34 / 41
Episode.05 始まりの鐘
2
しおりを挟む講堂の真ん中に、新入生らしき面々が横二列に並ぶ。前列は15人程度で、わたしは2列目の最後に並び立つ。
その並びは明らかに貴族階級の並びであり、しかし、先頭ともいえる前列一番端には公爵家のご令嬢が美しく立っていた。
それ以降は子爵令嬢、子息から始まり、わたしの隣には伯爵家のご子息がいる。
初めて会う人が隣にいることも、多くの高貴な人間に見られることも、わたしにとっては栄誉なんてものではない。ただひたすらにくるしいだけのものだ。
しばらく経ち、侯爵令嬢が並ぶと、講堂にいる全ての人が立つ。
鐘が鳴った。
王がその姿を現し、その口を開く。初めての王との対面に新入生の間に緊張がはしり、わたしは体の震えを隠し、全ての視線から逃れるように俯いた。
〝この国に仕える者たちよ、その血に誓え〟
ふいに聞こえた声は、聴覚から聞こえたものではなかった。まるで頭の中で自分ではない別の誰かが話しているような感覚。
「彼らは国霊だ。この国に住みつく特別な存在であり、国を良くするために我らの手助けをしてくれている存在である。」
王は静かに告げる。そんな存在は聞いたこともない。しかし、貴族らしく驚くもののざわつく人間はいない。
穏やかな表情の王の胸元には、新入生と同じ国花である白いグレイスの花が咲いていた。
「彼らが力を貸すのは国に仕えると誓った者のみ。我らは血判をすることで彼らに違う。」
王が示した紙には、白いグレイスの花が漉かれていた。
〝誓え。その身を捧げよ〟
国霊が求める。
「前へ。」
王が促す。
最初に動いたのは新入生の中で最も高貴な身分である公爵令嬢だった。講堂の脇に控えていた彼女の護衛騎士が、王の立つ壇上へと彼女を導く。
そして彼女が手を出せば、心得たように短剣を取り出しその柔肌を傷付けた。彼女は静かにその指を紙へと押し付けた。
彼女に習い、講堂への入場と同じ順番に血判を押す。
次はわたしだ。息を呑む。そして、重たい足を無理矢理引きずって前へと進み出た。
視線の先でディルクがこちらを見ている。
「行きましょう。」
小さな声が聞こえる。微かに震える手を彼の手にのせ、壇上へと立った。
背中に突き刺さる視線たちに殺されそうだと思って、それから、いっそ殺してくれたら、と小さく笑った。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
うわさの行方
下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。
すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。
戦場から帰るまでは。
三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。
ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる