引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

文字の大きさ
9 / 41
Episode.02 白銀の少年との出会い

しおりを挟む


 お兄様が学院へと家を出て1年が経った。

 わたしはお母様や家庭教師の厳しい指導を受けながら日々闘っていた。お兄様はほぼ家に帰らず、代わりに丁寧な文字が書かれた手紙が送られてきた。

 鍵付きの箱へと手紙を保管し、お兄様も頑張っているとやる気を出した。お兄様との手紙のやり取りは、わたしの活力となっていた。



 前世むかしネットで読んだことを思い出す。


 〝対人恐怖症は治る病気です〟

  〝しかし、放置していても改善する可能性は低いとされています〟


 あの日はわたしの20歳の誕生日だ。特別な日という事実が一歩を踏み出せないわたしに〝今日こそ〟と背中を押してくれた。そして、一番近くにいてくれた母はわたしを外へと誘い、先へ進むための手を差し伸べてくれた。

 一年前、それまでわたしはお兄様の手を握って目を閉じていても歩くことができた。しかし、歩いていたのはお兄様の道であり、わたしの道を進むことはできていなかった。あれは歩みなどではなく、ただその場で足踏みをしていただけに過ぎなかったのだ。

 そしてわたしは前へ進むお兄様の手をようやく手放した。お兄様の手に自分の手の形が残りそうな程長い時間、その手をギュッと掴んでいたはずだ。

 お母様に、家庭教師に、時に執事やメイドに。正しい方向を示してもらい、背中を押してもらい、歩む道を整えてもらいながら自分で進むようになった。



 ーーーしかし、現実はままならない。

 わたしは周囲から見られる立場にある。その一挙一動がわたしの貴族としての扱いと、家の評価に繋がる。

 怖い。人の視線が怖い。動悸がして、息苦しくなる。手が震えて、足が震える。逃げ出したくて堪らなくなる。

 失敗したらどうしよう。溜め息をつかれて呆れられる?ダメな奴だと笑われる?


 『失敗しなさい。失敗したすれは成功の味を知るわ。そして、見られているなら見せなさい。』

 うじうじと悩むわたしにお母様はそう言った。簡単なことを言われたわけではないけれど、それでも心は軽くなった。


 わたしは、引きこもってしまえば終わりだと考えている。

 引きこもれば引きこもるほど、次の一歩が難しくなる。それは嫌というほど知っている。だからこそ、嫌々ながらも毎日外へ出て、誰かと会い、言葉を交わすのだ。

 足を踏み外すことよりも、足を止めることに注意して今は前へ進んでいるのだ。



 そんな日々の中でと出会ったのは、庭園の薔薇が美しく咲き誇る暖かい日だった。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。 だが彼女は泣かなかった。 なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。 教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。 それは逃避ではない。 男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。 やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。 王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。 一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。 これは、愛を巡る物語ではない。 「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。 白は弱さではない。 白は、均衡を保つ力。 白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

処理中です...