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しおりを挟む「こんな所で何を……」
と言いかけたところで傍らのアマリリスに気付いたダリアの視線が険しくなる。
「何をしているんだ?」
「別にー?エルくんがいたから声かけただけだもーん」
「その手は何だ」
「ふふ、羨ましいのー?」
「ちょっ……」
じろりと俺の袖を掴むアマリリスの手を睨むダリア。
そんなダリアの射抜くような視線にも動じず、それどころか更に引っ付いてくるアマリリス。
大物すぎるだろ。
というよりもくっつくなと言ったのに何をしてるんだこの子は。
「離れろ」
「やだ」
両者の間でばちばちと火花が散っているのは気のせいではないはず。
「ていうかそっちこそ何してたのー?あんな人気のない場所でベアトリスさんと二人っきりで」
「それは……」
わざとらしく、人気のない場所と二人っきりという所を強調するアマリリス。
刺激するじゃないよ全く。
今までので態度を改めるんじゃなかったのかと思ったが、まあ以前よりは一応大人しくなっているし妙な勘違い発言もないから何とも言えない。
そして一国の王子ともあろう人物がこんなに軽い挑発に乗らないで欲しい。
「言えないような事してたのー?やーだやらしー!」
「妙な勘繰りをするな!」
「ただお話していただけです!誤解を招くような事は仰らないで」
アマリリスの挑発にダリアばかりかベアトリスも不愉快そうに、そして慌てた様子で言い返している。
ここで慌てちゃったら例え違ったとしても肯定してるように見えちゃうのには気付いていないのだろうか。
その証拠に、ちらほらと増えた野次馬が『やっぱりあの二人……』だの『密会してたのかしら』だの『やっぱりお似合いだわ』だの『修羅場?修羅場なの?』だのとひそひそ囁き合っている。
「誤解かなあ?だって婚約の事話し合ってたんでしょー?」
「っ、そ、それは……」
「あーほら図星だ!実はもう二人とも良い感じなんじゃないのー?」
「な……!?」
「って事はダリアくんの婚約者がベアトリスさんに代わるんだから、エルくんは私が貰っても良いって事だよねー?」
いや、何でだよ。
俺の突っ込みは口から出せなかったが、代わりにダリアが出してくれた。
「なんでそうなる!!!というよりも俺はエルを手放すつもりなどない!」
「えー?じゃあ二人と婚約するってこと?やだあ」
「ベアトリスとは……!」
否定しようとするが、この状況ではっきりきっぱりと否定してしまうとベアトリスの外聞に関わる。
ちらほらとしか人がいないとはいえ、自分達がいかに目立つ存在なのかをわかっているのだろう。
賢明な判断と言えるが、当のベアトリスとしてははっきりと否定して貰っても構わなかったように見えるが、ここにきて妙な気遣いを発揮したダリアが不自然に言葉に詰まる。
「ダリア様……」
「ほーらほらほら否定出来ないんじゃーん」
「っ、お前はもう黙っていてくれ……!」
くるくると人差し指を回してからかうように告げるアマリリス。
流石にこれ以上は無関係な人間が踏み込むのはいただけない。
もちろん俺も部外者の一人なので、尚も攻撃しようとするアマリリスを制し、少しだけお口にチャックをさせる。
やっと黙った彼女を後目に、ダリアは再度こちらへと向き直り……
「エル、違うからな?」
またも、そんな説明という名の言い訳をしようとしてきた。
採算の説明に俺はもうお腹いっぱいである。
「だからちゃんとわかってるって」
「エル」
「ベアトリス、可愛いもんな、うん、わかるよ」
「全然わかっていないじゃないか!だから違うんだ!」
この前から違うんだと何度も言われているけれど。
「違うって何が?」
「だから、それは……!」
ちらりとベアトリスに視線をやるダリア。
普段のこいつならば、その瞬間のベアトリスの視線の意味を汲み取り言わんとしている事を間違えずにきっちりと告げられたはず。
だがしかし、今のダリアはいつになく焦っていて、俺ですら気付いたその目配せに気付かなかった。
それにひっそりと溜め息を漏らし、ぽつりと一言。
「もう違うは聞き飽きたんだけど」
「!」
小さな声だったけれどダリアの耳にはしっかりと届いたようだ。
「悪い、そういえば用事あったんだ」
「エル!」
「ついて来ないで下さいね」
「……っ」
先程のもやもやが久しぶりの敬語という形で表に出てきてしまった。
絶句して固まってしまったダリアと、同じくその斜め後ろで固まるベアトリス、そしてまだ何か言い足りなさそうに俺に着いて来ようとするアマリリスを置いて、足早にその場を立ち去った。
(……今のはちょっと大人気なかったか?)
あしらい方が冷たすぎただろうか。
しかし何の結論も出せていないまま、ただ違うと、信じてくれとだけ言われても何をどう信じたら良いのかわからない。
何度も何度も説明する度に言われる違う、違う、違うというセリフ。
一体何が違うというのだろうか。
ちゃんと説明を聞いたけれど、現状ベアトリスがダリアの婚約者候補に収まっているのは事実だ。
何も違う事などない。
(もし本当に婚約するにしろ、断るにしろ、あんな中途半端な態度じゃベアトリスにも俺にも失礼だってわからないもんかね)
知らず知らず何度も漏れる溜め息。
無意識に足を進める内にやってきたのは、通い慣れた竜舎だった。
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