引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

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Episode.03 旅立ちの日は近く

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 今日はいつもより少し早い朝を迎えた。朝日に喜ぶ薔薇の匂いが鼻をくすぐる。甘くて、優しい匂い。

 ソフィーナとリーンの手を借りて着替え、お父様とお母様と一緒に朝食をとる。美しく食べ進めるお母様に対し、今日のお父様はちらちらと視線がさ迷って忙しない。

 困惑するわたしにお母様が微笑む。大丈夫よと言われたような気がして、微かに頷き料理を口に運んだ。



 「ルクリア。」

 わたしの荷物を積んだ馬車は前日に発ったことを知ったのはついさっきだ。先に準備をしなければなりませんから、とソフィーナに教えてもらっているところで、お父様がわたしを呼ぶ。

 ソフィーナは静かに後ろへ下がった。

 「…学院はそんなに悪いところではない。」

 それだけを告げ、お父様は仕事に戻ると背を向けた。

 「心配しなくていい、と言いたかったみたいね。」

 「お母様?」

 お母様は少しおかしそうに笑った。

 「恥ずかしがりだから。あの人もあの人なりに貴女を心配しているのよ。」

 そうなのだろうか。いや、お母様が言うのだから間違いはないはずだ。お父様は、私を心配してくれているらしい。その事実は少し嬉しかった。

 「ルクリア、私は貴女の頑張りを誰よりも認めているわ。」

 力強く、しかし淑やかに微笑んでみせるお母様。わたしを、導いてくれた人。支えてくれた人。


 「お母様、今までありがとうございました。」


 礼とともに言った言葉にお母様が笑う。

 「今生の別れではないのだから。…頑張ってらっしゃい。」

 「はい。」

 お母様が王都への移るのは半年後の予定らしい。ピンセアナ領は以前からお父様とお父様の甥が経営しているそうだ。お父様は王都での仕事が多いようだから当然だろう。


 「それと、これを貴女に。」

 お母様がメイドから受け取り、わたしに差し出す。

 「ありがとうございます。」

 受け取った瓶の中で液体がゆらりと波打つ。香ったのはあの薔薇の匂いだった。

 「これは…。」

 「ええ、貴女の好きな〝ルクリ・スア〟の香油よ。」

 香油、と小さく呟く。

 「他にもいろいろと加えているけれど、その匂いが香り立つようにお願いしまの。」

 精油でも良かったのだけれど、香油の方が使い勝手がいいでしょう?

 お母様はそう言って微笑む。

 「…お母、様。」

 不安だった。不安で不安で堪らなかった。知らない人しかいないようなところで、これから過ごしていかなければならないことに。

 それでも、この匂いがあれば、頑張っていけそうだと思った。


 「わたくし、がんばります。」



 そしてわたしはピンセアナ伯爵領を旅立った。向かうのは王都にある学院。お兄様のいる場所だ。



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