三度目の正直

うりぼう

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芦原サイド

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「三井!三井ってば!」
「……」
「おい!てか痛いんですけど!」

無言のまま連れてこられたのは普段ほとんど人気のない空き教室。
一部ではヤリ部屋なんて言われている場所。
もしかして使った事あんのかな、三井も。
迷わずに連れてきたぐらいだからそうなんだろうな。

いやそんな事よりもまず手を離してくれ。

「おわ!?」

そんな事を思っていると、ダンッと乱暴に壁に背を押し付けられた。

「いっ、た……!」
「お前、なんのつもり?」
「は?」

いやそれこっちのセリフなんですけど。
お前がなんのつもりだよ無理矢理こんな所まで人を引き摺ってきて。

腕も背中も痛いし地味にぶつけた頭も痛い。
告白してから今までこれでもかと邪険に扱われていたオレの堪忍袋は既に髪の毛よりも細く脆い。
何故オレがこんな扱いを受けなければならないのか。
意味がわからずただただ理不尽な扱いをする三井を
睨みつけていると。

「お前、オレの事好きなんじゃなかったのかよ?」
「…………は?」 

問われたセリフに目玉がどこかへ飛んでいった。
怒りもすぽんと抜けてしまう。
このセリフをオレはどう捉えれば良いのだろうか。

何で今?
というよりもその質問の意図は?
好きだから何?
確かに好きだった。
好きだったけれど。

「もう諦めたから」
「……は?」

そう、諦めた。
自分の事を好きになってくれる可能性が全くない相手を、いつまでも不毛に想い続けてなんていられない。

そう告げた途端三井の表情が険しくなる。

「っ、ざけんなよ!」
「え!?」

これまた突然の悪態。
それと同時に顔にかかる影。
押し付けられていた背が更に強く押され、戸惑っている間に唇を覆われた。

「!?ちょ……!」

あああしかも舌まで入れてきやがったこいつ。

何!?
本当に何がしたいんだこいつは!!

好きだと言ったら即座に断ったくせに、もう諦めたと言ったらこうして触れてくるなんて。

頭は混乱しているが、ひとつ確かな事がある。

(……っ、気持ち悪い……!)

口の中を好き勝手に這い回るその感触が、妙に気持ち悪い。
掴まれたままの腕も痛いし押し付けられた背中は苦しいしとにかく気持ち悪い。

おかしい。
オレって三井の事好きなんじゃなかったっけ。
好きな人とこうして触れ合うのって、凄く凄く気持ちの良い事じゃなかったっけ。
いや好きな人と触れ合った事なんて今まで一度もないけれど。

芦原とした時にはこんな事思わなかった。
先の事を考えて怖くて震えてしまったのは事実だけど、嫌だとは、ましてや気持ち悪いとは感じなかった。

なのにどうして好きな相手のはずの三井とのこれはこんなに気持ち悪いんだろう。

「っ、やめろ!」
「は……っ」
「ッ、やだって!みつ……!」

いつの間にか押し倒されるような体勢になり、これまたいつ乱されたのか制服の裾から脇腹を這う感触に嫌悪感が募ると共に身の危険を感じた。

まさか。
そんなまさか。
違うよな?
これから起こるのはオレの想像とは違うよな?

「みつ、三井?おい、やめろよ!」
「ヤらせろよ」
「……は?」

一瞬、呼吸も鼓動も止まったかと思った。

オレ、やめろって言ったよな?
それに対する返事がそれ?
ますます意味がわからない。
何なんだ?
こいつは本当に三井だよな?
三井の皮を被った別の人間じゃないよな?
それとも今のは空耳?
聞き間違い?

「なに、言って……」
「オレの事好きなんだよな?だったら大人しくさせろよ」
「――‥ッ」

空耳でも聞き間違いでもなかった。
血走った目でこちらを睨みながらも口元に嫌な笑みを浮かべる三井に愕然とする。

ありえない。
何を考えているんだ。
自分の見る目のなさにがっかりだ。
こんな事を言うような奴だったのか三井は。
こんな奴のどこが好きだったのだろう。
三井がこんな馬鹿な考えをする奴だとは思わなかった。

「好きだったら何でも出来んだろ?」

好き、だったら?
好きだったら本当に何でも出来るだろうか。

なんて、そんな訳ないだろ。

「なあ」
「……んな」
「?何?」

混乱なんてどこへやら。
すっと頭が冷えて、後に残ったのは怒りだけだった。

「ふざけんなっつってんだ、よ!!!」
「い……!?」

言うと同時に間近にある三井の顔に頭突き。
痛みと衝撃で三井が怯んだ隙に拘束を解き、下から這い出した。
こんな奴にいつまでも組み敷かれていてたまるか。

「いってえな!?何すんだよ!?」
「だから!さっきから言いたかったけど!それオレのセリフだから!」
「は!?」
「いっつもいっつも人の事馬鹿にしたみたいな態度で、そんでいきなりこんなとこまで連れてきて!あげく好きなんだったらヤらせろ!?」

むかつく。
むかつく。

人の事を馬鹿にするにも限度ってものがある。

「ふざけんじゃねえよバーカ!諦めたどころじゃねえよ!お前の事なんかもう好きじゃねえんだよクソが!」
「っ、黒谷」
「呼ぶな!くたばれ!」

すぐ傍にあった椅子を投げつけなかったのは我ながら偉いと思う。

来た時と同様慌ただしく出ていく。
後ろから更に呼び止められたような気がするが、当然応じる気はない。

(芦原さん……!)

ただ無性に、芦原に会いたくなった。

















どこをどうやって駆けてきたのか覚えていない。
荷物も、靴を履き替えるのすら忘れてやってきたのは見覚えのある扉。
芦原の部屋だ。

迷うことなく呼び鈴を鳴らし、名を呼び掛けると芦原が出てきた。

「芦原さん」
「静樹、どうし……!?」

オレの姿を認めた芦原が、戸惑った表情を浮かべた直後にはっと息を飲んだ。
ただ走ってきたにしては乱れている服装に目がいったからだろう。
少しだけ悔しさに目が潤んでいるのにも気付かれたかもしれない。

「……ごめん、ちょっと色々あって」
「ちょっとって……」
「……入ってもいい?」
「あ、う、うん、あがって」

促され中へ入る。
久しぶりの芦原の部屋だ。
以前と何も変わらない。
相変わらずソファにはブランケットがぐちゃぐちゃに置かれているし、テーブルの上も雑誌やら飲みかけのお茶やらでごちゃごちゃ。
何よりも部屋中から芦原の匂いがして心地良い。

「静樹、あの、何があったの?言いにくい事なら無理には聞かないけど……」
「……っ」
「!静樹!?」

たまらず背後にいた芦原を勢い良く振り返り、その胸に抱き付いた。

「静樹?どうしたの?」
「ちゅーされた」
「……え?」
「三井にちゅーされて、舌まで入れられて、触られた」
「……」

さっきは怒りが勝ってしまって気付いていなかったが、芦原の匂いに包まれたら、今になって怖くなってきた。
小刻みに震える肩。
未遂だったとはいえ、もしかしたら、と思うと更に震えてしまう。

ぎゅうっと芦原にしがみついたまま、気持ちを整理するように先程感じた気持ちを吐き出す。

「気持ち悪いって思った」
「え?」
「し、舌とか、口ん中とか体とか触られて、すっげえ気持ち悪いって思って」
「……」
「芦原さんとした時はそんなん全然なかったのにって思ったら、芦原さんに会いたくなって」
「……静樹」
「ごめん、迷惑だって、駄目だって思ったんだけど」
「……」
「ごめん、ちょっとで良いから、こうしててくんない?落ち着いたら、出てくから」

芦原に好きな人がいるのはわかっている。
今はこの部屋にはいないみたいだけれど、いつ来るかなんてわからないから。
でも今だけは傍にいて欲しくて。
他の誰でもなく、芦原が良くて。

「――‥っ」

そこまで考えて、気付いた。
オレ、いつの間にか芦原の事が好きになってたんだ。
好きになってはいけない、なんて戒めたのなんて意味がなかった。
だってきっと、その時にはもう好きだったんだから。

三井の事を好きだったのが薄っぺらく思える程。
芦原への想いがとめどなく溢れてくる。

「……静樹」

同じように腕を回してくれる芦原。
優しいなあ芦原は。
好きでも何でもないオレにこんなに優しく出来るなんて。

(馬鹿、だよなオレ)

好きだった奴には意味もなく襲われ、好きだと自覚したばかりの相手には既に失恋決定。
芦原の腕の中は心地よくて、恐怖なんて少しも感じない。

(馬鹿だ。ほんとに馬鹿だ)

襲われた時を思い出してのものではない涙が頬を伝い、それを誤魔化すように更にその胸に顔を押し付けた。




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