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第二章 入学式

13話 閑話 王子の鬱屈

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「王子、なんで正装してないんですか!」

 ステージ袖で待機している俺に向かって、宰相の息子チャーリーが声を掛けた。

「学生の正装をしているが何か?」
「さっきまでタキシード着ていたじゃありませんか」

「あれは普段着だ。ちゃんと学生らしく制服に着替えたんだ。文句を言われる筋合いはないよな」
「ありますよ! ってかタキシード普段着ってなんなんですか! この後親睦会が開かれるんですよ。まさか制服で出席する気じゃないでしょうね」

「まさか」
「そうですよね」

「出席する気はないぞ」
「ええっ!」

「あれは任意だよな」
「王族は義務です!」

「そんなはずはないが」
「暗黙の了解ってものを無視しないでください」

「明文化してないよね」
「だから、暗黙なんです!」

 俺は大きなため息をついた。宰相の息子チャーリーはもっと大きなため息をついていたが、そこは無視しておこう。



 大体、この国はおかしい。王族として幼い時より教育を受けてきた俺は、他の貴族の子供より早熟だったのかもしれない。

 それにしてもだ。

 俺が7歳から勉強しているのに、なんであいつら10歳まで何もしないんだ?
 未来の王妃候補、つまり俺が将来結婚する相手が集められた8歳の時……。何一つ俺の言うことに反応を示すことが出来ない無学な女の子に囲まれて何が楽しいというんだ? こっちは会話がしたいだけなのに、自慢話や悪口だけを延々と聞かされて……。
 この中から、結婚相手を選べ? 無理。絶対嫌。そう思った8歳の俺。

 どうして、こう、幼稚なんだ。いや、どうして幼稚にさせているんだ?
 俺と同じように、7歳から勉強させればいいだけじゃないのか?
 なんで10歳と決まっているんだ? なんで王族は7歳から勉強できるんだ?

 同じ年代で、同じ話ができる。そんな友がいたら……。

 そう思って10歳まで過ごしてきた。



 10歳になったら、こいつらも勉強を始めるんだ。少しは楽しくなるはず。
 そう思っていたが、実際は違った。
 読み書きができるようになった? まだそこか。
 足し算、引き算? それが?
 どこまでも、女の子は着飾ることばかり……。

 なぜ楽しめる? 俺もこいつらのように馬鹿だったら楽しく暮らせるのか?

 騎士の子たちとの訓練。これだけが生きている感じがする。彼らは真面目だ。生きる目標がはっきりしている。強さ。それだけは分かりやすくそこにある。

 王子は何を求められているんだ?



 図書館で勉強。自習時間に見たことのない本を見つける。

「ラノベ?」

 小説か。どうせお堅いつまらないどこぞの貴族の自慢話だろう。小説などそんなものしかない。……そう思いながら読み進めた。

 ナンダコレハ……。

 面白い。なぜこんな発想が出来る? まるで異世界の知識の塊! 俺が今まで学んできたものでは解釈できない魔法・道具・常識・社会制度……。

 なぜ、こんな発想ができる? こんな道具どうやったら作れる? いや、どうやったら思い浮かべることができるんだ! 

 俺は、夢中になってラノベを読んだ。女子向けもあるのか。ふむふむ。

 ……王子に期待しているのは、こんな馬鹿か? 女の見る目もなく国をかたむけたらいいのか?

 なぜ……。あんな馬鹿な女子どもは、俺をこんな風にしか見ていないのか?
『ざまあ』 もう読むのはよそう……。



 俺に勉強を教えている神官達は、ラノベを読むことを禁止した。

「王子、このような低俗なものを読んではいけません」
「なぜ? このような素晴らしい発想にあふれたラノベを読んだらいけないのですか?」

「これは、悪魔の知恵です。このような本は焚書にしてやりたいと教会では思っているのです」
「なぜ? こんなに素晴らしい……」

「王子! 魅入られてはいけません。まったく嘆かわしい。司書にラノベを置かないよう進言しなければ」

 こうして、図書室からラノベは撤去された。



 つまらない日常。つまらないパーティー。つまらない貴族の子どもどうしの会話。
 ちょっとは勉強したんだろう? なぜ、そんなくだらない事しか話ができないんだ?
 この国を良くしようとか思わないのか?

 そして、学園の入学式が始まる。



 着飾った新入生がホールに集まっている。いつものつまらないパーティーと一緒か。
 向こうに騎士服を着た新入生がいる。やはり、信じられるのは彼らだけか。俺も騎士服で出ようか。はは、まさかな。

 おや? あの女子は? 変わった格好? 制服。そうか、制服だ! まだ時間はある。大至急制服を届けるよう命じた。


◇◇◇


 制服姿で壇上に立つ。会場がどよめいている。気分がいいものだな。
 会場の動揺を楽しみながら、新入生の挨拶を始める。

「本日は、我々新入生のために、このような立派な式を行っていただきありがとうございます。われわれは……」

 決められた当たり障りのない挨拶。それが終わったら嫌味のひとつも言ってやるんだ。

「ところで、新入生諸君。何か勘違いしていないでしょうか。ここは学園。学問の学び舎です。浮ついて着飾って、一体なにをしようとしているのでしょうか? 学園には制服というものがあるというのに。皆様の興味は宝石やドレスしかないのでしょうか? 男性諸君も同様です。これからの王国を担う皆様は、学園に何をしにきているのでしょうか? どうやらわたくしと同じ心持を持てる者は、そこの騎士服をまとっている彼ら……ああ、あそこに制服の女子がいますね。それくらいですか? 残念でなりません」

 ありがとう、そこの制服女子! 爵位が下みたいだからもう会うこともないだろうが。法衣貴族かな? まあどうでもいい。楽しめたよ。

 今日は誰が何と言おうが制服で過ごしてやる。パーティーなんぞウンザリだ。

 俺は気分よくステージを去り、さっさと控室に戻った。
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