空手バックパッカー放浪記

冨井春義

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ブッダスティック

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「OH!スティーブ!そいつはホンモノか?」
ジムが目を輝かせます。

「正真正銘、メイド・イン・タイランドのブッダスティックさ」
スティーブはビニール袋をひらひらさせます。

私とメイも彼らの側に行き、それを見せてもらいます。
カンの悪い私にも、それがいわゆるマリファナの類であることは想像がつきましたが、初めて目にするそれは、いわゆる緑茶のように乾いたモノではなく、茶褐色でネバネバした脂っぽい代物でした。

「ブッダスティックって、どういう意味?」

尋ねてみました。
スティーブは得意げな顔で講義をはじめます。

「ブッダスティックってのはタイ特産のガンジャのことさ。普通のハッパを乾燥させたものじゃなくて、フラワー・バッド(花穂)部分のニューリーフだけを集めて樹液をまぶして、それを竹串に固めて糸でぐるぐる巻きにするんだ。そうやって乾燥させるとブッダの頭みたいな模様の棒が出来上がる。だからブッダスティックって言うんだ。こいつはな、世界のハッパ好きが夢にまで見る極上品だぜ。紅茶でいうなら、ここスリランカ名産のフラワー・オレンジ・ペコーと同じさ」

ジムが口を挟みます。

「オレもウワサには聞いていたけど、実物を見るのは初めてだ。でもこれ、スティックになってないぞ」

「最近ではね、タイでもスティックのままではあまり売ってないんだよ。残念だけどね。まあしかし効き目は変わらないぜ。今日はこいつをみんなに味あわせてやろうと言うわけさ」

「ワオ!スティーブ、愛してるぜ」
ジムは大喜びです。

スティーブは床に雑誌を広げると、袋からひとつかみのガンジャを取り出し、慣れた手つきでそれをほぐします。そしてポケットから取り出したタバコを引きちぎり、その葉を振り掛けると雑誌の上で丹念に混ぜ合わせます。

「トミーは初めてだろう?こいつは初心者には効き目が強すぎるからね、ストレートはやばいからこうしてブレンドするんだ。メイ、そこに置いてあるインセンス(お香)に火をつけてくれ。こいつは貴重品だからジョイント(紙巻)で無駄に吸うわけにゃいかねえ。これを使う」

金属製のパイプを取り出します。

スティーブはパイプに葉を詰め込み火をつけます。

「では、まずオレから」
と言うと煙を深く吸い込みます。

目を閉じて、鼻から細い煙が漏れ出しています。

「こいつは天国の味だ・・・」
満足そうに言う。。

「トミー・・・やってみろ」

スティーブは私にパイプを回します。
私は別にストイックな武道家というわけではありません。
どこにでもいる、好奇心旺盛で誘惑に弱い若者です。試してみたい!
パイプを受け取ると思い切り吸い込みました。

「うえっ!ゲホッ!ゲホ!」・・・・きつい!むせてしまいました。

「うひゃひゃひゃ!きついだろ、トミー・・・もっとゆっくりだ。ゆっくり一旦口の中に煙を溜めてから吸い込め肺に入れたらしばらく息を止めて、ゆっくり鼻から吐き出してみろ」
言われたとおりにしてみます。やはりかなりいがらっぽいですが、なんとか吸い込むことができました。

「・・・・!・・・・」

目の前から急にフィルターが1枚落ちたような気がしました。
どうしたんだろう?まわりのものがやけに色鮮やかに見えます。
犬の声・・・?犬の声が聞こえる・・・シャワーの水滴の滴る音・・・人の話す声。。。
すべてがはっきりと、近くで聞こえます・・・面白え・・・。

「どうだ、トミー。どんな気分だ?」

「えーと・・・あれ?・・・あ・・・どうしたんだろ・・・・あれ・・・」

意識が、2秒ごとに途切れてしまう。うまく話が出来ない。

「ふひゃひゃひゃひゃ・・・トミー、完全にキマってるぜ」

その後何度か回ってくるパイプを吸います。
2秒ごとに生まれ変わる・・・私は2秒ごとの輪廻転生を繰り返しています。

スティーブが何か演説を始めた・・・ずべて2秒刻みの世界。。なんかもうどうなってもイイ感じだ。
私はベッドに座り込んだまま、じっと見つめています・・・メイだ。メイの顔が近づいてくる。
・・・天使だ・・・そうか・・彼女は天使だったんだ・・・だって後が光り輝いているもの。。

いいニオイがします。天使が舞い降りてきて私をその腕で抱きしめます。
その手が触れた部分の肌が、ぞくぞくするほど気持ちいい。
私はたまらず天使を抱きしめて、その胸に顔をうずめます。
全身が快感につつまれる・・・2秒ごとに天国に昇る気分だ。。。

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・・・・・・・・・・・・・・はっ!

気が付くとあたりは暗くなっていました。
私はベッドの上に上半身裸で寝ており、しかも同じく上半身裸で眠っているメイを抱きしめています。

・・・ヤバ!・・・

私はそっと身を起こして、あたりを見渡します。
目を凝らして見ると、隣のベッドではジムが大口を開けて大の字で眠っており、床ではスティーブが横になって寝ております。
ふたたびメイの方に目を移すと、彼女は上半身は裸ですが、しっかりと白いホットパンツを履いています。
私もズボンを着用している・・・ということは、私達はただ抱き合っていただけで、それ以上のことはしていないということでしょう・・・・多分。。

私はブランケットをメイの裸の上半身にかけると、隣のベッドに移動します。
まだ頭がクラクラしている。

寝転がりながら、ジムは私達のことを見ていたのだろうか?と考えました。
とにかくこれはとぼけるしかないな・・・・考えながら私は再び眠りに落ちました。
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