空手バックパッカー放浪記

冨井春義

文字の大きさ
16 / 115

嵐の後

しおりを挟む
ポールと智ちゃんが去ったあとは、食堂の親父が割れたビール瓶をかたずけながらなにか文句を言ってます。中田さんが多分タイ語であやまってくれているらしい・・・私はこの食堂では騒ぎを起こす困った客になったわけですから。
 
「中田さん・・ご迷惑かけてどうもすみません」

「いえ。この親父もそんなには怒っていませんから、気にしなくていいです」

・・・そうだ気になっていたことがひとつ・・・
「それはそうと中田さん・・さっきポールになんて言ったんですか?」

「あはは、あれね。日本人は誰でもこのくらいは出来るから日本人とケンカしちゃだめだ・・・って言ってやったんです。あいつ結構びびってたんですよ。それにね、僕がタイ語で話かけたものだから、ここの店員との会話・・あれ全部バレてるのが分かってあわてて出ていったんですよ。面白かったです」
 
どちらかといえばポーカーフェイスな中田さんが、はじめて楽しげに喋るのを見ました。
 
「でも、さっきのあれ、空手ですか?すごいですねえ。痛快でしたよ」

「・・いやあ。あれはまあ手品みたいなものなので。恥ずかしいです」

「僕もあのポールってやつの態度、気に入らなかったのでね。本当に面白かったです
・・・ま、しかし・・それはそうと・・・」
 
中田さんの顔が急にもとのポーカーフェイスに戻りました。
 
「冨井さん。今すぐに宿を変えたほうがいいですね」
・・・え、どういうこと??
 
「あのポールって奴、何者か知りませんがT大生で無いことは確かです。多分ゴロツキの類でしょう。僕たちは奴に女の前で恥かかせてしまいましたから、仲間を連れて仕返しにくるかもしれません。タイ人てこういうこと根に持つ奴が多くて・・。用心のためです。そうしましょう」
 
・・・そういうものなのか?ここまでタイ語を自由に操る中田さんの言うことです。
そういうものなのかもしれません。
 
「しかし、急に宿を変わると言っても・・・」

「大丈夫です。実は私はちょうど今日宿を変えるつもりだったので・・助手のレック
がすでに新しい宿を見つけているはずですから、冨井さんもそっちに移れば良い
でしょう」
 
バンコクわずか2日目にしてやけにあわただしい事ですが、結局私は中田さんの勧めるままチャイナタウンを後にすることになりました。
 
荷物をまとめてとりあえず世話になったみんなに挨拶くらいはと思い、水口くんの部屋へ行って事情を説明します。

「・・・ふ~ん。そんなことが・・・まあ中田さん、用心しすぎな気もするが念のためかもな。」
「高岡さんにも挨拶しときたいんだけど、部屋にいるのかな?」

「高岡さん、いま茶室にいってるから・・俺のほうから言っとくよ」

・・・茶室?喫茶店のことか?

「じゃ、よろしくたのみます。また来ます。いろいろありがとう」

「おお、元気でな」
 
こんな感じで水口くんと別れたのですが、この後彼とは再び会っておりません。
今度はちゃんと世界旅行できたのだろうか?(今でもまだやってたりして)
 
後から聞いた話では中田さんの用心は当たっていたようで、ポールとその仲間らしいのが**ホテル周辺をうろついていたらしいです。
 
私はこのあと5日ほどバンコクに滞在したあと、スリランカに向かうことになりますのでもう少しお話を続けてもよいのですが、長くなったのでバンコクでの話はひとまずここで切ろうと思います。
 
ここまでのバンコクでのホラ話を私は「ムエタイに初勝利した話」と呼んでおりますが、よく考えてみればナンパに失敗した腹いせにビール瓶を割っただけなんですよね・・・。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

処理中です...