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Episode.03 旅立ちの日は近く
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しおりを挟むお兄様の旅立ちはもう4年前。そして、あと10日が経てばわたしも旅立つこととなる。学院ーーーフロール国立貴族学院へ。
「ルクリアお嬢様、昼食にいたしましょう。」
声をかけてきたのはメイドのリーンだ。どうやら昼の鐘はもう鳴っていたらしい。
「…ええ。」
机の上に広げた地図を見ながら応える。
フロール王国の王都から幾つかの領地を挟んだ南西に位置するのがピンセアナ伯爵領である。その気候から種類の豊富な農作物の出荷が盛んだ。特に甘みのある果実が人気らしい。
地図の上に置いた本には小さい文字で各領地の天候やら特産品やらについてつらつらと書いてある。
また別の本は貴族図鑑のようなもので、貴族一人ひとりについての情報がメモ程度に書かれている。ちなみにこれはお父様がお兄様のために書いたものだ。
「お嬢様。」
「…なあに。」
隣国であるシエロという国との国境にあるのがレウコスタキス侯爵領である。その軍事力は国内でも最高峰といわれているらしい。
「昼食に、いたしませんか。」
「…そうね。」
レウコスタキス侯爵様夫人は王家の血筋を持つ公爵家の出身らしい。わたしは顔を知らないけれど、セネシオ様の顔を見たらある程度予想はできる気がする。
「お嬢様!」
当然の大きな声にびっくりしてリーンの方へ向く。
「お昼にいたしましょう。」
「え、ええ…。そうね、もうそんな時間なのね。」
「お昼の鐘はとっくに鳴っていますよ。」
メイドらしくなく、少し怒った様子のリーンに不思議に思う。なぜあんなに機嫌が悪くなったのか。
「それと、旦那様に呼ばれていますので、昼食の後でいいそうなので、先に昼食をとりましょう。」
「ありがとう、リーン。」
机の上を軽く片付け、テーブルへと席に着く。お父様、なんの用事があるのだろう。あれ以来、少しは話すようになったけれど、それでも部屋に呼ばれるようなことは今までなかった。
「お嬢様、勉強熱心なのはいいことですが、食事と睡眠はきちんととらねば体調を崩してしまいますよ。」
「そうね、気をつけるわ。」
この時期の呼び出しということは、やはり学院関連のことだろうか。
そんなことを考えながら食事をしていると、リーンの視線が刺さる。貴族は何をするにも使用人がついてくるし、ずっと視線は付き纏う。
家でのそれには少し慣れたと思う。正しくは、自分の恐れを表に出さないことに慣れた。
けれど、学院はまた違った世界だ。貴族たちが蠢くところでわたしは生きていけるのだろうかと、今更そんなことを考えている。
10日という期間はきっと、わたしが覚悟を決めるための猶予なのだ。
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