1 / 9
信長編
第1話 信長、本能寺から異世界へ
しおりを挟む
「此処は――」
城の 石垣の様に石の敷き詰められた地面に、何やら水の吹き出す恐らく石製の何か、道行く人も尾張や、その周辺では見たことも無い服装の人達ばかりだった。
「儂は今しがた死んだはず……」
先程までの自分の行動を思い起こしてみる。
天正十年 西暦1582年 6月21日
夜も更けてきて床について暫くしての事だった。
何やら外が騒がしく目を覚ますと、外では戦いが繰り広げられていた。
倒れ行くものの断末魔、刃と刃が交わる金属音。
部屋の出入口である襖の向こうに見慣れた側近のシルエットが見えた。
「何事だ!」
「はっ、明智光秀の謀反に御座います」
側近は静かにそう告げた。
「明智の軍勢は?」
「ざっと1万以上はあるかと」
今、この本能寺にいるのは全員で30人程度、この状況で明智に勝てる見込みは無い。
「恐らく狙いは儂の首じゃ。なら、タダでくれてやる訳にはいかん。火を放て!!」
「宜しいのですか?」
そのまま黙っていると側近は「御意」と言い、去っていった。木製の艶やかで重厚感のある箪笥|《たんす》を開け、切腹裃《せっぷくかみしも》を取り出す。
肌脱ぎをした状態で帯を占める。
短刀を手に取り、奉書紙を巻き付け腹に当てる。
辺りには既に火の手が回っているようで、しきりに火の粉が爆ぜる音が聞こえる。
近くでは慌ただしく廊下を走る足音が聞こえ、この部屋にいる事が悟られるのも時間の問題のようだ。
腹に当てた短刀をゆっくりと横に一閃する。
不思議と痛みは無く、感じるのは短刀の刀身部分の冷たさだけだった。
段々と意識が朦朧とし、遠のいていくのを感じる。
手先、足先、体と徐々に冷えていき、廊下を慌ただしく駆ける足音や火の粉の爆ぜる音がどんどん遠のいていく。
瞼も重くなり、視界は炎に染った――と思ったらこの場所に立っていた。
「おい女、此処はどこの国だ? 肥前か? それとも大隅か?」
声を掛けた女は不思議そうに首を傾げた。
「ヒゼン? オオスミ? 何ですかそれ? ここはルスキニアですよ」
女はさも当たり前かのように知らない単語を口にした。
そして女はふと思い立ったような顔で言った。
「あっ、もしかして旅のお方ですか? それならギルドに行くと良いですよ。それでは私はこれで」
女は小さく会釈し去って行った。
それからというものギルドとやらを探すために街ゆく人に聞き、ようやくギルドとやらに辿り着くことが出来た。
木製の扉をぎこちなく開けると、見た事も無い服装の老若男女がそこにはいた。
「新規冒険者加入の方はコチラでーす」
豊満な体つきをした女が口元に手を当て大声で言ったのが聞こえ、促されるように向かう。
「新規冒険者加入の方ですか?」
「冒険者とは何者だ?」
「冒険者をご存知でないのですね。では、こちらへどうぞ」
女に促され、脇息《きょうそく》と座布団が合わさった様な物に腰をかける。
それは座布団よりも柔らかく、沈み込み、どこか座っていて心地良かった。
女は向かい側に腰を掛け、数枚の紙を差し出し、喋り始めた。
「冒険者と言うのはですね、まぁ、いわゆる所の職業なんですよ。冒険者になると、武器の使用が許可されます。そして、これは一番の特徴なのですが、冒険者の方々はクエストが主な稼ぎ口です。クエストは、国民が困っている事などを達成難度に分けて、そちらにあるクエストボードに我々職員が貼っておきますので、その中から選んでもらって手続きしてもらって、達成した時点でギルドに報告すれば報酬を手渡します。――こんな所ですね。分かりましたか?」
女に尋ねられるが、正直な所理解不能な単語だらけで話が全く頭に入ってこなかった。
こんな話を長々と続けられても面倒なので、取り敢えず首を縦に降っておく。
すると、また女は「次はこちらへ」と言い、小さな部屋に入る。
そこには小さな椅子が一脚あるだけで、他には何も無い。
「そこにお掛け下さい」
促され、椅子に腰掛けると、女はこちらに向け手をかざし、何かブツブツと呟く。
暫くすると、目の前に幾つもの解読不能の文字が現れる。
女はかざした手を動かすと、目の前に出現した文字も手に合わせて動く。そのままその文字を一枚の紙に押し付けると、紙に先程の文字が映されていた。
そして次は、こちらの手首を持つと、手首に何かを書く動作をする。
すると、手首に見た事も無い家紋の様な模様が入った。
「ノブナガさんですね。冒険者としての登録が完了しました」
女は紙を一瞥すると、丸めて紐で結ぶ。
「それと、手首の模様ですが、そこに手をかざすと、ステータス、習得スキル、習得可能スキル、スキルポイントが見れますので」
そう言うと女はそそくさと部屋を後にした。
同じように部屋を後にし、ギルドからも出る。
大きく深呼吸をする。
何故かとても疲れたような気がする。
明日からもこんなことが続くのかと思うと憂鬱で仕方が無い。
「日本では無い……なら、此処はどこなのだ」
右も左も分からぬ状況で、どこか休める場所を求めて、異界の地の石畳の上を雑踏の中歩き続けた。
城の 石垣の様に石の敷き詰められた地面に、何やら水の吹き出す恐らく石製の何か、道行く人も尾張や、その周辺では見たことも無い服装の人達ばかりだった。
「儂は今しがた死んだはず……」
先程までの自分の行動を思い起こしてみる。
天正十年 西暦1582年 6月21日
夜も更けてきて床について暫くしての事だった。
何やら外が騒がしく目を覚ますと、外では戦いが繰り広げられていた。
倒れ行くものの断末魔、刃と刃が交わる金属音。
部屋の出入口である襖の向こうに見慣れた側近のシルエットが見えた。
「何事だ!」
「はっ、明智光秀の謀反に御座います」
側近は静かにそう告げた。
「明智の軍勢は?」
「ざっと1万以上はあるかと」
今、この本能寺にいるのは全員で30人程度、この状況で明智に勝てる見込みは無い。
「恐らく狙いは儂の首じゃ。なら、タダでくれてやる訳にはいかん。火を放て!!」
「宜しいのですか?」
そのまま黙っていると側近は「御意」と言い、去っていった。木製の艶やかで重厚感のある箪笥|《たんす》を開け、切腹裃《せっぷくかみしも》を取り出す。
肌脱ぎをした状態で帯を占める。
短刀を手に取り、奉書紙を巻き付け腹に当てる。
辺りには既に火の手が回っているようで、しきりに火の粉が爆ぜる音が聞こえる。
近くでは慌ただしく廊下を走る足音が聞こえ、この部屋にいる事が悟られるのも時間の問題のようだ。
腹に当てた短刀をゆっくりと横に一閃する。
不思議と痛みは無く、感じるのは短刀の刀身部分の冷たさだけだった。
段々と意識が朦朧とし、遠のいていくのを感じる。
手先、足先、体と徐々に冷えていき、廊下を慌ただしく駆ける足音や火の粉の爆ぜる音がどんどん遠のいていく。
瞼も重くなり、視界は炎に染った――と思ったらこの場所に立っていた。
「おい女、此処はどこの国だ? 肥前か? それとも大隅か?」
声を掛けた女は不思議そうに首を傾げた。
「ヒゼン? オオスミ? 何ですかそれ? ここはルスキニアですよ」
女はさも当たり前かのように知らない単語を口にした。
そして女はふと思い立ったような顔で言った。
「あっ、もしかして旅のお方ですか? それならギルドに行くと良いですよ。それでは私はこれで」
女は小さく会釈し去って行った。
それからというものギルドとやらを探すために街ゆく人に聞き、ようやくギルドとやらに辿り着くことが出来た。
木製の扉をぎこちなく開けると、見た事も無い服装の老若男女がそこにはいた。
「新規冒険者加入の方はコチラでーす」
豊満な体つきをした女が口元に手を当て大声で言ったのが聞こえ、促されるように向かう。
「新規冒険者加入の方ですか?」
「冒険者とは何者だ?」
「冒険者をご存知でないのですね。では、こちらへどうぞ」
女に促され、脇息《きょうそく》と座布団が合わさった様な物に腰をかける。
それは座布団よりも柔らかく、沈み込み、どこか座っていて心地良かった。
女は向かい側に腰を掛け、数枚の紙を差し出し、喋り始めた。
「冒険者と言うのはですね、まぁ、いわゆる所の職業なんですよ。冒険者になると、武器の使用が許可されます。そして、これは一番の特徴なのですが、冒険者の方々はクエストが主な稼ぎ口です。クエストは、国民が困っている事などを達成難度に分けて、そちらにあるクエストボードに我々職員が貼っておきますので、その中から選んでもらって手続きしてもらって、達成した時点でギルドに報告すれば報酬を手渡します。――こんな所ですね。分かりましたか?」
女に尋ねられるが、正直な所理解不能な単語だらけで話が全く頭に入ってこなかった。
こんな話を長々と続けられても面倒なので、取り敢えず首を縦に降っておく。
すると、また女は「次はこちらへ」と言い、小さな部屋に入る。
そこには小さな椅子が一脚あるだけで、他には何も無い。
「そこにお掛け下さい」
促され、椅子に腰掛けると、女はこちらに向け手をかざし、何かブツブツと呟く。
暫くすると、目の前に幾つもの解読不能の文字が現れる。
女はかざした手を動かすと、目の前に出現した文字も手に合わせて動く。そのままその文字を一枚の紙に押し付けると、紙に先程の文字が映されていた。
そして次は、こちらの手首を持つと、手首に何かを書く動作をする。
すると、手首に見た事も無い家紋の様な模様が入った。
「ノブナガさんですね。冒険者としての登録が完了しました」
女は紙を一瞥すると、丸めて紐で結ぶ。
「それと、手首の模様ですが、そこに手をかざすと、ステータス、習得スキル、習得可能スキル、スキルポイントが見れますので」
そう言うと女はそそくさと部屋を後にした。
同じように部屋を後にし、ギルドからも出る。
大きく深呼吸をする。
何故かとても疲れたような気がする。
明日からもこんなことが続くのかと思うと憂鬱で仕方が無い。
「日本では無い……なら、此処はどこなのだ」
右も左も分からぬ状況で、どこか休める場所を求めて、異界の地の石畳の上を雑踏の中歩き続けた。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる