引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

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Episode.03 旅立ちの日は近く

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 ーーーコンコンコン

 「旦那様、お嬢様をお連れしました。」

 ルクリア付きのメイドであるリーンの言葉にハンスがこちらに視線を寄こした。

 「通せ。」

 ハンスが礼をとり、その扉を開ける。

 「失礼いたします。」

 扉が閉まった後、淑女らしくそう告げた娘はもうすぐ10の歳になる。10になるときにはやけにしっかりしていたあの息子とは違い、この娘はいまだ頼りない。しかし、妻に言わせればこれでも成長したらしい。


 つい先日、妻に「あの娘は頼りないな」と口にしたところ、普段大人しい彼女が少し怒っている様子を見せた。

『あの子はあの子なりに頑張っていますわ。』

 吃驚してコーヒーに飲む手が止まったのを覚えている。普段はええ、そうねと穏やかに微笑む彼女には珍しい反応だった。

 『貴方はあの子に関わりたがらないから知らないのでしょうけど、あの子、とっても成長したの。貴方にとってはまだまだでも、頑張っていないわけでも成長していないわけでもないのだから、そんなこと言わないでほしいわ。成長のスピードは人それぞれだもの。』

 どんな子供でも、その頑張りを、成長を、見守ってあげるのが親という存在の役割でしょう?

 最後にそう付け加えられれば、もう私が返す言葉はなかった。


 娘ーールクリアがこちらを見ている。いつも人の目を見ようとしない彼女にしては珍しいとそちらを向くと、一瞬目が合い、そしてパッと視線が逸れた。

 自分が見るぶんにはいいが、見られるのはだめということだろうか。

 「その…、大丈夫か。」

 わざと視線が合わないように書類を見ている風を装って言ったが、自分でも何が大丈夫なのか聞いているのかわからないくらいだった。自分ばどうやら動揺しているらしい。

 「…それは、学院へ行くことに対して、でしょうか。」

 当然だが、彼女は困惑した面持ちでこちらへ尋ねた。

 「ああ。」

 まあ、この時期に呼んだのだ。それが一番無難な発想だ。そして私もそれに便乗した。

 「…やはり不安はあります。お父様もご存知の通り、私は貴族としてはまだ未熟者ですので。」

 恭しくそう告げた娘に、ついと応える。

 「それでも、頑張っているのであろう。」

 「…え。」

 驚く娘に私も驚く。自分の口から出たとは思えない言葉だ。

 「自分のペースで成長すれば、それでいいだろう。」



 照れ隠しに視線を逸らしつつ告げた言葉に娘は「はい。」と応え、その対面は終わった。

 娘の顔がどこか嬉しそうに見えたのが気のせいでなければいいと思う。



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