空手バックパッカー・リターンズ

冨井春義

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日本

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 日本に戻ってから数日後。

 私は静子さんに紹介された、南さんという人に会うために、とあるショッピングモール内の喫茶店で待っておりました。

「冨井さん?あんた冨井さんでっか?」

 ふいに声をかけてきたひとりの男。

「あ、あなたが南さんですか?」

 その男は、私よりもひとまわり小さい体格ですが、あ・や・し・い。。
 とにかくひとめで怪しげな人物です。

 サラリーマンのようにスーツを着ていますが、アタマはスキンヘッド。
 目は細くて鋭い・・・ゆで卵にカミソリで切れ目をいれたような顔です。

 歳は意外と若い。私とあまり変わらないんじゃないだろうか。
 しかしどういう男だろう?もしかしてヤクザか?

 まあ、それでも静子さんの紹介です。今は彼に頼るしかありません。

 きちんと挨拶せねば。。。

「どうもはじめまして。冨井です」

「どうも。南です。話は静子さんから聞いとります。固い挨拶は抜きにして本題にはいりまひょ。冨井さん、あんた店がやりたいんやね?」

 なかなか単刀直入な人のようです。

「はい。でも資金があまり無いんです。静子さんが南さんなら、資金がなくても何とか店を出す方法を教えてくれると言ってましたので」

 ・・・姉ちゃん、ホット頼むわ・・・南さんはウエイトレスに声をかけます。

「まあな、冨井さん。資金が無くても店はやれます。あちこちを催事で回る手もあるし、ドサ周りも結構ええ商売になりまっせ。せやけどちょうどよろしいわ。あんた、ここで店を出したらどないだ?」

 ・・・ここ?ここは2年ほど前にオープンしたばかりのショッピングモールです。
 それなりにホットなエリアですから、資金無しで出店は無理でしょう。

「タイの雑貨を売りたいんやね?それならここはええ場所やと思いまっせ。結構あちこちから人が集まりますさかいな。ああ、そうか。カネのことが心配なんやね。そらまったくタダというわけにはいかんけどな。まあお聞き」

 南さんは、手に持った営業カバンのようなものから、何か図面を出してテーブルに広げます。

「これはここの図面ですわ。見ての通りこの建物はケッタイな形しとりますんや。アメリカのデザイナーたらいうのが設計したんやね。おかげで何ーんの役にも立っとらへんスペースがやたら多い。設計段階ではバブルの真っ只中やったから、こういう施設もオシャレやろう言うことで決まったんやけど、今はこのご時世ですわ。遊んどるスペースがもったいない・・いうことで、こういうスペースに小っこい店を作ってな、有効利用しようと・・こういうわけですわ」

 ここでウエイトレスがコーヒーを持ってきました。
 南さんは砂糖を4杯も入れた上に、クリームを大量に注ぎ込みます。
 それをぐっと一息に飲み干すと、話をつづけます。

「こんな小っこいスペースに普通のテナントは入れませんやろ?せやから資本はないけどやる気のある起業家に、安うで出店してもらおうという計画なんですわ。どないだす?」

 たしかにこれは願っても無い話かもしれません。 

「あの・・それで、家賃はどれくらい必要なんでしょうか?」

「売り上げに対する歩合で家賃が決まるんやけど、最低保障として15万。これは1か月分、先に必要になります。あとは一般のテナント同様に販促費を納めてもらわなあかん。まあさしあたりそんなもんやね」 

 ・・・15万か。。実はカネは無い。見事にありませんが、15万ならクレジットカードでキャッシングしても何とかなるだろう。。。仕入れ資金も考えて50万キャッシングすれば、店がスタートできる。あとは回転させればなんとかなるな・・・。

 ええ、一応お断りしておきますが・・皆さんはこのようなアマイ考えで商売を始めてはいけません(笑)。
 カードローンは高利の借金です。。。

「やります。南さん、ぜひお願いします!」

「おお、そうでっか。わかりました。この申込書に必要事項を書き込みなはれ。後はわしがあんじょうしますさかいに」

 簡単な申込書を手わたされます。

 一瞬、この怪しげな男を本当に信用してよいものかどうかという疑問がアタマをかすめましたが、静子さんは「南は信用してもいい」と言っておりましたので必要事項を書き込みます。

「OK。後はまかしといてください。実はね、わしもここに出店しまんねや。今やってる仕事から足を洗おう思うてやね」

 ・・・今やってる仕事?やはりヤバイ系の人か?この人は。。

「あのう、失礼ですが南さんは今は何のお仕事をされてるんですか?」

 ・・・ちょっと勇気を出して聞いてみます。

「いろいろやってるんやけど、今は主にMHKの集金ですわ」

「はあ・・MHKですか。。」

「うん。MHKのね、料金をなかなか払わん奴らがぎょうさん居ますんや。そういうところにわしが行って、集金してきますねん」

 ・・・彼が行くと「集金」というより「取立て」だよなあ。。。 

「ところで南さん。今回の件では色々お手数おかけしますけど、お礼のほうはどのようにさせていただいたらよろしいでしょうか?」

 ・・・南さんは、ちょっと心外な・・という顔をして

「お礼やなんて、そんなもんいりまへん。静子さんからもきつうに言われてまんねや。冨井さんからは一銭も取るなってな。わし、あのおばちゃんにはアタマ上りませんねや。せやな、ほんならここのコーヒー代持ってもらえますか?それで貸し借り無しっちゅうことにしましょ」

 ああ、静子さん!・・静子さんの紹介は絶大な力を発揮してくれました。
 おかげで、私とタカは次のスタートを切る事ができます。

 南さんは、それからしばらく雑談するうちに見た目の怪しさとは違って、かなり気持ちのいい人物であると思われてきました。

「ああ、なんや。冨井さん、タメ歳でっか」

「どうやら、そうみたいですね。今後ともよろしく」

「いや、こちらこそ」

 こうしてなんとか一応は販売拠点を確保しました。
 一月後にはタカを売り場に立たせての営業を開始します。

 私はカードで50万円を借りて、一月分の家賃を支払うと残りの金でバンコク行きのチケットを買い、仕入れに行きます。


 ・・・・・・・

 私達のお店は幸運にもなかなか快調なスタートを切りました。
 これはタカがまるで人が変わったかのように、接客が丁寧になったからです。

 とにかくもう、どんなお客が来てもキレません。

「ありがとうございまーす!」

 お買い上げいただいたお客様を見送りながら、深々とアタマを下げるタカ。 

 近所のお店のオーナーさんは、私に言います。

「いやあ、冨井さんところの従業員さんは接客態度がいいですねえ。どこであんないい子を見つけてきたんですか?」

 ・・・ふふふ。。ほんの少し以前のタカを見せたら、あんたら目を剥くぞ。


 さて、いよいよ次回は最終回です。
 このお話の構成は、これから第一話の冒頭の部分に戻らなければなりません。

 第一話の書き出しはたしかこう、、、


 ・・200X年の春ごろだったと記憶しています。
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