高塚くんと森くん

うりぼう

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気になるあの子

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気になる気になるあのコ。
どこにでもいる普通のコ。
知り合わなくても、仲良くもならず卒業してしまっても全く困らない、大勢の中に埋もれてしまったらきっと見つけ出せないような奴だった。

けど、違った。
そりゃあもう全然全くオレの勘違いだった。
アイツ、森は、知り合わなくても良い相手じゃなかった。





それに気付いたのは今から一年半くらい前。
一年の秋。
体育の授業中、渇いた喉を潤すために一人でこっそり水飲み場に行った時だった。
一緒に行くという手をやんわりと断り、早く戻ってきてね、なんて女の子の言葉にヘラヘラ浮かれて歩いていると。

「っ、おお!?」

小石に躓いて、コケた。
それはもう真正面から顔面激突コースである。
両手を出したからそれは免れたけれど、どうやら膝を思い切り擦ってしまったらしい。
動いて暑くなったため調子こいてジャージの裾を膝上まで上げていたせいだ。
血が出ている。
だっせぇオレ。

「ってー……」

なんだよついてねえな。
体育はサッカーで、一度もコケなかったのに今かよ。

水飲み場にいたのは良かったのかもしれない。
蛇口を捻り、冷たい水で手を洗う。
所々皮が剥けていて痛い。

「あれ、高塚?」
「え?」

声のした方を見ると、同じクラスの森が立っていた。
あまり話した事はない。
というか全然興味がなかった。
男相手に興味がないも何もあったもんじゃないけれど。

森も水を飲みに来たのだろう。
なんだコイツもサボりか。
この時はその程度にしか思っていなかった。

「あ、足」
「あ……」

じ、と森の視線がオレの膝に向けられる。

「血出てんじゃん」
「ああ、ちょっとコケて」
「保健室行く?先生に言っとくけど」
「や、めんどくさいし」
「めんどくさいってお前」

ぷっと吹き出す森。
その表情がなんだか妙に可愛く見えた事に首を傾げる。
鼓動が僅かに速くなった事にも驚きだ。

「あ、そうだ」
「な、何?」

ぽん、と手を叩くような調子で言う森にびくりと過剰に反応。
マジだせえ。

そんなオレの心中など知るはずもない森。
とてとてと歩み寄り、ジャージのポケットからティッシュと絆創膏を出しこちらに差し出してきた。

「え?」
「ん」

受け取れという事らしい。
ずい、と寄越されたので、思わず受け取る。

「一応洗って貼っとけよ。バイキン入ったら大変だし」
「あ、ああ、サンキュ」
「いいえー」

お礼の言葉ににっこり笑って蛇口を捻る森。
ていうかバイキンって。
同級生のしかも男の口からバイキンって言葉を聞くとは思わなかった。
やべえ可愛い。

それはそうと男が絆創膏を持ち歩いているなんて珍しい。

じっと見つめられる視線に気が付いたのか、水を飲み終えた森が、あ、という顔をした。

「あ、いや、オレ昔っからあちこち生傷絶えなくてさ、親がいっつも絆創膏とかいろんなトコにしのばせておくんだよ」

慌てて言い訳をしている。
女々しいとか思われたと思っているのだろうか。

「別に、今はそんな怪我とかするわけじゃねえけど、なんか、うちの親も習慣になっちゃってるみたいで!あは、はははっ」
「……」
「う、あ、えと、じゃあそゆ事で!」
「あっ」

笑ってごまかしたがごまかしたが、こちらの沈黙に堪えきれなくなったのか逃げ出す森。
呼び止めようと伸ばした手も声も届かなかった。

走り去る後ろ姿に、なんだか少しだけ寂しい、なんて思ってしまった。





この時のがきっかけで妙に気になって、よく森の事を視線で追いかけるようになった。

友達と騒いで笑う姿や、からかわれて怒る表情も。
授業中に眠そうに目を擦っているところとか、美味しそうに母親の手作りらしき弁当を頬張るところも。

全部が全部可愛く見え始めた。

というか可愛い。
どう見ても可愛い。

二年に上がって同じクラスになれた時はかなり嬉しかった。
舞い上がったとも。
締まりのない顔に何度ダチに気持ち悪いと言われた事か。

「あーやばいマジ可愛いんですけど」
「まーた始まったよ。今度は何だ?森がシャーペンでも落としたか?」

この頃になると、森のどんな些細な行動に対しても可愛いと言いまくるオレに、初めは引きぎみだった友人達はとっくに慣れていて。
大半が無視を決め込む中、石野がどちらかというと呆れた様子で聞いてきた。

「いや、あくび。涙目超かわいい」
「良かったなー」
「あっ、目擦ってる!舐めてぇなあ、舐めまわしてえなあ」
「こんなトコでトリップすんな変態」

石野の言葉は右から左へ。

ああ、ほんと可愛い。
泣き顔超そそる。
泣かせたい。

森のアレを手と口で扱いてぐっちゃぐちゃのどろどろにしてやったら、恥ずかしがって真っ赤になって体捩って、やめて、とか言っちゃうのかな。
そんな可愛く言われたら止めらんない、むしろヒートアップしちゃうかもしれない。

「ううううるっせえぞ高塚!!!」
「お前さっきから考えてる事だだ漏れだから!めっちゃ口に出してるから!」
「あんだよ邪魔すんなよオレと森のランデブーを!」
「わけわかんねえ、黙れ」
「酷い!!」
「つーかそんなに気になんならとっとと告ってこいよ」
「は?なんでオレが?」
「好きなんだろ?森の事」
「…………え?」
「えっ、て………え?」

石野の言葉に固まると、次いで奴も固まった。
というかその場にいた仲間連中が皆唖然としてこちらを見ている。

「え、嘘だろ、もしかして自覚なし?」

恐る恐る聞く石野。
自覚ってなんだ。

というか、好き?
オレが森を?
確かに可愛いとは思っているけれどこれは恋愛感情なのだろうか。
今更ながら疑問に思った。

「いやいやどう考えても恋愛感情でしょ」
「つーか自覚なしであんな下ネタ満載の妄想してんのかよ」
「あんだけあからさまにラブ光線送っといてバカじゃねえ?」
「しょうがねえよバカなんだから」
「だよな、バカだなホント」
「救いようがねえな」
「え、ちょっ、泣いていい?」

遠慮のない友の発言にマジ泣きしそうになった。

けど、おかげで森の事が好きなんだと気付けた。
というか気付かなかった自分にびっくりだ。
オレこんなに鈍感だったのか。
今まで向こうから来るばかりだったから全然わからなかった。

「つーかどこが良いのかさっぱりわかんねえ」
「わかんなくて良い。惚れられたら困る」
「惚れねえよ女の子大好きだボケェ」

そうは言っているがオレだって女の子大好きだったのに今じゃこのザマだ。
コイツらだっていつ森の笑顔と優しさにどきゅんってくるかわからないじゃないか。

「ああ、恋は盲目ってやつ?」
「盲目すぎ。うぜ」

傍らで呟く友の声をスルー。

ん?
オレは男、森も男。
と、いう事はだ。

「え、待てよ、じゃあオレってホモってこと?」
「女もいけんだからバイじゃね?」
「それが最近森以外だと勃たないんだよねー……」
「そこまでわかってんのに何で自覚なかったのかが謎だボケ」
「んな事オレが知りたいっつーの」

石野の言葉にむくれる。
まあいいや森可愛いし。
オレが落ちるのも無理ない。

「よし、じゃあこの際だ、もうさっさと告白しちまえ変態」
「お前が森とくっつけばオレらに女回ってくっから万々歳だしな、頑張れ変態」
「未知の世界へいってらっしゃい変態」
「え、何これイジメ?」

なんなんだコイツら仲良く語尾に変態つけやがって。
変態なのは認めるけどそんなバカだのボケだの言われまくったら流石のオレでも凹むんだぞ。

こんなやりとりがあった後。
自覚してすぐその日の放課後の校門前で、オレは丁度一人でいた森を捕まえた。
思い立ったが吉日である。

言うんだ。
好きだって言ってオッケー貰って人目を気にしないでいちゃいちゃするんだ。

そう決心し、振り返って訝しげにこちらを見る森と向き合い。

「……あのさ」

緊張に高鳴る胸を押さえ、口を開いた。






end.


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