25 / 29
第二章 桜吹雪の男
夜討ち朝駆け
しおりを挟む
「鼬一家の奴らは、そんな汚ねえ手を使ってやがるのか?黒河豚以下の鬼畜だな」
松岡幸助宅に立ち寄った源三郎は、今日静音の身に起きた出来事を聞くと吐き捨てるように言った。
「静音に手を出そうとは、奴ら生かしては置けん」
日ごろ冷静沈着な幸助も今回ばかりは怒りに震えんばかりであるのだが、当の静音は案外と落ち着いていた。
「お兄様、物騒なことは言わないでください。静音は遠山様のおかげで無事だったのですから」
「うむ、そうだったな。遠山殿には改めて礼をせねばなるまい・・・」
幸助宅まで静音を送り届けてくれた遠山金四郎だったのだが、幸助は礼もそこそこに追い返してしまっていた。
静音の身に起きた出来事に幸助が動揺したのもあるが、いかにもやくざで二枚目の遊び人風の金四郎と妹の静音が、仲良く笑い合いながら帰って来たのが密かに腹立たしかったのだ。
「幸助、金さんは的矢の常連だ。俺からも礼を言っておくよ。お静ちゃん、無事でよかったな」
「ええ本当に・・・そうか、遠山様は浅草の的矢の常連なのね。。」
遠い目をしながらそう答えた静音を見て、源三郎は可笑しそうに言った。
「お静ちゃん、今夜はちょいと変だな」
「え、どこが?」
「お静ちゃんと呼ばないで・・って言わない」
「そ、それは・・・」静音は少し顔を赤らめた。
その静音の様子を見た幸助は、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「まあいいや。幸助、奥の間で少し飲まねえか?お静ちゃんは構わなくていいから休んでくれ」
--------------------------------------------------------
「さて幸助、どうするね?」
奥の間で幸助と二人きりになった源三郎は、早速話を切り出した。
「うむ、静音はたまたま遠山殿が通りかからねば奴らの毒牙にかかっていた。鼬一家がこのような悪どい手で罪も無い娘子たちを陥れているのなら、これは見逃すわけにはいかん」
博打場の借金のかたに娘を連れて行く黒河豚一家から踏襲した手口よりも、さらに強引な手口である。
なんの落ち度も無くとも、狙われた娘は逃れようがないのだ。
「一日見逃せば、それで何人かの娘たちが泣きを見ることになるからな」
「その通りだ源三郎。今回は源内先生の帰りを待つ余裕はない。一刻も早く鼬一家を根絶やしにする。清次郎だけは生かしてはおけない」
悪党いえども殺さないのが紅烏の掟なのだが、静音のことがあるので幸助の怒りは抑えきれないだろう。
「孫氏曰く、兵は拙速を聞く・・だな。しかし田村はどうするね?」
鼬一家は所詮は町奉行、田村兵庫の走狗に過ぎない。
狗ならぬ鼬をいくら退治したところで、後釜はいくらでも居ることだろう。
しかし今は火急の事態である。
「それは源内先生が帰ってからじっくり策を練ってもらおう。まずは足元の火を消すことだ」
幸助の言葉を聞いた源三郎は刀の柄を叩いて言った。
「よしわかった。夜討ち朝駆けで行こう。明朝、日の明けねえうちに鼬一家に斬りこむ。おめえは空から、俺は路上からだ」
幸助も刀を手に取り、柄を叩いた。
「源内先生には怒られるかもしれんが、久々に腕が鳴るな。冨井流の刀の冴えを鼬の清次郎の冥途への土産にくれてやろうぞ」
松岡幸助宅に立ち寄った源三郎は、今日静音の身に起きた出来事を聞くと吐き捨てるように言った。
「静音に手を出そうとは、奴ら生かしては置けん」
日ごろ冷静沈着な幸助も今回ばかりは怒りに震えんばかりであるのだが、当の静音は案外と落ち着いていた。
「お兄様、物騒なことは言わないでください。静音は遠山様のおかげで無事だったのですから」
「うむ、そうだったな。遠山殿には改めて礼をせねばなるまい・・・」
幸助宅まで静音を送り届けてくれた遠山金四郎だったのだが、幸助は礼もそこそこに追い返してしまっていた。
静音の身に起きた出来事に幸助が動揺したのもあるが、いかにもやくざで二枚目の遊び人風の金四郎と妹の静音が、仲良く笑い合いながら帰って来たのが密かに腹立たしかったのだ。
「幸助、金さんは的矢の常連だ。俺からも礼を言っておくよ。お静ちゃん、無事でよかったな」
「ええ本当に・・・そうか、遠山様は浅草の的矢の常連なのね。。」
遠い目をしながらそう答えた静音を見て、源三郎は可笑しそうに言った。
「お静ちゃん、今夜はちょいと変だな」
「え、どこが?」
「お静ちゃんと呼ばないで・・って言わない」
「そ、それは・・・」静音は少し顔を赤らめた。
その静音の様子を見た幸助は、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「まあいいや。幸助、奥の間で少し飲まねえか?お静ちゃんは構わなくていいから休んでくれ」
--------------------------------------------------------
「さて幸助、どうするね?」
奥の間で幸助と二人きりになった源三郎は、早速話を切り出した。
「うむ、静音はたまたま遠山殿が通りかからねば奴らの毒牙にかかっていた。鼬一家がこのような悪どい手で罪も無い娘子たちを陥れているのなら、これは見逃すわけにはいかん」
博打場の借金のかたに娘を連れて行く黒河豚一家から踏襲した手口よりも、さらに強引な手口である。
なんの落ち度も無くとも、狙われた娘は逃れようがないのだ。
「一日見逃せば、それで何人かの娘たちが泣きを見ることになるからな」
「その通りだ源三郎。今回は源内先生の帰りを待つ余裕はない。一刻も早く鼬一家を根絶やしにする。清次郎だけは生かしてはおけない」
悪党いえども殺さないのが紅烏の掟なのだが、静音のことがあるので幸助の怒りは抑えきれないだろう。
「孫氏曰く、兵は拙速を聞く・・だな。しかし田村はどうするね?」
鼬一家は所詮は町奉行、田村兵庫の走狗に過ぎない。
狗ならぬ鼬をいくら退治したところで、後釜はいくらでも居ることだろう。
しかし今は火急の事態である。
「それは源内先生が帰ってからじっくり策を練ってもらおう。まずは足元の火を消すことだ」
幸助の言葉を聞いた源三郎は刀の柄を叩いて言った。
「よしわかった。夜討ち朝駆けで行こう。明朝、日の明けねえうちに鼬一家に斬りこむ。おめえは空から、俺は路上からだ」
幸助も刀を手に取り、柄を叩いた。
「源内先生には怒られるかもしれんが、久々に腕が鳴るな。冨井流の刀の冴えを鼬の清次郎の冥途への土産にくれてやろうぞ」
0
あなたにおすすめの小説
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜
上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■
おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。
母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。
今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。
そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。
母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。
とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください!
※フィクションです。
※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。
皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです!
今後も精進してまいります!
【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
楽将伝
九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語
織田信長の親衛隊は
気楽な稼業と
きたもんだ(嘘)
戦国史上、最もブラックな職場
「織田信長の親衛隊」
そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた
金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか)
天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる