インビジブル(超・本格推理小説)

冨井春義

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2019年6月

聞き込み2 三上信夫

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 続いて私は松下から少し離れた席で大量の書類を整理している、作業着姿の男性に声を掛けた。

「すみません、ええと三上さんかな。探偵の金田です」

「はい、三上です。金田さんは有名な名探偵さんなんですってね。専務に聞きました」

「いや、そう言われるとお恥ずかしい。少々お時間いただいていいですかね」

「ああどうぞ。社長があんなことになったのが誰かのせいなら、絶対にそいつを見つけてください。なんでも協力しますから」

 三上はもう33歳になるが、いかにも朴訥で人のよさそうな青年といった風貌だった。

「三上さんは社長とは親類関係だとか」

「ええ、私の母が社長の従妹にあたります。僕が中学生の頃に両親が交通事故で亡くなりましてね、引き取り手の無い僕を社長がこの会社に雇ってくれたんです。僕にとっては社長は父親も同然ですよ。それがこんなことになってしまって・・・悔しいです」

 三上は目に涙を浮かべていた。

「あなたから見て社長はどういうお人柄ですか」

「神様みたいな人ですよ。家に住まわせてくれて、僕に一から仕事を教えてくれましたし、勉強も教えてくれました。その気があるなら学校に行ってもいいって言われてたんですけどね、僕は仕事を早く覚えたかったので会社に入ったんです。社長の仕事は神業ですからね、ものすごく憧れました」

「そうですか。こんなこと聞いていいのかわかりませんが、井土さんは後から入社したんですよね。その彼が常務という役職に就いていることについて不満はありませんか」

 三上は顔を綻ばせて答えた。

「ありませんよ。常務はすごく仕事が出来るんです。社長も自分の技術をいちばん受け継いでいるのは常務だと言ってましたからね。僕はどうもどん臭くてだめなんです。とてもじゃないけど、社長や常務のようには出来ません。それに常務はとても僕に良くしてくれています。常務と専務は僕にとってお兄さん、お姉さんみたいな存在なんです」

 三上が本当にそういった自分の立場に満足しているのかどうかはわからなかったが、彼なりの一種の諦観があるように思えた。

「あなたたちは本当に家族なんですね。しかし松下さんは家族ではないようだ。彼の事はどう思っています?」

「松下君はものすごく頭がいいんです。なんといってもT大出ですからね。中卒の僕とは比べ物になりませんが常務も高卒ですし、社長ももともとは高卒で働き始めて、一人前になってから通信教育で大卒の資格を取ったと聞いています。とにかく社長は努力家なんですよ。なので社長は松下君の頭の良さをとても褒めていました。松下君は自分から社長に頼み込んで入社したんです。その熱意も社長はとても気に入っていたようです」

「ええと、社長が亡くなられる前日まで、社員旅行で皆さんハワイに行ってたんですって?」

「はい、社長がみんなをハワイに連れて行ってくれたんです。僕は外国が初めてだったので緊張しましたが、楽しかったなあ・・・まさかその後でこんなことになるなんて」

「最後にもうひとつ。社長が転落死したその時刻、あなたはどこに居ましたか」

「僕は一階でひとりで梱包作業をしていました。何か上の方から怒鳴っているような、叫んでいるような声が聞こえたので、外に出て上を見上げたら、社長が屋上の柵に反り返ってもたれかかるようにしていて、そのままひっくり返るように落ちてきたんです」

「ちょっと待って。すると三上さんは社長転落の瞬間を目撃したんですか」

「はい、見ました」

 これは驚きの証言だった。三上の証言が事実なら、幸助は叫び声をあげながら転落したのではなく、まず叫び声をあげて、その後に転落したということになる。井土の想像が事実であることが証明されるではないか。

「どんな様子でしたか?不審に思ったことはありませんか」

「はい、一瞬の出来事でしたが、社長は何かに抵抗しているように見えました。それで押し切られて転落したように」

「社長の他に人影は見えませんでしたか」

「見えませんでした。社長がひとり相撲というんですかね、目に見えない相手と戦って突き落とされたように見えたんです」

 またも透明人間か・・・私は探偵としての自信が揺らぎそうになっていた。
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