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第二部 堅物軍人、パーティを開く
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しおりを挟む「緑狸といいますと、南海道の八百狸は隠神刑部様のところの姫君が嫁がれているはずです」
帰宅して、源二郎は自分を迎えに出て来てくれた千花子に草薙清治の話をした。その兄の非礼について、おっとりとしたあやかし狐の姫君はさほど気にしていなかったようで、代わって弟が詫びに来るという、その旨には触れず、緑狸について自身の知る知識を口にした。
妖怪狸は今は四国と改められた旧南海道に多く伝承が残っており、隠神刑部といえば今は源二郎も聞いた事がある有名な怪狸である。
「お客様がいらっしゃるのですね? まぁすてき!」
顔見知りではあるが、妖狐と怪狸はそれほど交流があるわけではない。しかし同じ人間の嫁いだあやかし同士であればきっと仲良くなれるだろうと千花子が喜んだ。源二郎は目を細め、日程について都合の良い日を相談した。
「わたくしはいつでも、」
「ちょっとちょっと、奥様、それに旦那様。何をのんきにおっしゃってるんです。お客様がいらっしゃるんですよ? そんなすぐに準備なんかできるわけないでしょう」
早い方がいいだろうか、と二人で緑狸の草薙殿を迎える日を考えていると、それまで黙って控えていた下田栄子が待ったをかけた。
元々日本橋の米問屋で奉公していた女中、人間だが、物事をはっきりと言わねば気が済まない性格から頭の後ろがぱっくり割れた二口女である。
「何か問題があるのか?」
客といえば、いつも神田がひょっこりとやってくる。何も初めてのことでもない。茶は良いものが揃えてあるし、茶菓子も銀座あたりで何か見繕うのに時間はかからないだろう。
揃って首を傾げる小坂夫妻に、栄子は呆れたように溜息をつく。
「……相手は商売敵なんですよ? なめられちゃいけません。粗茶だろうがその辺の草を出そうが旦那様がいればご機嫌な神田様とは違いますよ」
きちんと、この家の格式に合った相応しい迎え方をするべきだと栄子は強く言う。
赤狐と緑狸が商売敵かどうか、いや、違うだろうと源二郎は思うがそのあたりの感覚は人それぞれである。
「折角、昔はお禄を頂いていたほど立派な武家のお屋敷だっていうのに、旦那様は見た目を気にしないし、奥様は見栄とかそういうものがないんですから」
源二郎としては、家は住む者がくつろげる場であればいいと考えている。庭には千花子のための小さな稲荷社があり、管狐や火狐がキィキィとひっきりなしに出て遊べる。部屋の掃除もおろそかにはしていない。何の問題があるのかと思うが、確かに実家や姉の家の雰囲気とは異なる。
栄子は座敷に飾る花器や掛け軸、来客の為の茶器などから用意しなければと顔を顰める。栄子に言わせれば、そもそもこの家は他人を迎えられる用意がまるでないという。
「それに、奥様の着物も新しく仕立てるべきですよ」
「……そこまでするのか?」
「………当然でしょう?」
晩餐会に出るわけでもなし、ただ客を迎えるだけだ。源二郎が栄子に「やり過ぎではないか」と言おうとすると、使用人は主人に「は?何言ってんだこいつ」というような胡乱な目を向ける。
「相手も奥様を伴っていらっしゃるんでしょう? あちらだって、立場のあるご婦人ですよ。謝罪に来るというのでそれほど華美な恰好はなさらないと思いますが、万が一、うちの奥様の方がみすぼらしい恰好だったら、奥様が恥をかくんですよ」
装いというのは大切だと栄子は強く言う。
「まぁ、そうなんですの?」
あやかしである千花子にそのあたりはよくわからない、が、栄子の言葉に信頼を寄せているので「そうなのか」と納得するように頷き、やや不安そうな顔をする。
「確か……緑狸の姫君はとても華やかな方でいらっしゃると、お姉さまたちがお話されていた覚えがあります。ご結婚されたのは十年ほど前、きっと、人の世によく馴染んでいらっしゃるんでしょうね……」
礼儀作法をわきまえぬと思われるのではないかと千花子の顔が曇る。
「それに……旦那様が、おなじ姫ならあちらの方の方がよかった、などと思われるのは嫌です」
「おれは他人の装いで何か感じ入れるほど器用な男ではありません」
千花子殿であればどのような装いをしていても愛らしいだろうと源二郎は思う。しかし、確かに妻に新しい着物を仕立てるのも夫の甲斐性だろうと思う。緑狸を迎えるのとは別に、呉服屋を呼ぼうと考えた。
「それに、いらっしゃるお時間によってはお昼や御夕飯をご一緒されるかもしれないんですよ。その用意だってしておかないと」
「出前があるだろう」
そうなれば蕎麦や鰻、寿司を頼めばいい。
「こういうのはですね、旦那様。当り前のようにすっと出すものなんですよ」
態々用立てた、というようなのは野暮らしい。「せっかくなのでご一緒にどうですか」と誘う自然さがなければならないという。
「まぁ! では、オムライスはいかがでしょう? わたし、あれがとても好きです」
「神田のところの豆助先生に来ていただければ、当日おれが相手をしている間にこしらえて貰えるな」
珍しい洋食であれば喜ばれるだろう。源二郎は千花子の提案に頷く。
「それにお膳であれば、慌てて買い揃えなくても良いものが借りれます。竜王様のところの乙姫に手紙を書けば必要な分、用立ててくださいますよ」
と、千花子は続けた。竜宮城といえば宴会が多く開かれる場所だが、そこの乙姫が宴会道具の貸し出しを行っているらしい。買えば場所と手入れの手間がかかるので、あやかし達はよく利用しているそうだ。
早速千花子は乙姫に、源二郎は神田と豆助師匠に手紙を書いた。
神田はすぐに飛んできて「なんで謝りにくるあっちを君が色々準備して迎えないといけないのか理解できない」「そもそも家に入れるのだって僕は納得していない」とわざわざ文句を言いに来た。しかし一緒に来た豆助の方は、源二郎の頼みを快諾する。
オムライス以外にも何かこしらえましょうと請け負う豆助に頭を下げ、源二郎は神田のことは無視した。
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はじめまして!
とてもおもしろくてあっという間に読んでしまいました!!素敵な作品に出会えて幸せです。続きを楽しみに待っています。
どうも!以前感想を送ったありーなです。
最新話見ました!
源次郎が他の隊員から邪険にされる理由にまさか彼が関わっていたなんて!
人質まで取るなんて…
みんな話したかったんですね〜
つづきも楽しみにしてます!
とっても面白かったです。
神田と源次郎のからみがすきで最後のほうはずっと笑ってました(笑)
まだ連載中ということでつづきをまってます!