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インチキ空手デモンストレーションの準備
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ふたたびホテル内に戻った私は、フロントにいる青年に声をかけます。
「何か御用でしょうか?」
私はオーナーの息子・・いや、現オーナーであるデワの客ですから、当然ここではVIP・・・のはずです。
「なあ君、スイカが手に入らないか?」
「スイカ・・・でございますか?」
「うん。そうだなあ・・・出来るだけよく熟れたやつがいい。3つ4つ・・・いや、5つほど持ってきてくれない?」
青年はメモに控えます。
「かしこまりました。後ほどお部屋にお運びいたします。他には何か御用はございませんか?」
「あとは・・・あ、そうだ。サッカーボールをふたつ。無理言うけどなんとか用意してくれない?」
「・・・サッカーボール・・と。これもお部屋にお持ちすればよろしいですか?」
「ああ、頼むよ」
部屋に戻ってまたベッドに寝転びながら、”Inside Kung Fu”をひろげます。
・・・おお、これなんかも頑張ればできそうだ・・・
剣を持った女性が身体を横倒しにして水平に飛び上がり、足を前後に伸ばしている写真です。
要するに自分の正面と横に立っている敵を、飛び上がって同時に蹴っている型でしょう。
いわゆる「三角跳び」というやつです。マンガやお話にはよく出てくる技ですが、実際にやっている写真を始めて見ました。
余談ですが、かなり後年になって、タイのTVでジャッキー・チェンが2mくらいの間隔でふたつのサンドバッグを吊るして、片方のバッグに跳び足刀を決めると同時に、上半身をひねりもう片方のバッグに突きを入れるのを見ました。
これなども三角跳びのひとつと言えるでしょう。ジャッキーは40代の半ばを過ぎていたと思いますが、大したものです。
私はあそこまで器用な技は出来ませんが、学生時代によく「水平二段蹴り」というのを、余興でやりました。
相方にキックミットを持ってもらい、それに向かって跳び足刀蹴りを、身体を完全に水平にして跳んだ状態から左右連続に決めるという技です。もちろん足から着地できませんので、両手で受身を取ります。
こんなのは単なる軽業ですので、実戦にも試合にも使えませんが、ウケは良かったです。
・・・あの技は左右の足を同じ方向に伸ばしていたけど、前後に伸ばせば「三角跳び」出来るんじゃないか?
ドアがノックされます。
「どうぞ!」
ドアが開きます。3人のボーイが・・・スイカを切って大皿に盛り付けたものを両手に持って入ってきます。
「・・・・・・・・・?」
「お待たせしました。スイカです」
これは確かに私の説明不足でした・・・しかし。
「あのさあ・・・君、僕がひとりでこんなにスイカが食えると思うか?」
「あ、いや・・・しかし、あなたは確かに五つと・・・」
「数はいいんだけど・・・まあいいや。一皿だけ置いていって、後は君たちが食べてくれ。それで何度もすまないけど、今度は切ってないスイカを5つ持ってきてよ・・・・代金はいくら?」
代金とチップを払って帰ってもらいます。
まあちょうどのどが渇いていたので、スイカを頬張ります。
「よく熟したもの」と指定しましたので、割と甘いです。そして青い皮の部分が薄くなっている。
これなら割りやすいでしょう。
スイカを食べてゴロゴロしていると、「センパーイ。入りますよ」・・・デワの声だ。
「センパイ、なに?スイカをたくさん注文したんだって?そんなにスイカ好きだったっけ?」
デワは先ほどのスーツ姿から、 ヨーロッパのブランドのロゴの入ったスポーツウェアに着替えています。
「馬鹿。デモンストレーション用に注文したんだよ。明日、スイカを割るんだ」
「へえ。スイカ割りですか。どうやって?」
「ひとつは貫き手で、ふたつは蹴りで割る。残りふたつは今日の稽古でやってみる」
デワはちょっと驚いた表情です。
「貫き手って・・・あの本に載ってるやつ?センパイ、そんなのできるの?」
「出来るわけないじゃん!あの本の人は二本指で逆立ちできるくらい指が強いから出来るんだ」
「じゃあ、どうするわけ?」
「貫き手で突くふりをして、拳でスイカを叩き割るんだよ。割れた瞬間に指を伸ばせば貫き手で割ったように見えるんじゃないか?」
「はあ・・・・でも、それってインチキじゃ?」
私もデワのおとぼけぶりには少々いらだってきました。声を荒げて言います。
「いい加減気づけ!僕らのやっていることは全部インチキなんだよ!」
身も蓋も無いことを言っておりますが、事実です。
第一デワのような何も出来ないボンボンを、あろうことか空手の先生に仕立てようというところからインチキです。そのインチキの片棒を担ぎに、はるばる日本からやってきた私がインチキでないはずないだろうが。
まもなくサッカーボールが届きました。
「センパイ、そのサッカーボールは?」
「最初からスイカで練習したんじゃもったいないだろ?まずこれで練習してからスイカに挑戦するんだよ」
「なるほどー。じゃあスイカのほうは僕が道場に運ばせときますよ」
「わかった。じゃああと一時間ほどしたら道場に行くわ」
「オス。じゃあ道場で」
「何か御用でしょうか?」
私はオーナーの息子・・いや、現オーナーであるデワの客ですから、当然ここではVIP・・・のはずです。
「なあ君、スイカが手に入らないか?」
「スイカ・・・でございますか?」
「うん。そうだなあ・・・出来るだけよく熟れたやつがいい。3つ4つ・・・いや、5つほど持ってきてくれない?」
青年はメモに控えます。
「かしこまりました。後ほどお部屋にお運びいたします。他には何か御用はございませんか?」
「あとは・・・あ、そうだ。サッカーボールをふたつ。無理言うけどなんとか用意してくれない?」
「・・・サッカーボール・・と。これもお部屋にお持ちすればよろしいですか?」
「ああ、頼むよ」
部屋に戻ってまたベッドに寝転びながら、”Inside Kung Fu”をひろげます。
・・・おお、これなんかも頑張ればできそうだ・・・
剣を持った女性が身体を横倒しにして水平に飛び上がり、足を前後に伸ばしている写真です。
要するに自分の正面と横に立っている敵を、飛び上がって同時に蹴っている型でしょう。
いわゆる「三角跳び」というやつです。マンガやお話にはよく出てくる技ですが、実際にやっている写真を始めて見ました。
余談ですが、かなり後年になって、タイのTVでジャッキー・チェンが2mくらいの間隔でふたつのサンドバッグを吊るして、片方のバッグに跳び足刀を決めると同時に、上半身をひねりもう片方のバッグに突きを入れるのを見ました。
これなども三角跳びのひとつと言えるでしょう。ジャッキーは40代の半ばを過ぎていたと思いますが、大したものです。
私はあそこまで器用な技は出来ませんが、学生時代によく「水平二段蹴り」というのを、余興でやりました。
相方にキックミットを持ってもらい、それに向かって跳び足刀蹴りを、身体を完全に水平にして跳んだ状態から左右連続に決めるという技です。もちろん足から着地できませんので、両手で受身を取ります。
こんなのは単なる軽業ですので、実戦にも試合にも使えませんが、ウケは良かったです。
・・・あの技は左右の足を同じ方向に伸ばしていたけど、前後に伸ばせば「三角跳び」出来るんじゃないか?
ドアがノックされます。
「どうぞ!」
ドアが開きます。3人のボーイが・・・スイカを切って大皿に盛り付けたものを両手に持って入ってきます。
「・・・・・・・・・?」
「お待たせしました。スイカです」
これは確かに私の説明不足でした・・・しかし。
「あのさあ・・・君、僕がひとりでこんなにスイカが食えると思うか?」
「あ、いや・・・しかし、あなたは確かに五つと・・・」
「数はいいんだけど・・・まあいいや。一皿だけ置いていって、後は君たちが食べてくれ。それで何度もすまないけど、今度は切ってないスイカを5つ持ってきてよ・・・・代金はいくら?」
代金とチップを払って帰ってもらいます。
まあちょうどのどが渇いていたので、スイカを頬張ります。
「よく熟したもの」と指定しましたので、割と甘いです。そして青い皮の部分が薄くなっている。
これなら割りやすいでしょう。
スイカを食べてゴロゴロしていると、「センパーイ。入りますよ」・・・デワの声だ。
「センパイ、なに?スイカをたくさん注文したんだって?そんなにスイカ好きだったっけ?」
デワは先ほどのスーツ姿から、 ヨーロッパのブランドのロゴの入ったスポーツウェアに着替えています。
「馬鹿。デモンストレーション用に注文したんだよ。明日、スイカを割るんだ」
「へえ。スイカ割りですか。どうやって?」
「ひとつは貫き手で、ふたつは蹴りで割る。残りふたつは今日の稽古でやってみる」
デワはちょっと驚いた表情です。
「貫き手って・・・あの本に載ってるやつ?センパイ、そんなのできるの?」
「出来るわけないじゃん!あの本の人は二本指で逆立ちできるくらい指が強いから出来るんだ」
「じゃあ、どうするわけ?」
「貫き手で突くふりをして、拳でスイカを叩き割るんだよ。割れた瞬間に指を伸ばせば貫き手で割ったように見えるんじゃないか?」
「はあ・・・・でも、それってインチキじゃ?」
私もデワのおとぼけぶりには少々いらだってきました。声を荒げて言います。
「いい加減気づけ!僕らのやっていることは全部インチキなんだよ!」
身も蓋も無いことを言っておりますが、事実です。
第一デワのような何も出来ないボンボンを、あろうことか空手の先生に仕立てようというところからインチキです。そのインチキの片棒を担ぎに、はるばる日本からやってきた私がインチキでないはずないだろうが。
まもなくサッカーボールが届きました。
「センパイ、そのサッカーボールは?」
「最初からスイカで練習したんじゃもったいないだろ?まずこれで練習してからスイカに挑戦するんだよ」
「なるほどー。じゃあスイカのほうは僕が道場に運ばせときますよ」
「わかった。じゃああと一時間ほどしたら道場に行くわ」
「オス。じゃあ道場で」
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