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第六章 夏休み

71話 残された人々

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 その頃保護者達は、いきなり走り出した3人を見て大騒ぎを始めていた。

「お姉様!」
「ふむ、早いな」
「料理長! どうなっているんだ!」

 料理長は3人を目で追うのをあきらめて答えた。

「あ~。本気出しましたねぇ。あれについてくのは……。旦那ならまだしも、坊ちゃんと神父様には無理ですねぇ」

「「そんなぁ」」
 
 名指しで無理と言われた2人はガックシと肩を落とした。

「旦那はどうします? 追いかけますか」
「いや、やめとくよ。ヤツらの本気は得体が知れん」
「賢明ですな」
「あれは、全盛期でも無理だよ」

 遠い目になるクリフト。朝から振り回されっぱなしで思考を放棄している。
 おととい帰って来てから中々レイシアと触れ合うことが出来ないクリシュは、またしても離れて行った姉のポテンシャルに一抹の寂しさをおぼえていた。

「どうしてお姉様はあんなに何でもできるのでしょうか」
「「本当に……」」

 クリフトと神父のため息交じりの声が重なった。

「まあ、嬢ちゃんは坊ちゃんくらいの時にはウサギくらいは平気で狩っていましたしね」

 料理長がそう言うと、クリシュは目を大きく開いた。

「お姉様が僕くらいの頃に? なら僕にもできる? ウサギ狩り」

 期待に満ちた目で料理長を見るクリシュ。

「どうでしょう。ねえ旦那。どう思いやす」
「ああ。できるんじゃないか?」

 父クリフトは、息子の夢を壊さない様に相槌を打った。

「やってみたい!」
「そうですか。じゃあ見本でもみせましょうか」
「お願いします!」

 料理長はクリフトを見て、「ああ言っとりますが、やってもいいんですかい?」とたずねた。

「ああ。お願いするよ」
 許可が出たので料理長は獲物を探した。



「坊っちゃん、あそこにいるの見えますかぃ」

 草むらでえさを食べている一角ウサギが3匹。でも。見慣れていないクリシュと神父には分からない。

「じゃあ分かりやすくしましょう」

 そう言うと、『スッ』とペティナイフを投げた。
 首を半分切られたウサギが、血しぶきを拭き上げながらもんどりを打っている。その姿が遠くからでもはっきりと見えた。

「走って取ってきてください!」
 料理長はクリシュを走らせウサギまで近寄らせた。

「グギャャャ――――――」
大きな威嚇の声が聞こえた。火炎狐が猛スピードでウサギをさらおうと走ってきた。
 料理長がウサギを横取りしようとする火炎狐を、出刃包丁を投げて狩った。

「気をつけて、坊っちゃん」

 しかし狐は血を撒き散らせながらクリシュに向かって行った。恐怖で動けなくなるクリシュ。

 あわてて狐に近寄り「ズバッ」っと牛刀で狐の首を掻っ切った料理長。動脈から吹き出した血が進行方向へ噴き出す。
 首のない狐が胴体だけでクリシュの前に駆け寄った。ドスッ、と首がクリシュに当たり狐はそこでこと切れた。

「キャァァァ――――」
 血まみれになり頭を抱えてうずくまるクリシュ。生臭い生温かな液体はまだ狐の首からクリシュの体に流れ落ちる。

「大丈夫ですかぃ? 怪我はないですね」

 料理長がクリシュに近づき、立ち上がらせる。
 クリシュは助かった、これで終わった。と安堵したが、料理長はにこやかに言い放った。

「じや、捌くとしましょう。内蔵出しますぜ。ケツくんで、手ぇ突っ込んで掻き出してみてください」

「ま……、待ってください!」
 クリシュは料理長にすがるように言った。

「狩りってこうなんですか!」

 料理長は理解不能。何を聞かれているのか分からない。

「狩りってこう、獲物を仕留めると『ボンッ』て獲物が消えて、肉とかコインとか、アイテムとかが落ちたり、宝箱がでてきたり……」
「何言ってんだ?」
「ラノベでは……」

 そう。レイシアの教育を受け、ラノベ最高!という思想を植え付けられたクリシュは狩りと言うものを勘違いしていた。



(作者の独り言) 
 いいか。ラノベの世界に憧れる若者が、もし本当に異世界転生をしたとき、現実で作ったことがないマヨネーズが作れるのか? ポテトチップスが作れるのか? 平気で狩りができるのか? 農業はスローライフ? 農家なめるな! 素人が無農薬なら雑草だらけにするに決まっているだろう! 退職して田舎暮らしに憧れる都会人のほとんどが失敗してるんだ! レアケースを見て自分も出来ると思うな! はあ?現実モテない男がハーレム管理できるわけないだろ! モテるやつは努力しているんだよ! 女のドロドロした感情をなめるな! 1人に好かれたら最高だとなぜ思えん! なに?俺の小説は最高!投稿したら即PV100? つかないから! 24時間PV0はよくあるから! 読まれない地獄に落ちやがれ! ゼイゼイ


 実際の狩りや調理を知らないクリシュはそんな感じの、甘っちょろい空想の世界に憧れていただけなのだ。


閑話休題やめよう。先行こう

「なんですかい、坊ちゃん。ボンッって消えたら肉食えないじゃないですか。はいはい、ツボ抜きしますよ。お嬢は最初からノリノリでやっていましたよ」

 ウサギの尻尾と肛門を切り裂き、中に手を入れる様に指図をする料理長。ためらうクリシュの右手を取り、無理やり突っ込もうとする。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 クリシュは腕を振り抜き、お父様の陰に隠れた。
 料理長は内臓を引き抜きながら

「この程度で怖がるのなら、狩りは無理ですねぇ」
 とのほほんと言った。

 父であるクリフトも猟はしているので、息子を見この程度で怖がっている息子を見て、

「そうだな。まあ、学園に入るまでは慣れないといけないな」
 と息子は自分も子育てに混ざろうと思いなおした。

 動物の解体に慣れていないクリシュと神父は、顔が青ざめたままだった。そのまま料理長の解体を見ているしかなかった。
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