インビジブル(超・本格推理小説)

冨井春義

文字の大きさ
3 / 32
2009年7月

見えない少年3

しおりを挟む
「ただいま」

 宮下真奈美が帰宅すると、リビングの方角から母が姿を現した。

「おかえりなさい。あら?真奈美、どうしたの?珍しいわね、にやにや笑いなんか浮かべて」

(・・・え?)

 真奈美は自分の表情に気づいていなかったが、確かにその顔には明るい笑みが浮かんでいたのだ。

「でもいい事よ。お母さん、ここのところ真奈美がふさぎ込んでいるみたいに見えて心配だったのよ」

 たしかに母は日ごろから、真奈美があまり感情を表に現さないことを気にしていた。

「心配かけてごめんなさい。うん、でもなぜかしら今日は気分がいいの」

 本当にこんなに気持ちが晴れ晴れしているのは久しぶりだった。

『どうしたのかしら?こんな明るい顔、もう長らく見たことないわ。もしかしたらこの子、誰か好きな人でも出来たんじゃないかしら?』

 そう母の心の声が聞こえた。

(好きな人?まさかそんな。。。)

 真奈美は男性に恋愛感情を持ったことが一度も無い。どんなに素敵に見える男性でも、その醜い心の中がわかってしまう真奈美にどうして恋ができるだろうか?

(でも、山口君の心の声は聞こえない。だからもしかしたら私、山口君に恋愛感情を持ってしまった?)

 山口肇の顔と声を思い出すと、確かに胸の鼓動が早くなる。

(私があれほど忌み嫌っていた他人の心を読んでしまう能力を、神に与えられたギフトだと言ってくれた、あの人に?)

「大丈夫?真奈美、今度はぼーっとして」

 そう言う母の声を聞いて真奈美は我に帰った。

「あっ、大丈夫よお母さん。ちょっと考え事をしていたの。じゃあ私、お部屋で着替えて来るね」



 自分の部屋で制服から部屋着に着替えた真奈美は、ベッドに腰かけてまた肇のことを考えていた。
 そしてドキドキと高鳴る胸に手を当てて、確信した。

(そうだわ。私は山口君が好きになった。これって間違いなく初恋だよね!)

 真奈美は素直にうれしかった。
 自分に人並の恋愛感情が生まれることなど、この先一生あり得ないと思っていたからだ。
 まるで未来が明るく輝き始めたようにすら思えた。

(明日、学校に行けば私の好きな人が居るんだわ。私の目にだけ見える彼が!ああ、なんだか秘密めいてて素敵)


 その日の夕食時、真奈美は久しぶりに家族の団欒を味わっていた。両親の心の声も全く気にならない。父も母も、明るくなった娘の変化を不思議に思いながらも喜んでいた。


 翌朝。
 真奈美はとても気持ちよく目覚めた。まるで新しい人生の夜明けを迎えたような気分だ。

(窓から差し込む陽光がまぶしくてとても綺麗。どうしたのかしら?本当に気分がいい)

 両親と共に朝食を摂り、家を出て学校に向かう。
 いつもならとても憂鬱なこの時間がとても楽しく思えるのが不思議だった。

「真奈美~おはよう!どうしたの?なんだか今日はとてもうきうき顔ね。いいことでもあった?」

 真紀も真奈美の変化を不思議に思っている。真奈美自身もそうだ。

「なんだかわからないんだけど、今朝はすごく気分がいいの。自分でも不思議」

「ふーん?ああ!もしかして誰か好きな人でも出来たんじゃないの?そういう顔してる」

(好きな人?そんなの出来るわけがない。男子の心が読めてしまう私に恋心なんて芽生えようがないもの)

 でもそれもどうでもいい気がしていた。

「そういうことじゃないんだけど、ただ気分がいいだけ」


 授業中。
 相変わらずクラスメイトたちの心の声が聞こえるが、それは風の音や鳥の声と同じで特に意味を持たない音に聞こえた。

(人の心の声が聞こえることを、それほど忌み嫌う必要ってなかったんじゃないかしら?そうこれはきっと・・神様が私にだけ与えてくれたギフトなのかもしれないもの)

 しかし一体どうして突然このような心境の変化が生まれたのかが、真奈美には不思議でならなかった。
 なんとなく、教室を見回してみた。
 いつもと変わらないクラス。そして見慣れたクラスメイトたち。

(きっと私は成長したんだわ。少し大人になったのかもしれない)

 そう自分を納得させることにした。
 しかし、かすかな痛みをともなう胸の高鳴りの意味を真奈美は理解できずにいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

処理中です...