快傑!紅烏(ベニカラス) 蘇る大江戸ヒーロー伝

冨井春義

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第二章 桜吹雪の男

火龍(かりゅう)

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(なんだ、一体この化け物は・・・)

目の前に立っている火龍と呼ばれる大入道の異様な風体に、さすがの源三郎も度肝を抜かれた。
火龍はニヤニヤと笑いながら源三郎を見つめている。
しかし源三郎は敵の出方をのんびり待つような性格ではない。
誰の目にも見えない速さで、棍棒の一撃を火龍の腹に突き入れた。

しかし、手応えがおかしい。まるで布団の山を突いたように頼りない手応えだ。
火龍は瞬きしただけでビクともせずに立っている。まったく効いている様子がない。
次の瞬間、火龍の見かけによらず素早い張り手が源三郎の顔面を捕らえた。
源三郎は七尺ほど後方に吹っ飛ばされ地面に転がった。

「おい、ひどいな紅烏。いきなり棒で突くなよ、痛てえじゃねえか」

源三郎は二、三回転ほど転がって立ち上がるが、脚が少しふらついていた。
火龍の巨体は見た目だけでなく、恐るべき金剛力の持ち主だ。

源三郎は少し頭を振って意識を保つ。
思いのほか張り手が効いているのだ。

(まいったな・・こんな化け物が居るとは予定外だぜ)

「紅烏、化け物を見る目で俺を見るなよ。お前も空を飛んだり、斬られても死なねえ化け物なんだろうが。同類だろう?」

まるで思っていたことを見透かされたようだ。
源三郎は気力を振り絞って言い返す。

「ふざけんな。てめえのような化け物と一緒にされてたまるか。俺は三山の使い紅烏だぜ」

「ふん、神様の使いだってか。いいだろう、不死身の神様の使いが丸焼きにされても生きているのか試してやるぜ」

そう言うと火龍は両手の掌を拝むようにこすり合わせた。
すると両掌の間にぼーっと火が灯った。
その火をまるで喰らうように口に含む。

(なんだ?一体何をする気だ?)

火を喰らった火龍の口元にちろちろと小さな火か灯っているのが見える。

(これはマズいぞ!!!)

源三郎は本能的に危機を感じ取り、臆面もなく火龍に背を向けて逃走を始めた。
その背中に向けて火龍は炎を噴いた。

焼けつく炎が源三郎の背後から襲って来た。

(うわっ!あちち・・)

紅烏の羽織が火だるまになっている。
源三郎はそのまま地面を転がり回る。
数回転すると、ようやく火が消えた。

(ふう・・危なかった)

火龍の方を見るときょっとんとした顔をして突っ立っている。

「ええ~っ、なんでお前、丸焼きになってないんだ?服も燃えてないじゃねえか。お前やっぱり化け物だな」

確かに言われてみると、紅烏の羽織はまったく燃えていない。
火龍の炎は強力な熱を持つ、何かの油の炎であったにも関わらずだ。

(源内先生の防刃衣装は炎にも耐えるように出来ているようだな。しかしこの攻撃は何度もは耐えられんぞ。ここは三十六計だ)

源三郎は懐から煙玉を取り出し、火龍たちの方へ投げた。
たちまちはげしい煙幕が広がる。

「うわっ、紅烏・・何しやがるんだ」

「うるせえ、火を着けてくれたお礼だよ。火龍、勝負はしばらくお預けだ」

源三郎は後ろを向くと、今度こそ脱兎のごとく逃走した。
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