引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

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Episode.04 恐ろしいところ

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 「…こちらこそ、よろしくお願いします。」

 騎士様、と言おうとしてやめる。この呼び方はしないようにと言われたばかりだ。それだと、なんと呼べば良いのかわからず、視線を彷徨わせる。

 わたし不自然な態度に気付いたのか、騎士様は仕方がないというよに溜め息を吐く。そして、わたしに腰をさげる剣を渡す。

 反射的受け取ったそれは両手でも受け止めきれるものではなく、ガシャンと剣先が床に落ちる。なぜわたしに渡すのかと思いながら騎士様を見ると、彼は床に片膝をつき、頭を垂れていた。


 「騎士ディルクと申します。ルクリア様が学院を卒業されるまで、この身に代えて守護することをここで誓います。」

 
 呆然とするわたしに彼は顔を上げこちらを見る。早く、と急かされているのはわかるが、何をしろという意味なのかがわからない。そもそも、これは何をしているのかさえもさっぱりなのだ。

 「まぁ!ルクリア様、私もお手伝いいたしますので彼に剣を渡してください。」

 ソフィは小声で彼に剣を渡せと言う。それではなぜわたしに渡したのかと思いながら、ソフィの手を貸してもらい剣を両手に持つ。

 「ルクリア様、私の剣を預けます、と。」


 「騎士ディルク、貴方にわたくしの剣を預けます。」


 そっと剣を返すと、騎士様ーーーディルクは恭しい態度で剣を手にした。

 ディルクが立ち、剣を腰に差すと空気がふっと軽くなった。ソフィはどこか興奮した様子だが、わたしは今の行為に何の意味があったのかがわからないまま。

 「…ソフィ、今の行為はどういう意味があるのですか。」

 後から寮に案内される人々からの視線を避けるように歩き出しながら、わたしはソフィに尋ねる。積極的に会話したいわけではないが、今の行為については知るべきだろうと思う。後ろから物珍しげに刺さる視線が痛い。

 「今のは〝騎士の誓い〟ですわ、ルクリア様。ご存知ありませんか?」

 「…騎士の誓い、ですか。わたくしは聞いたことがありませんね。」

 振り返ると笑顔度の増したソフィに顔が引き攣る。にこにこ顔のソフィと話しているとわたしの何かが削れるような気分になるのだ。


 「は?」


 後ろの足跡が消えたと振り返れば、呆然としたディルクがこちらを見ていた。

 「…ディルク、どうかしましたか?」

 「騎士の誓いを知らぬなど嘘でしょう?」

 質問に質問で返される。そしてなぜか嘘を言っていると。

 「嘘ではありませんが…。」

 「ディルク様も見たでしょう。ルクリア様は誓いの言葉に返す定型文さえご存知なかったのですから、本当にご存知ではないのですよ。」

 ディルクは未だ呆然とした顔だ。

 「それでは、あの視線の意味は…、っ!」

 ディルクがキッとどこかを睨む。騙された、という声に、そういえば騎士の誓いがどういう意味を持つのか聞いてなかったと思い出す。

 「ソフィ、あの誓いはどういう意味なのですか。」

 「あれは騎士にとってとても大切なものなのですよ。ルクリア様が剣を渡すということは、自分の守護を任せるということです。」

 なるほど、だからわたしに一度剣を預けたのかと感心する。


 「そして、騎士が剣を渡し誓いの言葉を述べるということは、その人を主と認め、逆らうことなく従うということを意味しています。」


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