引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

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Episode.04 恐ろしいところ

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 学院に着いたのはあれから4日が経った頃だった。学院に降り立つまでのお世話を任されたソフィーナはわたしの向かいに座っている。

 立派な門からさらに馬車で進み、数分。広い庭園から緑のアーチを抜けると、陽の光を浴びて聳え立つのは学院の本校舎。そしてその右側に初等院の校舎が連なっている。

 馬車が集まる様を見て顔を青ざめつつ、呼吸を整えようと胸元に手を置く。ドキドキとどうやっても早まる鼓動にリズムを崩した息が零れる。

 胸元の手を髪へと動かし、ハーフアップの残りをくん、と嗅ぐ。馬車の中でぜひとソフィーナが毛先に塗り込んだのは薔薇の香油。ふわりと香るその匂いに泣いてしまいそうだ。

 「大丈夫ですよ、ルクリアお嬢様。」

 ソフィーナは優しく微笑んでくれるけれど、彼女だってこれ以上は傍にいられない。

 「…ええ。」

 それでも、どうあってももう引き返すことはできない。〝ルクリ・スア〟を味方にただひとりで歩まねばならない。

 「ソフィーナ、…貴女にもたくさん迷惑をかけたわ。今まで本当にありがとう。」
 
 また家に帰ったときはよろしくね、最後にそう付け加えたところでソフィーナの瞳がうるうると涙で溢れそうになっていることに気付く。

 「っ…、お嬢様。私、お嬢様にお仕えすることができて幸せです。周りの人が何を言おうと、私にとって最高の主はルクリアお嬢様です。」

 ポロリと零れた涙をハンカチで拭う。

 「お嬢様、ハンカチが汚れてしまいます…っ。」

 「ではこれは貴女が持っていて。」

 手に持った淡いピンク色のハンカチをソフィーナへと押し付ける。

 「貴女がそう言ってくれて凄く嬉しい。貴女がわたしを認めてくれたように、わたしが貴女を認めているわ。これはその証に、貴女が持っていて。」

 そのハンカチはわたしが刺繍を入れたものだ。淡いピンク色はわたしの髪の色。そこに刺繍したのはやはりあの〝ルクリ・スア〟。本物よりも濃いピンク色で刺繍した薔薇は少し歪だけど、今のところ一番の出来だ。

 「いえ、しかし…っ。」

 「貴女は涙に濡れたハンカチをわたしに持てと言うの?」

 「いいえ!」

 「それなら代わりに持っていてくれるわね。」

 「…はいっ。」


 そしてわたしは開け放たれた扉からその地へ降り立つ。見たこともない顔の騎士が差し伸べた手に、震える手を乗せて。


 ここからは、ひとりで。


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