引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

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Episode.05 始まりの鐘

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 朝、目が覚めると、あれほど不調を訴えていた体は驚くほど軽くなっていた。昨日のあれが嘘のように思えるほど。

 「ルクリア様、おはようございます。」

 礼をしてベッドへと歩み寄ったソフィは、安心した様子で笑っていた。

 最初に日と比べると、素の表情が多くなったように感じる。もしかすると、彼女自身が白衣のフレッドの言葉を意識しているのかもしれない。



 「汗もかいたようですので湯浴みにいたしましょう。」

 珍しく積極的なソフィに連れられて浴場へ入ると、薔薇の匂いがそこを満たしていた。


 「…薔薇の、香り。」


 肺まで満たす香りにそう零すと、ソフィはええ、とどこか嬉しそうに頷く。

 「ルクリア様はいつも薔薇の香りがするハンカチをお使いになられていますよね。お部屋も薔薇の香りがしますし。」

 明るい表情でソフィは話す。

 「きっと薔薇の香りがお好きなのだろうと考えまして、庭師の方に協力していただきました。」

 ソフィの話を聞きながら、すうっと薔薇に浸された空気を吸い込む。この匂いが、学院の庭に咲く薔薇の香り。

 …いつか、この目で、この鼻で、この手で触れることができればいいな、と思った。


 湯浴みをしながら、ソフィはわたしに言う。

 「私はまだまだ未熟で、ルクリア様がどういった方なのかわかっておりません。」

 ソフィーナ以外の他人に頭を洗われる感覚はまだ慣れない。ソフィーナとは違う違和感を感じながら目を閉じる。

 しかし、聴覚はしっかりとソフィの言葉を捉えていた。

 「ですから、私、ルクリア様が安心できる空間を作れるよう精進いたします!」

 バシャバシャと髪の毛を雫が伝う。良い人だなあ、と思った。

 「私に言いたいことかあれば不平不満でも、何でもでも仰ってください。私、へこたれませんし、より良いものへと改善してみせますので!」

 振り返ると、その瞳をキラキラとやる気に満たしたソフィがいた。

 本当に、初めて会った日の彼女とはまるで別人。やる気に満ちたソフィは美しかった。

 「…ありがとう、ソフィ。…そう言ってくれると、とても嬉しい。」

 頑張って浮かべた精一杯の笑みに、ソフィはメイドらしく、でも嬉しそうに「はい。」と応えた。


 「…ソフィ、せっかくだから一つだけ、…良い?」

 恐る恐る尋ねたわたしに、ソフィは意気揚々と応えてくれる。



 「わたしは薔薇の香りが好きというより、〝ルクリ・スア〟という薔薇の香りが好きなの。」


 ソフィのやる気に満ちた瞳がショックに染まった。



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