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手は食べるものじゃありません
しおりを挟む昼休み。
一緒に食おうと誘ってくる高塚を押しのけ、友人の元へ行こうとしたら
「彼氏に悪いから」
となんともまあふざけた理由で突っぱねられた。
しかもあの野郎ども明らかに楽しみやがって。
頬に手当ててしな作ったって可愛くねえっつんだ。
その結果高塚に捕まり、ふてくされながら自分の席で食った。
元凶である変態は、前の席の女子に譲ってもらって正面でにこにこ一緒に食べたのは言うまでもない。
「へへっ、嬉しいなー森とランチー」
鼻歌でも歌いそうな勢い。
何が嬉しいだ何がランチだ告ってきてからどんな手回ししたのか悉く邪魔してきやがるくせに。
「玉子焼きうまそー」
「やらねえぞ」
「じゃあオレのカラアゲと交換しよ?」
「ぬあ!?何勝手に……!」
「はい、あーん」
「んぐ!?」
「わーっ、あーんってしちゃった!」
「ひにぇッ!!!」
「……っ!!!!!」
しね、と言おうとしたのだが口の中のカラアゲが邪魔をしてきちんと発音出来なかった。
それに対して奴は肩まで震わせて笑っていやがる。
ちくしょう。
「ひにぇって!ひにぇって……!も、まじやばっ、かわ……っっ」
「うっせッ!」
「ひにぇ……っ」
「い、石野まで……!」
傍らで石野にまで笑われて顔が赤くなるのがわかる。
あーちくしょう恥ずかしい。
「もういいよ死ぬまで笑ってろよちくしょうめ……」
男前二人にこうも爆笑されては立つ瀬がない。
ふてくされて黙々と飯を掻き食らう。
ん、今日も我が家の弁当はうまい。
母さんありがとう。
なんて思ってたら。
漸く笑いがおさまったらしい高塚にじっと見られている事に気付いた。
食べている姿を一方的に見られるのは居心地が悪い。
「なんだよ?さっさと食えよ」
「やー……なんかさ」
「何?」
「森の食い方ってえろいなーって思って」
「ぶ……っ!!!」
血迷った事を言い出した高塚に、盛大に噴き出してしまった。
「おわっ、きったねーな森」
「わ、わりっ……てか、何だって?」
石野の方にまで飛び散ってしまったものをティッシュで拭きながら、頬をひきつらせる。
聞き間違いでなければえろいと言わなかったか今。
しかも食い方って。
「んーとな、食う時にがばっと大口開けんのも良いんだけど」
大口開けて何が悪い。
男なんだからがつがついくだろう普通。
「閉じた時に、んってして唇の端っこ舐めんのとかがもうオレ的には超ツボ!」
「全然嬉しくねえ」
「しかもしかもその時にちらっと見える舌がなんとも」
「黙れマジでええ!!」
聞いたオレがバカだった。
バカ正直に嬉々として語る高塚に眉が寄り寒気が走る。
鳥肌立ったマジで。
「つか、キモイ」
「だってえろい森が悪い」
「オレが悪ィの!?今のってオレのせい!?」
「だってオレうっかり自分の舐められてる想像しちゃ」
「爽やかな昼日中に何てコト言いやがるつもりだあああ!?」
「もごっ」
とっさに高塚の口を手で塞ぐ。
ほんと、なんでこんな奴がモテるんだわけわかんねえ。
いくら顔が良くたってこんな真っ昼間から下ネタ言うような奴だぞしかも女子がいるのに堂々と恥ずかしげもなく。
信じらんねえ。
「良いか、言うなとは言わねえ。ただ時と場所を考えてもの言え今真っ昼間だどうしても言いてえなら小声でこっそりはな、」
そこまで言ったところで、ちゅっと。
手のひらにキスされた。
「っ、ぎゃあああああ!!!」
「隙あり」
「ばっ、おまっ、離せ!」
叫び手を離そうとするが手首を掴まれた。
「わ、森って手首ほっせーのな」
「うるせっ、オレが細ぇんじゃなくてお前の手がデカ………………!!??」
言葉はまたしても途切れてしまった。
そりゃ途切れるさ。
飲み込んでしまうさ。
何故なら、
「……っ」
細めた目線だけをこちらに寄越したまま。
オレの手首から指先までを、ゆっくりと。
な、なめ……!?
「っ、っ!?」
教室中が、しんと静まりかえる。
同じく一瞬フリーズしかけたが、ふいに周りから聞こえた黄色い声に我に返る。
「んなっ、何してんだああああ!!」
「ははっ、んまい」
「んなワケあるか!!!」
先程の比ではない寒気が体中を駆け巡る。
とっさに勢いのみで振り上げた拳はあっさりと止められてしまった。
むかつく。
「あれー、こっちの手も舐めて欲しい?」
「欲しくねえ!全然して欲しくねえ!!」
「まあしちゃうけどね」
「すんな!!!」
本当に唇を寄せてくるので腕を引いて少しでも距離を取る。
が、バカ力のせいで負けてしまいそう。
てゆうか何だ。
オレが何かしたか。
何だってこんな昼休みの教室で、他のクラスの奴だっているのにこんな変態に手べろべろ舐められなきゃならないんだ。
「は、な、せっ……つーのに……っ」
腕に全ての力を込めて抵抗しているからか声が上擦る。
「ああんっ、もう!森ちゃんたらえろボイス!たちそう!」
「マジ、しねよ変態……っ」
「ちゅーしたら嬉しすぎてイッちゃうかも」
そっちのイクじゃねえよと突っ込む間もなく。
一瞬のうちにうっとりとした顔が間近に迫り、迫ってきた分だけ、いやそれ以上に腕を突っ張り逃げる。
すると意外にも高塚はあっさりと逃がしてくれた。
「なあんてね」
「は?」
「無理にはしないよ」
にっこりと言いながら手を離され、間抜けな声を出してしまった。
なんだろう初めて高塚が変態でなくまともに見えた。
と、思ったのも束の間。
「初ちゅーはふたりっきりの時がいいもんね」
「――‥ッ!!」
すい、と耳元に唇を寄せられ、普段よりも低い声でそう囁かれた。
反射的に出た拳が変態の側頭部に見事入り窓に向かって吹き飛ぶまで、コンマ1秒。
end.
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