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クラスメイト考察記②
しおりを挟む※第三者視点
あの日から一週間程が経った。
あの女が高塚くんにちょっかいを出し無様に拒否られた、あの日である。
あれから何事も変わりなく……というわけにはいかなかった。
とはいえ私に直接被害があるわけではないのだけれど。
(あーあ、またやってる)
あの日から彼女、野崎は、ことある毎に森くんにこれでもかと突っかかっていた。
それは例えば廊下で足を引っ掛けて転ばせたり(これは直後高塚くんが駆け付け王子様よろしく手を差し伸べた)
わざと肩をぶつけたり。
暴言吐いたり。
最初の一回こそたまたま高塚くんの目があったのだが、後は全て高塚くんの目の届かないところで陰湿にしつこく繰り返されていた。
高塚くんが見ていないだけで、私を含むその他大勢はそれをばっちり見てしまっているのだけれども、正直見ていて気持ちの良いものではない。
というか見ていてムカムカする。
それはもちろん私だけではなく。
「あっ」
誰かが小さく声を上げる。
視線の先を辿ると、廊下で野崎が森くんの足を踏んづけているところだった。
「いって……!」
「あ、ごめーん、小さすぎて見えなかったあ」
「な……っ」
うっかりならばつゆ知らず、明らかに故意で且つ思い切り体重のかかったそれは結構痛かったのだろう。
反射的に出た森くんの声に、野崎は全く悪びれる様子もなくそう言うと、さすがの森くんもカチンときたらしい。
拳を震わせ野崎を睨む。
「……っ」
「何よその顔。ちゃんと謝ったじゃない。それとも何?やり返す?」
ふん、と笑いながら自らの片足を差し出す野崎。
踏んづけてしまえそんな足。
心の中で盛大にゴーサインを出すが、しかし。
「……っ、っ、しねえよ!」
女の子に手をあげるのは主義に反するのだろうか。
悔しそうに告げる。
「うわ、野崎最悪」
「よくやるよねー、そんなんしたらますます高塚くんに嫌われるっつーの」
「森くん可哀想ー」
「でもあれだけやられて何も言わないってどうよ?」
「まあそれは仕方ないんじゃん?下手に手出して騒がれたらうざそうだし」
こそこそ……でもないが、交わされる会話。
確かに言い返したり万が一手をあげたりして大袈裟に騒がれでもしたら、野崎の事だからきっと森くんを全面的に悪者に仕立て上げるだろう。
果たして森くんがそこまで考えて何もやり返さないのかどうかはわからないが。
だが確実に森くんの中でいらいらは溜まっていっているはずだ。
「森、どうした?すっげえ怖い顔」
「なんでもねえ」
眉を寄せ不機嫌な森くんに隣の石野くんが尋ねたその時。
「ねえ、アンタさあ」
「は?」
今現在高塚くんがいないから気が大きく出たか。
森くんの机に手を置き、上から見下ろす野崎。
大して親しくもないのにアンタ呼ばわりされて再度カチン。
「ちょっと顔貸してくんない?」
「…………は?」
*
ところ変わって校舎裏。
森くんを連れ出した野崎は、彼の正面で腕を組み仁王立ち。
そしてクラスの女子が示し合わせたかのように、影からこっそりと成り行きを見守っている(覗いている)
私を含めてみんな何やってんだ。
「前から思ってたんだけど、なんでアンタんかが高塚くんと仲良いわけ?意味わかんないんですけど」
別のクラスのアンタがうちのクラスに入り浸ってる事の方が意味わかんないっつーの(先日の体育は合同授業)
「大体高塚くん拒否るとか何様?」
何様も何も男相手に口説かれて拒否しなかったらそれはそれでどうなんだ。
「超地味だし、なんか気持ち悪いし。高塚くんに話しかけてもらってるからって調子に乗ってんじゃないわよ」
いやいやむしろ森くん大迷惑だと思うよ。
見るからに不満そうな顔してますよ。
私たちはドン引きですよ。
だが……
「ていうか私の方が絶対高塚くんと釣り合うと思うのよね」
「は?」
「だから、ムカつくけどアンタの言うこと一番聞きそうだし」
野崎のこの次のセリフに。
「仕方ないから、アンタに私と高塚くんの仲取り持たせてあげる」
聞いていたみんなの目玉がどこかへ飛んでいった。
そりゃもうちょっとやそっとじゃ見つからないくらいに遠くへ。
(は、はああああああ!?)
今なんつったこの女なんつったこの女なんつったこの女。
「私の方が釣り合う」
「取り持たせてあげる」
(なななななな何様!?アンタが何様!?びっくりしちゃったよ!)
ぽかんとする森くんをしり目にべらべらと話を勝手に進める野崎。
「なんのとりえもなさそうなアンタに、私の役に立たせてあげるって言ってるんだから感謝してよね」
「……」
「そうねえ、まずはデートかな。日曜日に呼び出してよ」
「……」
「それと、高塚くんと話す時に私の事褒めといてよね。絶対悪い印象与えな」
「アホかああああああああ!!!」
自分勝手な計画を押し付けられそうになり思わず叫ぶ森くん。
わかる。
その気持ちはすごく良くわかるよ。
「あ、アホ!?何がアホなのよ!」
「アンタのその考え方だよ考え方!なんでそんな上から目線!?つーかオレにアンタとあんな変態とを取り持つ義理なんかねえし!」
「なっ」
「つーか無理!いくらあんな変態でもアンタ相手は可哀想!無理無理無理無理無理!」
「なんですってええ!?」
ついに堪忍袋の緒が切れたらしい森くんが高塚くんにするのと同じように全力で拒否。
うんうん、今まで我慢してたんだもんね、良いよいいよ叫んじゃいな。
森くんを生温かい目で見守っていたのだが。
(あ)
と、思った時には遅かった。
「バカにすんじゃないわよ!」
「っ!?」
バシーンッ!!!
「「「「!!!」」」」
野崎の平手が森くんの頬を襲った。
「ってえな、何す……」
と、森くんが怒鳴ろうとしたその時。
「森ちゃん!ここにいたの?探しちゃったよー」
「っ、高塚くんっ」
「……っ」
うきうきと近付く高塚くんだったが、森くんの傍に野崎の姿を認め、更には森くんの頬が僅かに赤らんできている事に眉を寄せた。
「……なにしてたの?」
笑みがすっと消えた。
声が低く、視線が冷たい。
ちょっと怖い。
だが野崎はそんなの全く感じないのか、高塚くんの方に駆け寄る。
そして……
「助けて!森くんに襲われそうになって……!」
「え?」
「はあ!?」
おおっとこれはありえない。
ありえなさすぎて再び目玉が飛んでった。
「……どういう事?」
「あの、なんか、呼び出されて、ここにきたらいきなり肩掴まれて……っ」
「はああああ!?」
完全被害者面ですよこの女。
「まさか森くんがこんな事するなんて……」
ガタガタと震えるその姿はアカデミー賞もの。
ああ、でも残念。
制服が全く乱れていないのにその言い訳はないだろう。
「怖かった……っ」
言葉を発する度に高塚くんの纏う温度がどんどん下がっている。
気付いていないのはもはや野崎ただ一人。
「私もう、森くん気持ちわるい」
あ、こいつバカだ。
本物のバカだ。
高塚くんに取り入ろうとするなら森くんを悪く言っちゃいけない。
すう、と高塚くんの目が細められる。
なんだか今まで見ていて溜まりに溜まったものが今の出来事で大爆発したのだろう。
ぷつりとキレた。
ただしそれは高塚くんではなく、森くんでもなく、ましてや私でもなく。
こっそりと見守っていたクラスの女子連中が。
「もおおお我慢出来ない!!!」
「っ、え?」
突然現れた女子連中に三人が固まる。
そしてどかどかと森くんたちの傍まで行き、野崎肩を掴み乱暴に高塚くんから引き剥がした。
「いったあ!何すんのよ!?」
「それはこっちのセリフ!なんなのアンタ!?ここ最近森くん目の敵にして!」
「みっともないのよ!」
「なっ」
「いつどこで森くんがアンタなんか襲おうとしたっていうのよ!?」
「くっだらない計画拒否られてアンタがビンタしたんじゃない!」
「森くんのせいにしてんじゃないわよ!」
「つーかアンタのどこが高塚くんと釣り合うってのよふざけんじゃないわよ!」
「どういう意味よ!?あ、私が高塚くんと付き合えそうだからって僻んでんの?だっさ」
「誰が僻むかあああ!アンタみたいな性格ブスに高塚くんはもったいなさすぎんのよ!」
「はあ!?意味わかんないし!」
「意味わかんないのはアンタでしょ!?」
「大体なんで同じクラスでもないアンタがうちのクラスに入り浸ってんのよ!超邪魔!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐみんなに森くんはぽかんとしている。
今まで高塚くんが構っているからと冷たく当たられていた女子連中がこうしてかばってくれているのだからそれも無理はない。
その間にいつの間にかすぐ傍まで来ていた高塚くんが、森くんの頬に手を当てすぐさま触るなと手を振り払われていた。
「つーか、アンタみたいなクソ女とくっつくくらいなら男の森とくっついてくれた方が何倍もマシ!」
「な!?ちょっと高塚くん今の聞いた!?私より男の方が良いって」
高塚くんに訊ねるが。
「えー、うん。オレもその方が嬉しいなあ」
「……っ」
ていうか森の事はたく人とは付き合いたくないっつーか話したくもないし、と返され。
森くんよりも自分の方が上だという自信が脆くも一瞬で崩れ落ちた野崎。
「……つーか、それ嬉しくないんだけど」
がっくりと肩を落として呟く森くんの姿があった。
それから野崎は高塚くんと森くんのあることないことを吹聴して回ったが、彼らの普段が普段なだけに誰にも信じられず嘲笑されたらしい。
*
おまけ。
「森、大丈夫?まったくもう変なのにひっかかって!怪しい人にはついてっちゃダメじゃん!あああまだほっぺ赤い」
「さわんな!つか怪しいって……お前オレが本当にあいつ襲ってたらどうすんだよ」
「えー?森が?ありえないね」
「なんで」
「だって森がそんなことするはずないじゃん」
「……」
にこーっとこれっぽっちも疑わずに言う高塚くんに不覚にもちょっとじんわりしてしまった森くん。
「あ、ちゃんと冷やさないとダメだよ」
「……ん」
差し出された冷たいタオルを受け取り、素直に頷く森くんに高塚くんが盛大に悶え今にも襲いかからんばかりにハァハァしていた。
気持ち悪いが今日だけは許してやろうと、それは高塚くんと森くんを除く全員の胸に仕舞われた。
end
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