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脳味噌のシワを気合いで増やせ
しおりを挟むうちの学校には週に一回、道徳の授業なるものがある。
中学でもあったのだがまさか高校に入ってまでやるはめになるとは思わなかった。
また何かの題材を元にクラスでグループ分けをして意見を言い合うのかと思いきや、違った。
基本的に名目のみで実際に道徳の授業なんてしていない。
大抵は、早めのホームルームを行い早々に解散。
あとは諸事情で潰れた授業をしたり、テスト前ならばテスト勉強のために費やされる。
一体何のためにあるのかが謎だ。
今日もいつものようにホームルームで解散かと思いきや。
どうやら全校で一斉にテーマ毎の話し合いを行うらしい。
それを集計して今後に役立てるのだとか。
「えーめんどくせー」
「それ話し合う必要あんの?アンケートで良くね?」
いつものオレなら皆のこの意見には賛成だ。
それはもう両手を挙げて大賛成だ。
だが、テーマがテーマだけに、妙に意気込んでしまった。
「森、だるいからサボらね?オレ難しいのきらーい」
「……高塚」
背後からのっしりと肩に乗っけられた両腕をぺしりと叩き落としてくるりと向き合う。
「ん?なに?」
目が合ったくらいでそんな嬉しそうな顔すんじゃねえ。
周りもこれくらいで騒ぐな。
「テーマは『正しい男女交際について』だ」
「うん、だな。オレ達には関係ないけど」
「大アリだボケ!!」
にっこりと、だってオレらは男同士じゃん、なんて言ってくれるな。
オレはお前の想いに応えた覚えはない、というかこれからも応える気はない。
「なんでー?」
頭上に疑問符を浮かべる高塚に溜息を吐き、言い聞かせる。
「いいか、良く聞け」
「うん?」
へらへらしやがって本当に聞く気があるのかないのか。
一瞬力が抜けそうになってしまったが持ち直して、ここからは自分でも珍しい落ち着いたテンションでのマシンガントーク。
「今お前に足りないのは道徳だ、人としての道徳だ道徳を学べ悟れ顔だけで世の中渡っていけると思うな、お前は男だそしてオレはどっっこにでもいるふっつーの高校生だ美少年でも美少女系でも綺麗系でもないただの男だ。だからもうちょっかい出すな目を覚ませ世の中には可愛い女の子が大量にいるんだうっかりホモの世界に足踏み入れんな、そりゃ男が好きな男もいると思うけどオレを巻き込むなそのためにも道徳を学べ先生と皆の話をちゃんと聞け頭に叩き込め理解しろ脳味噌のしわを気合いで増やせ、わかったか」
「……なんか良くわかんねえけどわかった!森が言うならマジメに聞くー」
へらーと再び力の抜ける笑みを浮かべられてこちらの力が抜けた。
(本当にわかってんのかコイツ、つーか、この顔は絶対わかってねえな)
間違いない。
これは十中八九わかっていない。
というかきっとほぼ聞き流されているに違いない。
高塚の表情が読めてしまえている自分が嫌だ。
だがまあテーマがテーマだ。
色々な意見も飛び交うだろうし、それを聞けば高塚の目も覚めるはず。
なんてったってテーマは『正しい男女交際』
周りは今そのテーマやる意味があるのかと失笑ぎみだが、
「えーと、始めて良いか?」
オレのマシンガントークに暫し停止していた教室内が、先生の控え目な一言で動き出した。
?
そしてあれよあれよと授業終了。
高校生にもなれば恋愛くらい普通。
放っておけばいい。
本人の意志尊重。
正しいとかはわからないけど、好きな相手を奪うくらいはしちゃうかも。
親の反対とか周囲の反対なんて関係ない。
キスもエッチも好きなら良いじゃん。
これらが賛成意見。
対して反対意見は
学生は勉強するのが本分。
恋愛ごとなど邪魔なだけ。
興味ないからわかりません。
いくら好きでも相手の意志を無視するのはいかがなものかと。
などなど。
結論として、うちのクラスはほぼ賛成派が多かった。
否定派の最後の意見には首がもげそうな勢いで頷いた。
ちらりとオレらの話題に触れたような気がしないでもなかったが、スルー。
そして肝心の高塚はというと。
「つまりは愛に障害はつきものだからそれにめげずに頑張れってコトだよな!」
「違う!!!」
何聞いてたんだこのボケは!
オレはオレらが男同士だという事に疑問を抱けと言いたかったのに。
高塚のお耳には数々の男女という組み合わせの単語は入ってこなかったらしい。
それどころか何を思ったか、
「大丈夫、森はオレが守るから!」
胸を叩いて自信満々に宣言しやがった誰かコイツを黙らせてくれ。
「必要ね……」
「高塚、お前ってやつは……!」
「え…って、先生?」
言葉の途中で遮られ、いつの間に傍に来ていたのか、担任がぐわしっと高塚の手を掴んだ。
訝しげに見上げた目にうつったそれが、煌めいているのは錯覚だと思いたい。
「バカだバカだとばっかり思っていたがそうか、お前もちゃんと考えてたんだな、そうだな、愛に障害はつきものだ!だがそれを乗り越えることによって二人の間に更に大きな愛の種が育まれるんだよ!」
「せ、せんせー?」
これにはぽかん、とするしかなかった。
錯覚じゃなかった。
それはもう満天の星空のように光り輝いちゃっていますけどこの人のおめめ。
「男同士なら尚更だ!先生感動した!どんな事があっても森を守ってやるんだぞ!お前なら出来る!」
「先生……!」
いやいやいや爽やかに笑ってんじゃねえぞクソ先公。
高塚も同じくキラキラした目で見てんじゃねえ。
道徳どこいったよ教えるべきは障害によって生まれる愛云々じゃなくてそれ以前の事だろうが。
感動してんな否定しろよ。
青少年の健全な精神を育ませろよ不純同姓交遊を堂々と認めちゃってんじゃねえ。
大体テーマどこいった。
「大丈夫、傷付けられたら先生のところに来い!先生守ってやるからな!」
「先生……!ありがとう!オレ、ついてくよ!」
「く……っ可愛いヤツだな!森は幸せものだ!」
幸せどころか不幸せのまっただ中です先生。
そもそもどこの三流ドラマだ。
セリフがクサいにも程がある。
いっちょ前にキンパチ先生気取りかふざけんじゃねえぞ。
河川敷なんか走らないからな。
そんな思いは既に二人の世界を作りつつある奴らに届くことはなく。
「高塚……!」
「先生…………あ、ハグは森とだけって決めてるんで!」
「なんだ!らぶらぶかこのやろー!」
真後ろでそんなやりとりをする二人。
「どいつもコイツもアホばっかだ……!」
「……ドンマイ」
がっくりとうなだれると、ぽんと慰めるように肩に手を置かれた。
「あ!森に触るなよ石野!」
「黙れ元凶お前こそ触んじゃねえええ!!!」
「オイ森、彼氏なのにそんな冷たくしたら高塚が可哀想だろ?」
「彼氏じゃねえっす先生!」
「照れんなって」
「照れてねえええ!!!」
「こらこらタメ口ー」
「照れてないです!!」
もう嫌だ、なんなんだ。
結局顔なのか。
結局は顔で世の中渡っていけんのか。
自分の意見が全く相手に通じなくて泣きそうになった今日この頃。
本気で泣きそうになったのは秘密だ。
end.
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