24 / 41
Episode.04 恐ろしいところ
2
しおりを挟む「お手をどうぞ。」
きちりと、騎士らしい美しい姿勢で差し伸べられた手。心配そうな視線を向けるソフィーナを背に、わたしは震わしながら、それでもその手に自らの手を置いた。
緊張のあまり足元がふらつくわたしを見てか、騎士様が緊張に息を飲んだのがわかった。
「騎士様、ありがとうございます。」
自分より下の身分の者に礼はいらないと教えこまれたので、感謝の気持ちは言葉だけに留める。わたし、貴方の手がなければ必ず落っこちていました、と心の中で呟く。
「いえ、仕事ですので。それと、私に様などと敬称は付けぬようお願いします。」
一瞬驚いたような顔を見せたものの、騎士様は真面目そうな、堅い顔つきでそう言った。
知らない人というだけでも十分怖いのに、そんな顔をしないで欲しいと密かに訴えつつ、小さく頷く。案内時の護衛であれば、顔を合わすのも今だけのはずだ。
「お嬢様、お初にお目にかかります。本日よりお嬢様のメイドとして働かせていただきますソフィと申します。」
無駄のない動きで挨拶を終えたメイド服の女性、ソフィは自身に溢れた笑顔でこちらを見る。
どうすればそんな自信の溢れた笑顔を作ることができるのだろう。自分には到底できない笑顔に自然と体が後ろへ下がる。
それは分厚い仮面のようで、わたしは怖くて仕方がなかった。ソフィーナと似た名前なのに、安心なんてできそうにもない。
「…ご挨拶ありがとう、ソフィ。わたくしはルクリア・ピンセアナです、今日からよろしくお願いします。」
逃げずにそう言えただけ成長したと思いたい。にこにこと笑顔のソフィは「それでは、お部屋に案内させていただきます」とゆったりした歩調で歩き出した。
この場から逃げる想像をしては自己嫌悪に陥り、息苦しさを感じながらその後を着いて行く。後ろから聞こえる足音が逃がさないとでもいうようで、さらにわたしを追い詰めた。
「歩きながらの説明にはなりますが、お嬢様が住まわれるのは初等部の校舎を抜けた建物となります。」
ついと、両手を喉元へ持っていきそうになって、我慢する。それは、上品ではない行動だ。
「距離がありますが、これからは寮から毎日歩いて移動しなければならないのでご容赦ください。」
それは困るな、と思った。距離が長ければ長いほど逃げたくなってしまう。近い方が良かったのにと考えていると、次の言葉にその考えは消し飛ばされる。
「私たちメイドは主に身の回りのお世話をさせていただきますので学院の方へはお供できないという決まりになっております。代わりにというわけではありませんが、そちらにいらっしゃる騎士様がルクリアお嬢様の護衛を担当してくださいます。」
足を止め、恐る恐る振り返ると、仏頂づーーー真面目な顔を崩さずにその騎士様はこちらを見る。
「よろしくお願いいたします。」
真面目であることに間違いはないのだろう。やはりきちりとした姿勢で言われ、顔が引き攣るのがわかった。
ああ、今にも息が止まりそう。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
うわさの行方
下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。
すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。
戦場から帰るまでは。
三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。
ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる