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第26話 ミモザ
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呼びかけから少しだけ待つと、特定班のみなさんから返信があった。
《ミモザさん会話おけ。ていうか、向こうもトベと話したいらしい》
《こっちはセッティング済み。あとは話すだけだから、トベに任せたぞ》
ゼインさんとアカリが見守る中、僕はキングライブスの画面越しに、ミモザさんとコンタクトを取った。
「はじめまして、トベと申します。ミモザさんでよろしいでしょうか?」
少し躊躇するような沈黙のあと、返答があった。
「……はい」
その声を耳にした瞬間、本人だと確信したのだろう、ゼインさんが身を乗り出すようにして呼びかける。
「ミモザ! ワシじゃ、ゼインじゃ!」
「お、お師匠さま……! ……本当に……申し訳ありませんという言葉では、足りないほどのことを……」
「それは違うぞ、誰もそなたを責めている者などおらぬ。どうか無事であってほしいと、皆それだけを願い続けて生きてきた。そちらでは、元気にやっておるのか?」
「はい……食堂の方々も良い方ばかりで、行くあてのないわたしを快く受け入れていただきました。お師匠さまに教わりました、人生の指針のおかげです」
「ミモザ……。本当に……無事でよかった……!」
あふれ出る涙を抑えられないまま、ゼインさんは僕たちに深々と頭を下げた。
いえ、僕なんかなにも大したことはできていません、頑張ったのは特定班のみなさんとアカリですから。
僕はゼインさんと交代して、ミモザさんに呼びかけた。もっとも重要な『あのこと』について、ミモザさんは一体どう考えているのか……。
「ミモザさん、大事なお話があります。それはミモザさんもずっと気にかけてこられたでしょう、ブレイズさんのことです」
ブレイズの名前を聞き、ミモザさんの反応がこれまでと明らかに一変したのがわかった。
「ああブレイズ……! あ、あの人は元気に暮らしていますか? あんなに剣の才能にあふれていた人ですもの。きっといまごろは剣術の先生になって、幸せな家庭を築いているのでしょうね」
ミモザさん……いまブレイズがどんな暮らしをしているのか、知らなかったのか……。
……どうする? 世の中には知らなかったほうが幸せだった真実なんてたくさんある……。僕の配信者としての才能が1しかなかったなんてことも、ずっと知らないでいたほうが幸せだったのかもしれない。
でも……でも……世の中にはそれでも、時には『直視しなければならない真実』があると思う。だって、知らないということは、真実から目を背けているのと一緒だから。
たとえそれを知ることが、自分にとって苦しいことだったとしても。知らないでいるままのほうが、ずっと不幸な気がするんだ。
なにも知らないまま、偽りの幸福の中で生きていくのなら、僕は真実を知って後悔したい。たとえそれが、自分にとって不都合な真実であったとしても。
しばしの逡巡のあと、僕はミモザさんにいまのブレイズの『残酷な真実』を告げた。
「……ブレイズさんは、あなたが失踪してから二十年間、一度も剣を握っていません。それをすると、あなたに二度と会えない気がして。ブレイズさんはあなたの帰りを、いまでもずっと待ち続けているんです」
僕が真実を伝えた瞬間、ミモザさんはあまりの衝撃に絶句した。
「ミモザさん、お辛いでしょうが事実です。ブレイズさんはいまもずっと、あなたのことを想い続けているんです」
「ブレイズ……。ああ……なんて……なんてこと……」
「ブレイズさんのために、なんとかこの町に戻ってきていただけないでしょうか。ゼインさんもお二人の関係に、ずっと心を痛めておられました」
「ミモザ、頼む、戻ってきてやってくれ!」
「ミモザさん、わたしからもお願いしますっ!」
《ミモザさーん!》
《どうか戻ってやってくれよ~!》
《みんながあなたの帰りを待ち望んでますよ~!》
《ミモザカムバ~ック!》
僕、アカリ、ゼインさん、視聴者のみなさん、すべての人からの熱烈なラブコール。これだけみんなに熱く呼びかけられたら、ミモザさんの固く閉ざされた心もきっと開いてくれるはず。
が。
ミモザさんの返答は、そんな僕の安易な予想を遥かに超えるものだった。
《ミモザさん会話おけ。ていうか、向こうもトベと話したいらしい》
《こっちはセッティング済み。あとは話すだけだから、トベに任せたぞ》
ゼインさんとアカリが見守る中、僕はキングライブスの画面越しに、ミモザさんとコンタクトを取った。
「はじめまして、トベと申します。ミモザさんでよろしいでしょうか?」
少し躊躇するような沈黙のあと、返答があった。
「……はい」
その声を耳にした瞬間、本人だと確信したのだろう、ゼインさんが身を乗り出すようにして呼びかける。
「ミモザ! ワシじゃ、ゼインじゃ!」
「お、お師匠さま……! ……本当に……申し訳ありませんという言葉では、足りないほどのことを……」
「それは違うぞ、誰もそなたを責めている者などおらぬ。どうか無事であってほしいと、皆それだけを願い続けて生きてきた。そちらでは、元気にやっておるのか?」
「はい……食堂の方々も良い方ばかりで、行くあてのないわたしを快く受け入れていただきました。お師匠さまに教わりました、人生の指針のおかげです」
「ミモザ……。本当に……無事でよかった……!」
あふれ出る涙を抑えられないまま、ゼインさんは僕たちに深々と頭を下げた。
いえ、僕なんかなにも大したことはできていません、頑張ったのは特定班のみなさんとアカリですから。
僕はゼインさんと交代して、ミモザさんに呼びかけた。もっとも重要な『あのこと』について、ミモザさんは一体どう考えているのか……。
「ミモザさん、大事なお話があります。それはミモザさんもずっと気にかけてこられたでしょう、ブレイズさんのことです」
ブレイズの名前を聞き、ミモザさんの反応がこれまでと明らかに一変したのがわかった。
「ああブレイズ……! あ、あの人は元気に暮らしていますか? あんなに剣の才能にあふれていた人ですもの。きっといまごろは剣術の先生になって、幸せな家庭を築いているのでしょうね」
ミモザさん……いまブレイズがどんな暮らしをしているのか、知らなかったのか……。
……どうする? 世の中には知らなかったほうが幸せだった真実なんてたくさんある……。僕の配信者としての才能が1しかなかったなんてことも、ずっと知らないでいたほうが幸せだったのかもしれない。
でも……でも……世の中にはそれでも、時には『直視しなければならない真実』があると思う。だって、知らないということは、真実から目を背けているのと一緒だから。
たとえそれを知ることが、自分にとって苦しいことだったとしても。知らないでいるままのほうが、ずっと不幸な気がするんだ。
なにも知らないまま、偽りの幸福の中で生きていくのなら、僕は真実を知って後悔したい。たとえそれが、自分にとって不都合な真実であったとしても。
しばしの逡巡のあと、僕はミモザさんにいまのブレイズの『残酷な真実』を告げた。
「……ブレイズさんは、あなたが失踪してから二十年間、一度も剣を握っていません。それをすると、あなたに二度と会えない気がして。ブレイズさんはあなたの帰りを、いまでもずっと待ち続けているんです」
僕が真実を伝えた瞬間、ミモザさんはあまりの衝撃に絶句した。
「ミモザさん、お辛いでしょうが事実です。ブレイズさんはいまもずっと、あなたのことを想い続けているんです」
「ブレイズ……。ああ……なんて……なんてこと……」
「ブレイズさんのために、なんとかこの町に戻ってきていただけないでしょうか。ゼインさんもお二人の関係に、ずっと心を痛めておられました」
「ミモザ、頼む、戻ってきてやってくれ!」
「ミモザさん、わたしからもお願いしますっ!」
《ミモザさーん!》
《どうか戻ってやってくれよ~!》
《みんながあなたの帰りを待ち望んでますよ~!》
《ミモザカムバ~ック!》
僕、アカリ、ゼインさん、視聴者のみなさん、すべての人からの熱烈なラブコール。これだけみんなに熱く呼びかけられたら、ミモザさんの固く閉ざされた心もきっと開いてくれるはず。
が。
ミモザさんの返答は、そんな僕の安易な予想を遥かに超えるものだった。
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