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Episode.01 ルクリア・ピンセアナ
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しおりを挟むガタゴトと繰り返し揺れる馬車の中。少年は一人窓の外を見ていた。
『お兄様、…行ってらっしゃいませ。』
『…っお兄様のお帰りを、お待ちして、おります…っ。』
少年が脳裏に思い浮かべるのはただ一人、彼の愛する妹の姿である。
妹ーーールクリアは、泣かなかった。少年は先程の少女の姿を思い出す。
愛らしい姿をした彼の妹は、極度の人見知りで、しかし、兄である彼を慕っていた。
学院に旅立つ兄の見送りの場で、少女は笑ってみせたのだ。少年には、泣きそうになるのを堪えながら笑む少女がやけに気高く見えた。
あの愛らしい妹はいつの間にあれ程成長したのだろうか、と少年は目を伏せる。
人見知りのあの少女を家に残すのは心配に思っていた。だからこそ、その成長は嬉しく思う。
…思う、のだが。
寂しい。そう思ってしまう自分は、きっと兄としてまだ成長できていないのだろう。
自分はきっと「行かないで」と、そう言って欲しかった。
少年は視線をついと後方へ向ける。自分が来た道を辿るその視線の先にあるのは、彼の自宅。少女が存在するであろう場所だ。
少女は大丈夫だろうか。きっと、今頃泣いでいるのではないか。心配で、心配でーーー
ーーーでも、自分はずっと彼女の傍にいれるわけではないから。
『あの子にとって休まる場所があるというのは良いことです。しかし、そこに依存してしまえば、あの子は成長することなく、今の状態のままとなるのですよ。』
『あの子の成長の機会を私は守りたいと思うの。』
出発の前日、母親が少年に伝えた言葉。少年は何も返すことができなかった。
知っている。わかっていた。言われたことはなかったけど、少女が年を重ねる度に少年は感じていた。
〝もうそろそろ〟
〝いつまで〟
〝このままでは〟
少女がただの人見知りでないことぐらい、屋敷にいる全員がわかっていた。このままでは少女が貴族として生きていくことができないことも。
少年は賢い。実年齢以上に聡い。だからこそ、周囲の人間の視線の意味することくらい理解していた。
少年が学院へと行き、家を離れるのは絶好の機会なのだ。少女がどれだけ不安で怖くて堪らなくても、少女のために必要な成長の機会。
そして、別れの日。少女は成長していた。小さな一歩。しかし、これで証明された。少女は弱いが成長できないわけではないと。
少年はただ、あの小さな妹が幸せになることを願って学びの舍へと旅立つのだった。
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