちにはない。仮に俺に時間があったとして、お前に割く理由は微塵もないしな」
「冷てぇなぁ。最近の若者ってやつか? 年長者の話には多少時間を使っても耳を傾けるのが上手い世渡りってもんだぜ?」
「そうやって自分の意見が正しいと思いこんで、自分より若い奴にマウントをとるのは老害って呼ばれるんだよ。御老人の話なら俺もちゃんと聞くさ」
「か、か、か」

 大黒の憎まれ口を男は笑って受け流す。

 その余裕ぶりにむしろ大黒の方が余裕を失っていってしまう。

(……多分、こいつは力任せに暴れるだけのタイプじゃない。自分の力が強いことを理解しながらも、頭は常に冷静で、押すだけじゃなく引くことも出来るタイプ……。出来ることなら戦いたくはないな)

 いくら力が強い相手だろうと、力押ししかしてこないようなら大黒は勝てる自信があった。

 もしくは勝てないまでも、結界を駆使して相手をいなした上で、生きて帰ることは出来るだろうと踏んでいた、

 しかしここに来てその自信はほとんど無くなっており、このまま何事もなく時が過ぎ去ってほしいと心から願うばかりだった。

「お、きたみたいだぜ。お前の言う通りここは奢ってやっから好きに寛いでけ」
「……まあ、奢ってくれるのはありがたいが」

 大黒は注文した紅茶を飲みながら少し心を落ち着かせる。

 そして、カップをソーサーに置いて先ほどと同じ質問を繰り返す。

「ふぅ……。注文も来た所でもう一度聞くけど、お前は何なんだ? 妖怪ではあるんだろうが」
「…………」

 男もコーヒーを一口飲みカップを置くと、大黒の左袖を見ながら話し始めた。

「……その腕を見てると懐かしくなるな。かつて俺も一人の男に腕を斬られたことがある」
「え……」
「しかも奇遇なことに同じ左腕だ。ま、俺の場合は後で取り戻したから今は両腕とも健在だけどな。……だがお前はそうもいかないよなぁ、なんせお前の腕は兄貴に喰われちまったんだから」
「お前……! まさか茨木童子いばらきどうじか……!」

 大黒の言葉を男は笑うことで肯定する。

 茨木童子。

 かつて酒天童子と手を組んで、平安時代の京を荒らし回った鬼の一人。

 元は、今で言うところの軽井沢で生まれたただの人間であった彼は、しかし生まれながらにして人とは違う姿をしていた。

 生まれた時から髪は長く、牙は生え、成人をも超える力を持っていた。

 だが彼は成長と共に絶世の美男子へと姿を変えていき、女性から絶え間なく恋文が送られるようになる。

 茨木童子に送られた大量の恋文、その中でも彼が興味を持ったのは、茨木童子に恋い焦がれた女性の怨念が文字を血潮に変えた『血塗れの恋文』であった。

 本能の赴くままにその血を舐めた茨木童子は、姿を美男子から鬼の物へと変貌させた。

 そして京に移り住んだ彼は、無事鬼の仲間入りを果たすこととなる。

 大黒はそんな茨木童子の数々の逸話を思い出しながら、いつでも逃げられるように椅子を後ろに引く。

「何で平安時代の鬼がこんなタイミングよく現代に転生してきてるんだ。同窓会でもしてたのか?」
「転生? ……ああ、違う違う。俺はまだ生まれてこの方死んだことがねぇのが自慢なんだ」
「は!? 嘘だろ!? 生まれてからってことはお前千年以上……!」
「正確には千と二百年だな」

 大黒の驚愕ぶりを見て、茨木童子は満足気な顔をする。

 通常、人間も妖怪も霊力が高い程寿命も長くなる。

 それこそ酒呑童子や九尾の狐といった高名な妖怪は、何事も無ければ千年以上生きるのにも不思議はない。

 だが、霊力が高く、広く名前が知られている生物が平穏無事に過ごすことなど不可能だ。 

 人間からも妖怪からも、時には身の安全のため、時には名誉のため、はたまた時には力を手に入れるため、その命は狙われやすくなる。

 神の如き力を持っていても、狙われ続ければいずれは命を落とす。

 だからこそ大黒は今まで生き続けているという茨木童子に驚きを隠せなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...