引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

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Episode.04 恐ろしいところ

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 「え…?」

 今、ソフィはなんと言っただろうか。


 『その人を主と認め、逆らうことなく従うということを意味しています。』


 少なくとも、現状でわたしがディルクに認められたことなど一つもない。貴族としても褒められたものではないわたしに真面目な彼が認める要素など欠片もないのだ。

 それが、主と認める、とは。

 そんな大事な儀式を安々とこんな人間にして良いのだろうか。いや、普通に駄目だろう。


 「…貴女は、この儀式を知らなかったのですね。」

 青い顔のディルクは、どこか諦めた様子でわたしに問う。

 「そう、です…。」

 真面目そうな顔から覇気が消えているし、少し笑った口元は力が全く入っていないように見える。

 さすがに、これを放置というわけにはいかないだろう。

 「…ディルク。なぜこの儀式をしようと思ったのか、聞いても良いですか?」

 騙された、という辺り、何か彼の中で盛大な勘違い、誤解のようなものがあったのではないだろうか。

 勇気を出して尋ねた言葉に、ディルクが応えようと口を開くと、ソフィの声が間に割り込む。

 「ルクリア様、ディルク様と仲を良いものにしようとすることは良いのですが、それはこの場ではなく、お部屋の方がよろしいかと思います。」

 ぐるりと周囲を見渡せば、たくさんの目がわたし達を見ていた。

 ヒュッと息をのむ。駄目、意識しては駄目。

 「…そ、う、ですね。」

 酸素が薄くなったような気がして、さらに息を吸う。違う、吐かなくては。息を吐けば、自然と吸うのだから。

 耳元で心臓が鼓動して、気付けば手に汗をかいている。深呼吸、深呼吸。慎重に、ゆっくりと、息を吐く。もう一度。さらにもう一度。 

 大丈夫、大丈夫と言い聞かせて歩みを進める。隙を見せてはいけないと、お母様は言っていた。

 気分が悪くなるのを自覚しながら、また一歩踏み出す。丁寧に、リズムを狂わすことなく。


 「こちらです。」

 その言葉にハッと息を吐いて、張り詰めていたものが解けた。気道に詰まっていた綿のようなもやもやが綿飴のように溶けて酸素が肺に入ってくる。

 大きな安堵に、我慢していた気分の悪さが一気にせり上がり、視界が眩むのがわかった。頑張ったよ、わたし。そっと自分を褒めて。



 そして、わたしは意識を失った。



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