2 / 9
信長編
初めてのモンスター
しおりを挟む
――眠たし。ただ、ひたすらに。
5、6間はあるであろう、この街を取り囲む外壁から朝日が半ば顔を出す。
腹がすいては戦はできぬと言うが、こう眠たいと戦う気すら起きない。
昨日、このどことも分からない国で目覚めてからというものまともな食事も睡眠も取っていない。
ギルドとやらを後にし、休息をとる場所を探し、日が暮れるまで街中を徘徊していた。
どうやら、異世界ここの人間は休息をとる場所を『宿屋』と言うらしい。
そしてその宿屋に着いたは良いものの、宿泊するには金が必要だと店主は言った。当然金など一文も持っているはずもなく、仕方なく宿屋を後にし、狭い路地で体を丸めて就寝した。
しかし、硬い石畳の上で熟睡できるはずもなく、大して寝られず朝を迎えた。
「何故……何故儂ともあろう者が地べたで夜を明かさねばならんのだ……」
そんな事をブツブツと呟きながらギルドへ入る。
今のこの状況を打開するには、何としても"金"が必要だった。その為に、昨日教えて貰ったクエストをこなして少しでも稼ごうというわけだ。
「あら、ノブナガさんおはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
昨日、色々と教えてくれた女がにこやかな笑みを浮かべて言った。
「戯たわけがっ! あの様な硬い地では碌に寝られるわけ無かろうに!」
いきなり叫んだので、女は体をビクッと跳ねさせた。
女は咄嗟に頭を下げた。
「すいませんっ! もしかして、お金をお持ちで無かったのですか? でしたらクエストをこなしてみてはいかがですか?」
女は早口で捲し立てクエストボードを指さした。
「もとよりそのつもりよ」
そう言い、眠さのせいか空腹のせいか、はたまたその両方かのせいで千鳥足になりながら女が指さしたクエストボードに辿り着き、そこに貼られた紙を一枚一枚念入りに確認する。
ふと一枚の紙が目に入った。
「すらいむの討伐? おい女!」
少し大きめの声で呼ぶと、女は呼んだのに気づき、小走りで向かってきた。
「はい、お呼びでしょうか?」
「うむ、このすらいむとやらは何者だ?」
女は少し驚いた様な表情をしたが、すぐさま先程までの笑顔に切り替わる。
「スライムと言うのはですね、小さいのでこれくらいのプルプルした生物ですよ。色んな色のスライムがいて、色んなものを体に取り込んで消化し、エネルギーにするんですよ」
そう言うと女は、「これくらいですね」と言いながら両手で丸を作った。
河原に落ちている大きめの石くらいの大きさだった。
「では、このクエストを頼む」
「はい、農場のスライムの討伐ですね。分かりました。では、こちらのカウンターへどうぞ」
そう言うと女は奥のカウンターと呼ばれる所へ歩いって行った。
女は懐に手を入れると、印章のようなものを取り出すと紙に押した。
「受注手続きが完了しました。クエスト受注期間は1週間となります、それを超過してしまうと強制的に受注が取り消されますので予めご了承下さい」
そう言うと女は一枚の紙をこちらへ差し出した。
見てみると、ここから農場までの地図だった。
「そう言えばノブナガさんお金無いんですよね? 武具は持ってたりしないですよね?」
「うむ、武具は持っていない」
すると女はカウンターの奥に歩いて行き、少しすると、ガチャガチャと音を立てながら戻ってきた。
そこには数種類の武器があった。
刀のようなものに、槍、棘の付いた篭手のようなもの。
「ギルドでは武具を持っていない冒険者に無料で貸出しています。この中からお好きなものを一つお取りください」
女は抱えていた武器を並べて言った。
一目見た時から刀のようなものに決めていた。
それを手に取り、鞘から抜いてみる。
刀とは違い、刀身は流線型ではなく、真っ直ぐで、両刃になっていた。
それを腰に差し、地図を見ながらギルドを後にした。
街中を抜け、街を取り囲む外壁の下の門を抜け、野原をひたすら歩くと目的の農園に到着した。
そこには農園の持ち主であろう中年程の男がいた。
こちらを見つけると、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「もしかして、冒険者の方ですか?」
「如何にも」
「よかった。ようやく来てくれたんですね。上がっていってください、スライムが来るにはまだ少し時間がある。昼食でも一緒にどうですか?」
昼食、その単語を聞くだけで口の中が涎で溢れそうになる。
言葉に甘え、家へと上がる。
家の中には尾張やそこらの城や屋敷では見た事の無い家具ばかりだった。
見慣れない家具達を見渡していると、農場の主の男は皿に三角形の白く、間に野菜が挟まった物を持ってきた。
「何だ? それは、食べ物か?」
「おや? サンドイッチをご存知でないのですか。まぁ、美味しいので食べてみてください」
そう言うと男は皿をこちらに差し出した。
一切れ手に取り、口へ運ぶ。
「ふむ、中々美味いではないか」
今まで何も食べてなかった胃袋に食べ物が入り、体中に栄養が行き渡るのを感じる。
ペロリとサンドイッチを平らげ、ゆっくりしていると、男は窓の外を指さした。
「あっ、来ましたよ、スライム」
窓の外を見ると、見るからに柔らかそうな外見の丸い生き物がいた。
ただ、ギルドで女が教えてくれた大きさとは似ても似つかず、その10倍――いや、20倍はあるであろう大きさだった。
しかし、金のためには大きさはさして問題では無かった。
立て掛ていた剣を手に取り外へ駆け出す。
「その首、この信長が頂戴する!」
そう言い抜刀し、スライムに斬り掛かる。
すると、人間の首を落とすのとは違い、謎の弾力を剣越しに感じ、弾き返される。
何度斬り掛かっても無情に弾き返されるだけであった。
「チッ、これでは埒が明かない」
ただひたすらに考えた。コイツの息の根を確実に止める方法を――
5、6間はあるであろう、この街を取り囲む外壁から朝日が半ば顔を出す。
腹がすいては戦はできぬと言うが、こう眠たいと戦う気すら起きない。
昨日、このどことも分からない国で目覚めてからというものまともな食事も睡眠も取っていない。
ギルドとやらを後にし、休息をとる場所を探し、日が暮れるまで街中を徘徊していた。
どうやら、異世界ここの人間は休息をとる場所を『宿屋』と言うらしい。
そしてその宿屋に着いたは良いものの、宿泊するには金が必要だと店主は言った。当然金など一文も持っているはずもなく、仕方なく宿屋を後にし、狭い路地で体を丸めて就寝した。
しかし、硬い石畳の上で熟睡できるはずもなく、大して寝られず朝を迎えた。
「何故……何故儂ともあろう者が地べたで夜を明かさねばならんのだ……」
そんな事をブツブツと呟きながらギルドへ入る。
今のこの状況を打開するには、何としても"金"が必要だった。その為に、昨日教えて貰ったクエストをこなして少しでも稼ごうというわけだ。
「あら、ノブナガさんおはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
昨日、色々と教えてくれた女がにこやかな笑みを浮かべて言った。
「戯たわけがっ! あの様な硬い地では碌に寝られるわけ無かろうに!」
いきなり叫んだので、女は体をビクッと跳ねさせた。
女は咄嗟に頭を下げた。
「すいませんっ! もしかして、お金をお持ちで無かったのですか? でしたらクエストをこなしてみてはいかがですか?」
女は早口で捲し立てクエストボードを指さした。
「もとよりそのつもりよ」
そう言い、眠さのせいか空腹のせいか、はたまたその両方かのせいで千鳥足になりながら女が指さしたクエストボードに辿り着き、そこに貼られた紙を一枚一枚念入りに確認する。
ふと一枚の紙が目に入った。
「すらいむの討伐? おい女!」
少し大きめの声で呼ぶと、女は呼んだのに気づき、小走りで向かってきた。
「はい、お呼びでしょうか?」
「うむ、このすらいむとやらは何者だ?」
女は少し驚いた様な表情をしたが、すぐさま先程までの笑顔に切り替わる。
「スライムと言うのはですね、小さいのでこれくらいのプルプルした生物ですよ。色んな色のスライムがいて、色んなものを体に取り込んで消化し、エネルギーにするんですよ」
そう言うと女は、「これくらいですね」と言いながら両手で丸を作った。
河原に落ちている大きめの石くらいの大きさだった。
「では、このクエストを頼む」
「はい、農場のスライムの討伐ですね。分かりました。では、こちらのカウンターへどうぞ」
そう言うと女は奥のカウンターと呼ばれる所へ歩いって行った。
女は懐に手を入れると、印章のようなものを取り出すと紙に押した。
「受注手続きが完了しました。クエスト受注期間は1週間となります、それを超過してしまうと強制的に受注が取り消されますので予めご了承下さい」
そう言うと女は一枚の紙をこちらへ差し出した。
見てみると、ここから農場までの地図だった。
「そう言えばノブナガさんお金無いんですよね? 武具は持ってたりしないですよね?」
「うむ、武具は持っていない」
すると女はカウンターの奥に歩いて行き、少しすると、ガチャガチャと音を立てながら戻ってきた。
そこには数種類の武器があった。
刀のようなものに、槍、棘の付いた篭手のようなもの。
「ギルドでは武具を持っていない冒険者に無料で貸出しています。この中からお好きなものを一つお取りください」
女は抱えていた武器を並べて言った。
一目見た時から刀のようなものに決めていた。
それを手に取り、鞘から抜いてみる。
刀とは違い、刀身は流線型ではなく、真っ直ぐで、両刃になっていた。
それを腰に差し、地図を見ながらギルドを後にした。
街中を抜け、街を取り囲む外壁の下の門を抜け、野原をひたすら歩くと目的の農園に到着した。
そこには農園の持ち主であろう中年程の男がいた。
こちらを見つけると、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「もしかして、冒険者の方ですか?」
「如何にも」
「よかった。ようやく来てくれたんですね。上がっていってください、スライムが来るにはまだ少し時間がある。昼食でも一緒にどうですか?」
昼食、その単語を聞くだけで口の中が涎で溢れそうになる。
言葉に甘え、家へと上がる。
家の中には尾張やそこらの城や屋敷では見た事の無い家具ばかりだった。
見慣れない家具達を見渡していると、農場の主の男は皿に三角形の白く、間に野菜が挟まった物を持ってきた。
「何だ? それは、食べ物か?」
「おや? サンドイッチをご存知でないのですか。まぁ、美味しいので食べてみてください」
そう言うと男は皿をこちらに差し出した。
一切れ手に取り、口へ運ぶ。
「ふむ、中々美味いではないか」
今まで何も食べてなかった胃袋に食べ物が入り、体中に栄養が行き渡るのを感じる。
ペロリとサンドイッチを平らげ、ゆっくりしていると、男は窓の外を指さした。
「あっ、来ましたよ、スライム」
窓の外を見ると、見るからに柔らかそうな外見の丸い生き物がいた。
ただ、ギルドで女が教えてくれた大きさとは似ても似つかず、その10倍――いや、20倍はあるであろう大きさだった。
しかし、金のためには大きさはさして問題では無かった。
立て掛ていた剣を手に取り外へ駆け出す。
「その首、この信長が頂戴する!」
そう言い抜刀し、スライムに斬り掛かる。
すると、人間の首を落とすのとは違い、謎の弾力を剣越しに感じ、弾き返される。
何度斬り掛かっても無情に弾き返されるだけであった。
「チッ、これでは埒が明かない」
ただひたすらに考えた。コイツの息の根を確実に止める方法を――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる