空手バックパッカー放浪記

冨井春義

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空手バックパッカー VS 超人ニコラ

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「ほおー。お前がひとりでやるってか」

ニコラは少し意外な顔をしています。

「んー・・・まあいい度胸してるな。それに頭も悪くなさそうだ。3人がかりでもオレには勝てねえと読んでひとりでやると言うのは最善の判断かもな。負けてもお前の流派のキズは浅くて済む」

・・・冗談じゃない・・・
私は腹の中でつぶやきました。

私には度胸なんてカケラほどもありません。確かに3人がかりでも勝ち目が無いのはその通りだ。
しかし・・・自分ひとりなら負けてもいいわけではありません。
『海外で戦う場合にはどんな卑怯な手を使っても絶対に負けるな』中川先生の至上命令はこれでしたから。そうは言っても・・・・しかし、どうしよう・・・?

「さあ、トミー。このクソ暑いところでいつまでも突っ立ててもしょうがねえ。とっとと片付けようぜ。構えな」

と言ってニコラは長い足をかなり広めのスタンスにひろげて構えます。
白いTシャツから突き出た2本の腕は長くて太くて、まるで鋼鉄のムチを捩ったようです。

そのときの私は頭の中で、生まれてこの方こんなに考えたことが無いというくらい脳みそをフル稼働させていました。考えなければ・・・・。
カッサバ先生の教え・・・絶対負けない方法・・・・自分の土俵に相手を乗せろ?・・・自分の土俵って一体?

「おいどうした。はやく構えろよ」

ニコラは少々苛立ったようで、構えた足を前後に踏み変えています。
薄手のコットンパンツの足はトレッキングシューズのような底の厚い靴を履いている。
その靴底が小石を多く含む公園の土をジャリジャリと鳴らしています。
そのときふと、私の頭に作戦がひらめきました。あった・・・私の土俵が見つかった!

「まあ待てよニコラ。僕は見ての通りサンダル履きだぜ。そっちは頑丈そうな靴を履いてるからいいけどさ、そんな靴なら貧弱な蹴りでも効くに決まってるだろう?ハンデが大きすぎると思わないか?」

私が言うとニコラはムッとした口調で言い返します。

「貧弱な蹴りだとう・・・お前、やっぱり頭は悪いようだな。さっきの蹴りが見えなかったのかよ」

・・・こいつはわりと単細胞そうだ・・・付け入るスキはあるに違いない。

「まあ、そう怒るなよ。空手の組手がやりたいんだろ?そんなら靴脱げよ。空手は裸足でやるもんだろ?靴を脱いでこのステージの上で存分に戦おうぜ。それならハンデも無いし文句も無いだろ」

「ああいいだろうよ!オレがこの重い靴を脱ぐとスピードは2倍になるぜ。貧弱な蹴りかどうか・・この靴を脱がせたことを後悔するんじゃねえぜ」

言うなりニコラは身をかがめて靴紐をほどきます。
片方の靴から足をスポッと抜き取ると、その片足をここの簡易ステージの袖に乗っけます。
・・しかし長い足だ。そのままもう片方の靴から足を抜き取ると同時にステージに飛び乗ります。

ステージの上に上ったニコラはトントンと2回ほど飛びはねてからこちらを向きます。

「さあトミー!早く上って来い」

・・・今だっ!

私はステージ脇に脱ぎ捨てられたニコラの両足分の靴を掴むなり、公園の林の中めがけてポーン、ポーンと片方ずつ別の方向に放り投げました。

「あーっ!てめえ!なにしやがる!」

怒鳴るニコラは無視して・・・

「デワっ!ボウイ!!」

キョトンとした表情で突っ立っているふたりに声をかけます。

「走れ!逃げるぞ!!」

はっと我に返ったようにボウイがあわててスイカ袋を肩に担ぎます。

「行くぞ!」

私がダーッと走り出すと、デワとボウイが後に続きます。

「くそっ!待ちやがれ!」

振り返るとステージからニコラが飛び降ります・・・・が、しかし。

「うわっ!痛えっ!」

その場にしゃがみ込む。
この公園の土は尖った小石を多く含みますから、裸足では走れません。。。作戦成功!

そのまま公園の外まで全力で走る。
デワが公園の外にいるトゥクトゥクを掴まえたので、全員で乗り込みます。

「**ホテルへ!」

デワがこんな必死な顔をしているのを私は初めて見ました。
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