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しおりを挟む初恋は実らないという。
初恋どころか、オレは今二度目の恋に破れている真っ最中である。
「悪いけど全然好みのタイプじゃねえわ」
好きです、と告白をしたところ、少しも悩む事なく返されたのがこのセリフ。
悲しいとか感じる間もなく無惨にもフラレてしまった。
*
「……ふられた」
即座に知り合いを呼び出し報告すると、目の前の男前がぽかんと口を開いて固まった。
「え、本当に告白したの?」
「本当にって、芦原さんが告白しろって言ったんじゃん!?」
「いや言ったけどまさか本当にするとは思わないじゃん!」
驚きの表情を浮かべているのが知り合いの芦原という男。
出会いは数ヶ月前の、所謂ハッテン場。
興味があって行ってみたは良いものの、勝手がわからず右往左往していたところで声を掛けられ。
当たり前のようにホテルへと行き、そういう雰囲気になったのだが。
『……もしかして、初めて?』
『……っ』
キスをしただけで震えてしまったオレにあっさりと初めてだということがばれ。
『こんの、お馬鹿!!!』
『あいたー!?』
拳骨を喰らった上に盛大なお説教をかまされた。
大切な初めてを初対面しかも行きずりの男に託すだなんて何を考えてるんだもっと自分を大事にしろ、と一息で告げられた。
女の子じゃあるまいしと思ったが、男も女も関係ないとまたも殴られた。
それ以来、何かあるとこうして相談に乗ってもらっている。
「で、三井くんだっけ?好きな人」
「うん」
「ふられちゃったかあ」
「しかもコンマ一秒だよ!?ありえなくね!?ちょっとは悩めよ!しかも好みのタイプじゃないとか!悪かったな地味男でえええ!!!」
ぐああ、と頭を抱える。
どうせ地味ですよ!
地味だから何だってんだ!
地味には人権がないとでも思ってるのか!?
顔が全てじゃないだろ!!
なんて、まあオレも最初は顔で選んだけれど。
芦原に着いて行ったのだって顔が好みだったからだけど。
でも顔だけで付き合いたいと思うはずがないじゃないか。
とっかかりは顔だったけれど、意外と優しいところとかも好きだったのに。
ちくしょう、とガタガタ足を揺らすオレの頭に大きな手が乗せられた。
「静樹は充分可愛いと思うけどねー」
「芦原さん……!」
優しく撫でられ微笑まれる。
ほんと男前だな芦原は。
なんで芦原に惚れなかったんだろうオレ。
「そう言ってくれるのは芦原さんだけだよおおお!」
「あはっ、だろうね」
「ちょ、だろうねって何だよそれ!」
「オレいっつも趣味悪いって言われるからさあ。いや、オレは本気で可愛いと思ってるよ?だからあの時も声かけたんだし」
きっと間違いなく暗に誰も可愛いとは思わないと言っているんだろうけれど、あまりに爽やかに素敵な笑顔でもって言われてしまい、反論する気にすらならない。
芦原が可愛いと思ってくれているのは事実だろうし。
「……オレ可愛い?」
「うん、可愛い。すごく可愛い」
他の誰かに言われたってこれっぽっちも嬉しくないだろうセリフなのに、何故か芦原から言われると恥ずかしくもあるが、嬉しい。
そして素直に聞ける。
「芦原さん、今日泊まっても良い?」
「……駄目」
困ったような笑みを浮かべて断られた。
いつからだったか忘れたのだが、芦原にはどうやら好きな人が出来たようだ。
出会った当初は快く泊めてくれていたのに、最近は全く泊めてくれない。
(家で誰か待ってんのかな)
そう思うのは自然な事だと思う。
というよりも待っているのだろう。
はっきりと聞いた事はないが、確実に。
「ちぇー、残念。失恋パーティーでもしようかと思ったのに」
「それなら今やろ。家はまた今度ね」
「うん」
また、とはいつやってくるのだろうか。
そんな考えを振り払う。
「じゃあここ芦原さんの驕りね!何食おっかなあ」
「はいはい、好きなもの食べな」
どこかもやもやしたものが残っている事には、気付かないフリをした。
*
翌日学校へ行くと。
「黒谷、お前三井に告ったんだってー?」
友人、小池からの第一声に眉間に皺が寄る。
「なんで知ってんの?」
「三井絡みだからなあ。すげえ噂になってるぜ?」
「うわ、マジでか」
三井の人気は知っていたつもりだが、まさかこんなに早く噂になるとは。
オレが告白する前にも誰が告っただとか誰がヤッただとか様々な噂が出回っていたが、次の日ってどんだけだ。
「で?ふられた心境はどうよ?」
「どうもこうもあるか」
「可哀想になあ、まあしょうがねえよ。三井の好みはなんてったって派手なスレンダー美人だからな」
「どうせオレは欠片もかすってねえよ!」
肩を抱き慰めるように言ってはいるが、内心からかう気満々なのがこれでもかというくらいに伝わってくる。
それでも友達かこのやろう。
「お、噂をすれば」
「!」
正面から複数の友人に囲まれて三井がやってきた。
相変わらず派手な出で立ちで周りの友人達も漏れなくド派手。
視線をあげ、いつものように見つめてしまっていると。
(……あ、目合っちゃった)
三井の周りもオレに気付き、指をさしこそこそと何かを囁き合っている。
嫌な感じ。
どうせ告白したオレをからかうような内容なのはわかりきっている。
さて、当の三井はどうだろう。
嘲笑されるか。
身の程知らずと罵倒されるか。
はたまた華麗に無視か。
さあどれだ、と三井の反応を伺うと。
「……?」
がっつりと、睨まれた。
え、何。
何で睨まれてるんだオレ。
何かしたか。
いや告白はしたけれどそれだけで睨まれる訳がないし。
「怖っ」
オレの肩を抱いたままの小池が小さく呟く。
確かに怖い。
元々が切れ長の目をしているし、造りが綺麗だから余計に怖い。
思わず身構えるが、三井は何も言わず、何もせず。
ただ隣を通り過ぎて行った。
三井の周りも戸惑った様子で追い掛ける。
「何々、お前告った他になんかやらかした?」
「は?するかよ!つか瞬殺だったからそんな暇もなかったっつーの」
「瞬殺!!!」
「……」
「ぐはっ!」
ばっと手で顔半分を覆い、明らかに爆笑したいのを堪えているような小池の様子に、無言で肘を当てたのは言うまでもない。
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