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第一章 ステキなお姉様になるよ(レイシア5歳)

10話 閑話 メイド長の思惑

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 わたくしは先代のターナー様から使えているメイド長のキクリと申します。
 奥様が出産のため実家に帰ってから、奥様付きのメイド始め使用人がかなり減りましたが、奥様が来られる前から元々いた使用人は最低限残っているので、特に問題は無いでしょう。

 奥様が帰られて二週間位後、レイシア様がトコトコと近付いてきて「お願いがあるの」と言われました。おやつは3時ですよと言えば、メイドの仕事を習いたいとのこと。

 「レイシア様、メイドへの頼み方や扱い方ならお教えしますが、レイシア様が仕事を覚える必要はございません」と言っては見ましたがレイシア様は、

 「メイドはお世話をする仕事でしょ。わたしは赤ちゃんのお世話ができるステキなおねえさまになるの」

と、もう一度お願いされました。

 旦那様に相談したらこう言われました。

「まあ、レイシアもアリシアがいなくなって寂しいんだろう。今は良い姉になるとがんばっているから、遊ばせてあげると思って少し付き合ってやってくれ」

 お嬢様の遊び相手。そうですね、綺麗な歩き方やマナー等は、貴族として身に着けるのは必要な事です。今のうちに教えても良いかもしれませんね。
 まあ、小さいのですぐ飽きるでしょう。どうせやるなら本格的に。そう思って週に一度、日曜日だけ教えることに致しました。



「ではレイシア様、始めましょう。よろしいですか。メイドは皆さまのお世話をする仕事です。分かりますね。しかし今のレイシア様ではメイド仕事は無理です」

「どうして?」

「自分のお世話も出来ないからです。自分の世話が出来ないのに他人の世話が出来ますか。まず初めは、一人で着替えができる様になる所からです」

 ターナー家のメイド服を渡して着替えさせました。奥様付きのメイドの服は最近流行りのスカート丈が短い物だが、メイドが足を見せるなんて、隙だらけではありませんか。はぁ、つい愚痴が……あら、お嬢様可愛い。

 その後、日常生活で(お世話されない側が)必要な事を教え、体験させました。

「では本日はここまで。よいですかレイシア様。一度習って出来る事は何もありません。毎日コツコツと継続して行く事が大切です。手を抜いたりしたらすぐに出来なくなりますよ。それだけは心に留めて下さい」

「毎日コツコツですね」
レイシア様は素直に頷いて初日は終わりました。



 その日からレイシア様は、自分の事はなるべく自分でするようになりました。メイドに起こされる前に起き、洗顔 歯磨き 着替え(一部ドレス除く)部屋の掃除 教会へ通う支度 等など拙いながらも頑張っております。ならば私も本気で仕込みましょう。


「本日は、対応について。TPOを学びます」「はい」

「本日は、言葉遣いです。『かしこまりました』復唱」「かしこまりました」
 
「本日は歩き方です。まずは1冊本を頭に乗せて白線の上を歩きます。3冊乗せて歩けたら合格です」「はい」

「本日は、お辞儀の仕方です。基本3段階に分かれていますので状況に応じて使い分けます。まず初めは軽く15度」「(ペコ)」

 お嬢様は素直なので飲み込みがお早い。それに努力家です。基本的な作法と考え方はすぐに覚えてしまいました。



 ターナー家の一部メイドには、密かに伝え続けられている事がある。それが、

  [ターナー式メイド歩行術]

 ターナー家への絶対の忠誠があり、技術を会得出来るセンス・体力・根性が感じられる者だけに伝えられる事が出来る、秘中の技術。

 私は先代のメイド長に教わりました。「必ず次代に伝えるのよ」そう言い残して彼女は去っていっきました。重圧から逃れる事が出来たという、爽やかな顔をして。

 今のターナー家には伝えるべき人材がいない。以前2人に教えたが会得することができなかった。
 でも、レイシアお嬢様なら……。

 真面目で努力家、センスもありそう。何よりターナー家自分の家族を裏切ることなどあり得ない。私ももういつまで務められるか。お嬢様に一旦託し、お嬢様からメイドに伝えて貰えれば。

 よし、お嬢様を鍛えよう。


 何年も使われていない社交ホール。お嬢様と2人きり。誰も入らないように内鍵をかけた。

「お嬢様。なぜターナー家のメイドのスカートがこのように長いのか分かりますか。それは足の運びを悟らせないためです。混み合うパーティー会場、酔いが回ってふらつくゲスト、嫌がらせでご令嬢にワインをかけようとする悪役令嬢、色っぽいメイドを連れ去ろうとする小太りの成金貴族。その様なパーティーの中でも、自由自在に動き回るために伝えられた歩行術。それが[ターナー式メイド歩行術]です。それではレッスンの開始です」

 スカートの裾を摘み太ももがあらわになるまでたくし上げる。恥ずかしさで震えそうになる。しかし脚の使い方を伝授するにはこの方法しかないのよ。レッスンに集中しましょう。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。

「お尻をキュッと引き締め、膝をこの様にほんの少しだけ曲げます」

 お嬢様は私と同じ様に、いえ、豪快にスカートをたくし上げ、膝を曲げました。そうだよね。5歳だから恥ずかしくないわよね。意識しすぎていましたわ、私。

「曲げ過ぎです……そうそこ! そこでキープ。踵がわずかに上っているから意識して……そう。そして爪先をナプキン2枚分程上げて前に移動。このように動かします」

「足がプルプルします」

「最初は仕方ありません。慣れて来ればずっと出来る様になりますよ。これが[ターナー式メイド歩行術その一 【猫脚】 猫脚は全ての歩行術の基礎となります。この歩行が、どんな時でも出来るように、訓練は怠らないこと。よろしいですか」

「はい。先生」

「よろしいです。では本日はここまでにいたしましょう」

 私は、お嬢様は必ず最終奥義【盤投】まで到達出来る。そんな予感で心が踊った。

 もちろん、一般的なメイドのお仕事は、お嬢様は完璧にこなせるようになりましたよ。これで素敵なお姉さまになれますね。レイシアお嬢様。
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