引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

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Episode.04 恐ろしいところ

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 小さい頃、母に手を引かれてあの公園を歩いた記憶がある。それは一度や二度の話ではなく。

 母が保育所に迎えに来た帰り道、いつも手を繋いで、あの公園でゆっくりするのが決まりだった。記憶はないけれど、その時からわたしの人見知りは激しかったらしく、馴染めない保育所でよく泣いていたそうだ。

 そして、帰り道、母はわたしの手を引いて公園のベンチに座らせる。

 『今日はどんなことがあったの?』

 『大丈夫よ。』

 『あなたは優しい子だもの。』

 きっと、あの日々から、〝大丈夫〟はわたしにとって特別な言葉だった。優しい声色で告げられる〝大丈夫〟は、きっと、わたしが安心を覚える魔法の言葉。

 そして、今ではあの言葉に安心することが、ルクリア・ピンセアナとして生まれたわたしが、あの優しい人の子供であったことを証明する唯一のものなのだ。

ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー


 「…ですね。まあ、…から…と…。」

 声が聞こえる。あの優しい人の声ではない。お兄様でもない。お母様でもない。ソフィーナやリーンの声でもない。


 ここは、どこだろう。


 そんなことを思ったところで意識がはっきりとして、視界が開ける。

 柔らかいベッドに体を預けたまま、首を声のする方へと向けると、ピンセアナ家のものではないメイド服と、それから白い衣を羽織った人の姿が見えた。

 「……ソ、フィ。」

 メイドの名前を呟けば、彼女はバッとこちらを振り返って、それから慌てた様子でこちらへ寄ってきた。

 その勢いに怯えてベッド上で身を引くと、彼女は自分の行動に恥じた様子で礼をとった後、ゆったりとわたしの傍へ寄り添う。

 「ルクリア様、お加減はいかがですか?」

 そして、またにこにことメイドらしい表情へと姿を変えた。なぜそうも全てを隠して笑うのだろうと怖がりながらも言葉を返す。

 「…今は大丈夫です。迷惑をかけてごめんなさい、ソフィ。」

 「いえ、私はルクリア様のメイドですから、迷惑をかけていただかないと困りますから。」

 微かに眉を下げたソフィに、迷惑をかけたこと、心配させたことに対する申し訳なさが胸を占める。

 「けれど、急に倒れたのでとても驚きました。ルクリア様の体調の悪さに気づけず申し訳ありません。」

 メイドとして失格ですね、と柔らかい表情を見せたソフィ。彼女の素の表情に、少しだけ警戒心が溶けて、わたしは微笑んでみせた。

 「いえ、体調が悪かったわけではないので。それより、あちらにいるのは?」

 ソフィよりも奥で、こちらを優しく見守る男の人。何となく、医者だろうと予測できるけれど、彼がわたしを見てどう考えてのか。


 これが、心理的なものであると気づいてしまったのか、わたしは怯えていた。



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