19 / 41
Episode.03 旅立ちの日は近く
1
しおりを挟むお兄様の旅立ちはもう4年前。そして、あと10日が経てばわたしも旅立つこととなる。学院ーーーフロール国立貴族学院へ。
「ルクリアお嬢様、昼食にいたしましょう。」
声をかけてきたのはメイドのリーンだ。どうやら昼の鐘はもう鳴っていたらしい。
「…ええ。」
机の上に広げた地図を見ながら応える。
フロール王国の王都から幾つかの領地を挟んだ南西に位置するのがピンセアナ伯爵領である。その気候から種類の豊富な農作物の出荷が盛んだ。特に甘みのある果実が人気らしい。
地図の上に置いた本には小さい文字で各領地の天候やら特産品やらについてつらつらと書いてある。
また別の本は貴族図鑑のようなもので、貴族一人ひとりについての情報がメモ程度に書かれている。ちなみにこれはお父様がお兄様のために書いたものだ。
「お嬢様。」
「…なあに。」
隣国であるシエロという国との国境にあるのがレウコスタキス侯爵領である。その軍事力は国内でも最高峰といわれているらしい。
「昼食に、いたしませんか。」
「…そうね。」
レウコスタキス侯爵様夫人は王家の血筋を持つ公爵家の出身らしい。わたしは顔を知らないけれど、セネシオ様の顔を見たらある程度予想はできる気がする。
「お嬢様!」
当然の大きな声にびっくりしてリーンの方へ向く。
「お昼にいたしましょう。」
「え、ええ…。そうね、もうそんな時間なのね。」
「お昼の鐘はとっくに鳴っていますよ。」
メイドらしくなく、少し怒った様子のリーンに不思議に思う。なぜあんなに機嫌が悪くなったのか。
「それと、旦那様に呼ばれていますので、昼食の後でいいそうなので、先に昼食をとりましょう。」
「ありがとう、リーン。」
机の上を軽く片付け、テーブルへと席に着く。お父様、なんの用事があるのだろう。あれ以来、少しは話すようになったけれど、それでも部屋に呼ばれるようなことは今までなかった。
「お嬢様、勉強熱心なのはいいことですが、食事と睡眠はきちんととらねば体調を崩してしまいますよ。」
「そうね、気をつけるわ。」
この時期の呼び出しということは、やはり学院関連のことだろうか。
そんなことを考えながら食事をしていると、リーンの視線が刺さる。貴族は何をするにも使用人がついてくるし、ずっと視線は付き纏う。
家でのそれには少し慣れたと思う。正しくは、自分の恐れを表に出さないことに慣れた。
けれど、学院はまた違った世界だ。貴族たちが蠢くところでわたしは生きていけるのだろうかと、今更そんなことを考えている。
10日という期間はきっと、わたしが覚悟を決めるための猶予なのだ。
0
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
うわさの行方
下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。
すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。
戦場から帰るまでは。
三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。
ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる