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学園の敷地内にあるレストランへと入り、肉料理を頼む。
サラダとパンはおかわりし放題なので成長期の身体には嬉しい限りだ。
(ここの食事ってうまいよなあ、やっぱり良家の坊ちゃん嬢ちゃん達使用になってるのかな?)
レストランにはメニューが充実しているし、カフェでも様々な軽食が楽しめる。
そのどれもが学生が食べるにしては質の良いものが取り入れられているのだ。
が、しかし。
(……そろそろ、米食いたいよなあ)
身体はこちらの食事で育っているのだから慣れ切っている。
しかし感情面で、なんとなく、米が食いたい。
何となくじゃない、切実だ。
この国にも米はある。
あるのだが、日本食のように米だけで食べるという事はあまりしない。
リゾットやパエリアのようなものはあるのだが、白米だけで食べるという習慣がないようなのだ。
(米、牛丼、かつ丼、焼き魚定食、豚汁……あああ考えれば考える程日本食が恋しくなってくる……!)
懐かしいなあ。
サラリーマン時代は短い昼休みにすぐ済ませられるから良く食べていた。
ハンバーガーとかはなんとか再現出来るけど、米ばかりは難しい。
隣国では確か米の文化が盛んだったよな。
隣国と言っても海を跨いでいかないといけないけど。
さすがに許可も何もなしに突然隣国へと行けるはずはない。
輸入品とかでどうにかして食べれないかなあ米。
日本人たるもの米を食わねば。
今は日本人じゃないけど。
今度の休みに街まで行こうかな。
そうだそうだ、そうしよう。
米を求め、週末の休みに街まで行く計画を立てていると。
「エル」
「……またですか」
正面にダリアが腰をかけた。
昼休みなのだからここにいてもおかしくない。
おかしくないが、何故俺の近くに来る。
席は他にも空いているし、ダリアに来て欲しそうに視線をちらちらと寄越している奴らがいるというのに。
そいつら全員に睨まれるのは俺なんだから本当に止めて欲しい。
「寂しそうだったからつい、な」
「これっぽっちも寂しくないので、どうぞ他所へ行って下さい」
「つれないな」
「つられたらたまりませんから」
わざわざ食事の途中でやってくるなんてアホとしか言いようがない。
今回は正面に座っただけ偉いけど。
いつもなら隣に座ってくるからな、こいつ。
無視して食べよう。
さっさと食べて週末の予定を立てよう。
デレクと出かけるのもありだよなあ、でもあいつ毎回休みの度に鍛錬してるからなあ。
誘うだけ誘ってみるか。
ダメだったら……そうだ、あの人を誘ってみようかな。
頭の中にとある人物を思い浮かべながら食事を進めていると、ふと強烈な視線を感じた。
犯人はただ一人、目の前のダリアだ。
「……食べないんですか?」
「いや、あまりにおいしそうに食べるから見惚れてた」
「見ないで下さい」
「無理だ、視線が吸い寄せられてしまうのだから」
「……」
うっっっぜえ。
声に出さなかった俺を誰か褒めてくれ。
「早く食べないと昼休み終わりますよ」
「ああ、そうだな」
促すと素直に食べ始める。
さすが王子、パンひとつ食べるだけでも様になっている。
顔も文句なしにカッコイイのになんでまあこんな冴えない男に付き纏っているのか不思議でならない。
婚約解消を宣言した時のこいつはどこ行っちまったんだ。
あのまま放っておいてくれればもっとこの世界を楽しめたのになあ。
「ところで、週末はどうするんだ?」
「聞いてどうするんですか?」
「決まってるだろ、デートに誘う。連れていきたい店があるんだ」
「お断りさせていただきます」
「断るのが早すぎないか」
「最後まで聞いただけありがたいと思って下さい」
デートという単語が出た時点で断ってもよかったのを我慢したのだ。
褒めてほしいくらいだ。
「予定があるのか?」
「ええ、まあ」
「誰とだ?」
「関係あります?」
「ある」
どうせ婚約者だからとでも言うんだろ。
「俺はお前の婚約者だぞ?」
はい言った。
もう聞き飽きたそのセリフ。
「婚約者でも自由くらいはあるでしょう?毎回の休みを一緒に過ごさなければならないなんて決まりもありませんし」
「……それは、そうだが」
しゅん、と眉を下げるダリア。
おいバカやめろそんな顔したらまた取り巻き達がうるさくなる。
「エルの奴……!ダリア様に誘ってもらっておいてお断りするなんて……!」
「ありえないわ!何様のつもりなの!?」
「王子も何だってあんな奴……!」
ああ、ほらうるさくなった。
うるさくなるってわかって断る俺も俺だけど。
「ごちそうさまでした」
「もう食べたのか?」
「王子も早く食べた方が良いですよ」
「……王子と呼ぶなというのに」
俺が立ち上がると同時にダリアは大勢に囲まれる。
ついでとばかりに身体にぶつかってくる奴がいるが無視だ無視。
(さーて、デレクはどこだ)
検討はついている。
鍛錬大好きデレクはきっと、昼休みも鍛錬上にいるはずだ。
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