引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

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Episode.05 始まりの鐘

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 白衣のフレッドの言葉に、式典で見た新入生たちが頭の中に浮かぶ。

 彼らと、これからも共に過ごすのであれば、ここでゆっくりと休んでいるわけにはいかないだろうと思う。今日休んでいるだけでも、十分なマイナスになり得る。

 貴族の考えまではわからないけれど、わたしなら初日から連日休むような子は関わりにくい、と思う。あくまでも、友達を作れないどころか、ただ話すこともろくにできないわたしの想像だけれど。


 「感染という可能性は低そうですので念のため解熱剤だけ処方いたしましょう。」

 白衣のフレッドは、黒い鞄の中をあさり、小袋に入った2錠の錠剤を取り出す。

 「今はお辛いでしょうけれど、少しでもご飯を食べてからこの薬を飲んでください。それでも熱が下がらないようでしたら次の食後にもう1錠飲むようにしてくださいね。」

 ボーッと薬を見つめるわたしに反して、ソフィはコクコクと勢いよく頷いている。

 「何よりも、今はまず体を休めることがだいじですからね。何も考えず、ただただ休んでいてくださいな。」



  ソフィに薬を渡し、白衣のフレッドはすぐに退室した。

 用意された胃に優しそうな食事を食べていると、心が少し軽くなっていることに気付く。

 食事はあまり食べることができなかったけれど、薬は飲まなければならない。飲み込みにくい錠剤を嫌々口に入れ、白湯で流し込んでまたベッドに横になる。


 白衣のフレッドがこの部屋ここにいたのは本当に短い時間だった。人が苦手なわたしに合わせて最短の時間にしたとしか思えない。

 それでも、心は軽くなった。

 前世のわたしが怯えて近づかなかっただけで、きっと、彼らは心の弱っている人に優しいのだ。寒い日の、温かいコーンスープみたいに。



 その後は、白衣のフレッドの言う通り、ぐっすりと眠った。〝ルクリ・スア〟の優しい香りは、弱ったわたしの心に優しかった。


 心地好い空間に、わたしの意識は静かに途絶えた。



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