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信長編
人を喰らいし樹木
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木々の生い茂る森を、ただひたすら東へと歩き続ける。湿った土と木々の匂いが、鼻をくすぐる。
「まだ着かんのか」
いい加減歩き疲れてきたのにも関わらず、未だに目的の場所にたどり着かない。
森の中だからか、途中途中には、モンスターがいて、こちらを視認すると容赦なく襲い掛かってくる。
逃げるのもいいのだが、逃げて方角が分からなくなっては元も子も無いので、一々相手をしなくてはならい。それも、無傷で倒せれば良いのだが、森の中に薄く漂う霧のせいで、視界は最悪で全ての攻撃が躱《かわ》し切れない。
所々に負ったかすり傷から少量だが流血している。服も所々が破れている。街に帰ったら新調しなければなと考えながら目的地へと向かう。
それからどれくらい経ったか分からないがようやく木々の隙間から微かな光が見えてきた。
嬉しさのあまり光へ向かい走り出す。途中で何度か木の根に引っ掛かり転びそうになったが、何とか持ちこたえ、森を抜けた。
森を抜けると、そこは小高い丘になっており、眼下には小さい街が広がっていた。
小規模の風車がいくつも立っており、通りにはルスキニアの通りと同じように屋台が所狭しと並んでおり、たくさんの人が往来していた。
情報収集と休憩を兼ねて街へと降りる。
街には丘の上から見た以上の人がいた。
通りを歩く人に食人樹の情報を聞いてみる。
どうやら、この街から更に東に行ったところにある平原に生えているらしい。
ルスキニアを出発してかなり時間が経っており、腹の虫が飯はまだかと訴えかけてくる。
通りにある屋台でフォレストウルフの串焼きと、最近お気に入りのスライムゼリー寒天を買い、ベンチに座りペロリと完食した。
街を抜けるために通りを東に進んでいると、奇妙な屋台を発見した。
「何だ……ヒーリングボトル?」
すると、屋台の店主が、こちらが見ていたのに気付いたようで声をかけられる。
「おぉ、ボウズボロボロじゃねーか。このヒーリングボトルいるかい? その傷、治るぜ」
かなり胡散臭かったが、変な好奇心にそそのかされ、買ってしまった。
「本当にこんな物が傷を治せるのか?」
疑い半分にボトルの蓋を空ける。中からは、植物らしき苦そうな臭いが鼻に突き刺さる。
飲み口を口に当てて勢いよく飲み干す。
とてつもない苦味の後に来る仄かな甘さに吐き出しそうになったが、堪えて飲み込む。
すると、体にあった無数のかすり傷から暖かく、淡い緑色の光が出てきて、傷口を優しく包み込んだ。光は消え、傷口を見ると見事に跡形もなく消えていた。
「不思議な薬だ、この世界はまだ謎だらけだな……」
体を万全のコンディションに整えると食人樹の生えている平原を目指し街を後にする。
流石に遠いこともあり、途中の集落の宿屋で一夜を明かし、再び歩き始める。
集落を出発してかなり時間が経ち、太陽は既に頭上にまで登っている。
「あれは……まさか」
ついに見つけた目的の食人樹、だだっ広い平原にぽつりと生えた漆黒の巨木。周りには、食人樹に栄養を持っていかれ枯れたであろう木々が数十本と生えていた。
「開戦だ――」
腰のマチェーテを抜刀し、全力疾走で食人樹との距離を詰める。
こちらの存在を認識したのか、食人樹は、本体の幹から伸びる根をゆっくりと動かした。
「その図体では機敏には動けまい!」
食人樹の本体の幹まであと数メートルに迫った所だった。唐突に体の右半身に強い衝撃を受け、2メートルほど吹き飛ばされた。
「ッ――!? 何だ?」
すると、本体の周りから数十本の根が地中から出現し、こちらを嘲笑うようにうねっている。
どうやら、この森があった範囲全てがやつの間合いらしく、本体を攻撃するには、数十本の木の根を掻い潜るしか方法は残されていなかった。
何度か深呼吸をし、覚悟を決め腰を落とす。地面を踏み抜かんとばかりに蹴り、やつの間合いへと疾走する。
思ったよりヤツの対応は早く、間合いに入ると共に数本の根が襲い掛かる。
薙ぎ払おうとする根を飛び越え、振り下ろされる根を横に跳躍して躱し、本体まで約3メートルまで肉迫する。
――頭の中から余分な思考を排除し、ただひたすら左手に魔力を集めることに集中する。掌から溢れんばかりの青白い炎が生成される。
「燃えろ――」
左手から放たれた青白い炎の塊は、本体へ向け一直線に飛んでいき着弾、爆破――することは無く、少し手前から飛び出した根に守られ、不発に終わった。
空中で回避ができないところを根が叩きつけた。
受身を取ることもできず、背中から地面に叩きつけられる。
空気を求めて喘ぐ。
ようやく呼吸ができるようになり、もう一度構える。
鋭く尖《とが》った触手のような根が猛スピードでこちらへ向かってくる。
それを回避――しようとするも足が動かない。
動けっ! 動けっ! 頭の中で必死に念じても一向に動く気配はない。
咄嗟に腰に下げたマチェーテを抜き、ギリギリのところで根をいなす。
いなされた根は数センチ右の地面を深く抉った。背中に冷や汗が流れるのを感じる。『このままでは殺られる』そんな考えが脳裏をよぎった時だった。リザードマンと戦った時のように、全身から力が湧いてくる。そして、更に、腕には黒く、禍々しい痣《あざ》のようなものができていた。
再び食人樹が数本の根を、こちらに向かって勢いよく伸ばす。今まではギリギリでいなしていたが、今はよく見え、考えてから回避できる。体も自然と思考についてくる。
食人樹が伸ばした根を、掻い潜るように全て躱《かわ》し、懐に入り込み、黒い痣の移ったマチェーテを根に差し込む。驚く程抵抗もなく刺さる。
「燃え尽きろ!」
炎属性魔法を発動する。すると、マチェーテの柄から刀身の先にかけて赤い光の筋が走る。その刹那、食人樹がみるみるうちに膨張していき、真紅の炎――ではなく、禍々しい黒炎を噴き出しながら爆散した。
「やっと……終わっ――」
またもや視界が暗転し、深い闇に包まれた。
「まだ着かんのか」
いい加減歩き疲れてきたのにも関わらず、未だに目的の場所にたどり着かない。
森の中だからか、途中途中には、モンスターがいて、こちらを視認すると容赦なく襲い掛かってくる。
逃げるのもいいのだが、逃げて方角が分からなくなっては元も子も無いので、一々相手をしなくてはならい。それも、無傷で倒せれば良いのだが、森の中に薄く漂う霧のせいで、視界は最悪で全ての攻撃が躱《かわ》し切れない。
所々に負ったかすり傷から少量だが流血している。服も所々が破れている。街に帰ったら新調しなければなと考えながら目的地へと向かう。
それからどれくらい経ったか分からないがようやく木々の隙間から微かな光が見えてきた。
嬉しさのあまり光へ向かい走り出す。途中で何度か木の根に引っ掛かり転びそうになったが、何とか持ちこたえ、森を抜けた。
森を抜けると、そこは小高い丘になっており、眼下には小さい街が広がっていた。
小規模の風車がいくつも立っており、通りにはルスキニアの通りと同じように屋台が所狭しと並んでおり、たくさんの人が往来していた。
情報収集と休憩を兼ねて街へと降りる。
街には丘の上から見た以上の人がいた。
通りを歩く人に食人樹の情報を聞いてみる。
どうやら、この街から更に東に行ったところにある平原に生えているらしい。
ルスキニアを出発してかなり時間が経っており、腹の虫が飯はまだかと訴えかけてくる。
通りにある屋台でフォレストウルフの串焼きと、最近お気に入りのスライムゼリー寒天を買い、ベンチに座りペロリと完食した。
街を抜けるために通りを東に進んでいると、奇妙な屋台を発見した。
「何だ……ヒーリングボトル?」
すると、屋台の店主が、こちらが見ていたのに気付いたようで声をかけられる。
「おぉ、ボウズボロボロじゃねーか。このヒーリングボトルいるかい? その傷、治るぜ」
かなり胡散臭かったが、変な好奇心にそそのかされ、買ってしまった。
「本当にこんな物が傷を治せるのか?」
疑い半分にボトルの蓋を空ける。中からは、植物らしき苦そうな臭いが鼻に突き刺さる。
飲み口を口に当てて勢いよく飲み干す。
とてつもない苦味の後に来る仄かな甘さに吐き出しそうになったが、堪えて飲み込む。
すると、体にあった無数のかすり傷から暖かく、淡い緑色の光が出てきて、傷口を優しく包み込んだ。光は消え、傷口を見ると見事に跡形もなく消えていた。
「不思議な薬だ、この世界はまだ謎だらけだな……」
体を万全のコンディションに整えると食人樹の生えている平原を目指し街を後にする。
流石に遠いこともあり、途中の集落の宿屋で一夜を明かし、再び歩き始める。
集落を出発してかなり時間が経ち、太陽は既に頭上にまで登っている。
「あれは……まさか」
ついに見つけた目的の食人樹、だだっ広い平原にぽつりと生えた漆黒の巨木。周りには、食人樹に栄養を持っていかれ枯れたであろう木々が数十本と生えていた。
「開戦だ――」
腰のマチェーテを抜刀し、全力疾走で食人樹との距離を詰める。
こちらの存在を認識したのか、食人樹は、本体の幹から伸びる根をゆっくりと動かした。
「その図体では機敏には動けまい!」
食人樹の本体の幹まであと数メートルに迫った所だった。唐突に体の右半身に強い衝撃を受け、2メートルほど吹き飛ばされた。
「ッ――!? 何だ?」
すると、本体の周りから数十本の根が地中から出現し、こちらを嘲笑うようにうねっている。
どうやら、この森があった範囲全てがやつの間合いらしく、本体を攻撃するには、数十本の木の根を掻い潜るしか方法は残されていなかった。
何度か深呼吸をし、覚悟を決め腰を落とす。地面を踏み抜かんとばかりに蹴り、やつの間合いへと疾走する。
思ったよりヤツの対応は早く、間合いに入ると共に数本の根が襲い掛かる。
薙ぎ払おうとする根を飛び越え、振り下ろされる根を横に跳躍して躱し、本体まで約3メートルまで肉迫する。
――頭の中から余分な思考を排除し、ただひたすら左手に魔力を集めることに集中する。掌から溢れんばかりの青白い炎が生成される。
「燃えろ――」
左手から放たれた青白い炎の塊は、本体へ向け一直線に飛んでいき着弾、爆破――することは無く、少し手前から飛び出した根に守られ、不発に終わった。
空中で回避ができないところを根が叩きつけた。
受身を取ることもできず、背中から地面に叩きつけられる。
空気を求めて喘ぐ。
ようやく呼吸ができるようになり、もう一度構える。
鋭く尖《とが》った触手のような根が猛スピードでこちらへ向かってくる。
それを回避――しようとするも足が動かない。
動けっ! 動けっ! 頭の中で必死に念じても一向に動く気配はない。
咄嗟に腰に下げたマチェーテを抜き、ギリギリのところで根をいなす。
いなされた根は数センチ右の地面を深く抉った。背中に冷や汗が流れるのを感じる。『このままでは殺られる』そんな考えが脳裏をよぎった時だった。リザードマンと戦った時のように、全身から力が湧いてくる。そして、更に、腕には黒く、禍々しい痣《あざ》のようなものができていた。
再び食人樹が数本の根を、こちらに向かって勢いよく伸ばす。今まではギリギリでいなしていたが、今はよく見え、考えてから回避できる。体も自然と思考についてくる。
食人樹が伸ばした根を、掻い潜るように全て躱《かわ》し、懐に入り込み、黒い痣の移ったマチェーテを根に差し込む。驚く程抵抗もなく刺さる。
「燃え尽きろ!」
炎属性魔法を発動する。すると、マチェーテの柄から刀身の先にかけて赤い光の筋が走る。その刹那、食人樹がみるみるうちに膨張していき、真紅の炎――ではなく、禍々しい黒炎を噴き出しながら爆散した。
「やっと……終わっ――」
またもや視界が暗転し、深い闇に包まれた。
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