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第二章 入学式

16話 閑話 学生ラノベ作家のチャンス

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 何かある。絶対やらかすよ、これ!
 あたしは王子が制服で出て来た瞬間、そう思った。

 入学式で王子が制服を着てる? ネタだ! ネタが降ってきた。
 食事の前にカク・ヨーム様にお祈りしたのがよかったのだろうか。

 あたしは、一言一句間違えることのないように、王子の言葉を速記した。

「本日は、我々新入生のために、このような立派な式を行っていただきありがとうございます。われわれは(中略)。ところで、新入生諸君。何か勘違いしていないでしょうか。ここは学園。学問の学び舎です。浮ついて着飾って、一体なにをしようとしているのでしょうか? 学園には制服というものがあるというのに。皆様の興味は宝石やドレスしかないのでしょうか? 男性諸君も同様です。これからの王国を担う皆様は、学園に何をしにきているのでしょうか?」

 いやっほー! やりやがったよ!!! 言い切った! ステキ! もっとやれ!! あたしは興奮した感情を押さえながら手だけは止めずに頑張った。

「どうやらわたくしと同じ心持を持てる者は、そこの騎士服をまとっている彼ら……ああ、あそこに制服の女子がいますね。それくらいですか? 残念でなりません」

 王子が指差した先にはレイシアがいた。だろうね、ここに制服で来ているなんてレイシアしかいないさ。って、まずくない! この状況!! でも手は止めないよ。

「本日は皆様に生徒を代表して感謝を申し上げます。新入生代表、アルフレッド・アール・エルサム」

 王子の挨拶が終わった。女子達の視線がやばい! あれはつるし上げにあうぞ!
 あたしは、逃走ルートを探った。今はあいつの保護者だ。助けてやらないと。

 人ごみを縫って、逃げやすそうな窓のカギをこっそりと外した。

「以上を持ちまして、入学セレモニーは終了となります。なお、5時より保護者の皆様には説明会、並びに説明会終了後、先生方を交えた懇親会を予定しております。ご参加下さいますようよろしくお願いいたします。では、解散です。生徒の皆様は、後方法衣貴族のグループより会場を出る様に。では解散」

 司会者のナレーションが終わると同時に、一斉に学生が立ち上がった。
 女子達が一斉にレイシアを見つめる。マズい。今しかない!

 あたしは、窓を開け放ち「逃げるよ、こっち!」と叫んだ!



 なぜ男子が追いかける!!! あんたら関係ないだろ! 女子にアピールしたいのか? 関係ないのに来るんじゃね~!! あたしは細い抜け道を自在に選択し、追いかけてくる男子をまいた。
 レイシアがなんかよく分からないけど貴族の馬車に乗った。まあ、安全が確保されたんならいいや。早く帰ってこの話書きあげなきゃ!



 レイシアが馬車に乗って帰ってきた! 祖父と名乗る貴族が金貨2枚置いて行った! 金貨? 金貨! 初めて見たよ! レイシア何者?

 夕食後、レイシアの生い立ちを聞いた。だめだ。泣きたい。なんでそんな苦労をこの子がしないといけないんだ。あたしはそう思いながらも、あたしに筆力があれば……、あたしはいつかこの子の話を書きたい、そう思っていた。



 翌日、あたしは版元の社長に徹夜で書いた原稿を持って行った。

「なんだ、売り込みか? 昨日来たばかりなのにやる気だけは一人前だな」

 そんなのんびりした社長に原稿を叩きつけて言った。

「こいつは時間との勝負なんだ! 早けりゃ早いほど売れる。いいから読め!」

 そう言うと、気分を害したのか、ケッ、と言いながらも原稿に目を通した。

「こいつは……」
「そうさ、昨日学園で起こった一部始終。王子がやらかした噂ぐらい聞いているだろう。そいつをラノベ風に脚色したんだ。そのまま書いたらアウトだけど、こうしたらグレーだろ。売れるぞ、今すぐ出せばな」

「原稿料は昨日の2倍、他は売り上げの7%でどうだ」
「10% そして今すぐ出すならOK。待たすなら他当たる」
「こんなもん待たせられるか! 10%だぁ、ふっかけやがって! おい、他の作業は後回しだ! こいつを100、いや300刷れ!」

 300で足りるかな? そう思いながらあたしは契約を交わした。
 結局その後、増刷が何度も行われ、あたしは大金と名声を得ることになった。

ちなみにタイトルはこれだ。

「制服王子と制服女子~淡い初恋の一幕~」
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