高塚くんと森くん

うりぼう

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服を贈るのはそれを脱がせるために他ならない

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『明日12時、駅前のまーくん前集合』

金曜日の夜。
友人からの突然の誘いに驚きながら、それを快諾した。
これがそもそもの間違いだった。







久しぶりに変態でない友人と遊べる事が楽しみで自然と緩む頬。
駅前に着き、待ち合わせの目印であるパンダの像、まーくんの元へと向かう。
既にまーくんの前には待ち合わせであろう人だかりが出来ていた。

ざっと辺りを見回したが友人の姿は見当たらず、ならばそこらに立って待っているかと選んだその場所に、いて欲しくないし見たくない顔があった。

「森ー!」
「……げ」

手を振り名を呼ぶ高塚にすぐさま回れ右をしたくなった。
が、それよりも奴が動く方が早かった。

にこにこと目の前に立たれる。
その笑顔に一体この場にいる何人が心を奪われている事か。
想像に易いが考えずにはいられない。

「良かったあ、来てくれなかったらどうしようかと思った」
「別にお前と待ち合わせてるわけじゃねえし」
「うん、佐木とでしょ?」
「なんで知ってんだよ?」

色々恨みがあるが、一年の時から同じクラスで仲の良い友人の名をあっさりと出されて眉を寄せる。
昨日の夜のメールでの事を何故こいつが知っているのか。

嫌な予感がしてきた。

「メール回ってきてさ、佐木が森の事呼び出したからまーくんに集合ーって」
「は!?」

けれど何故そんな事。

「なんかね、こないだ別のクラスの女子ともめたじゃん?それでお膳立てしてくれたみたい」
「……は?」

後日確認したところ、また再びあんなバカ女が現れて高塚を奪われるよりも、いっそ本当にオレとくっついてくれた方がマシだと女子達が言い出し、そこでとりあえずこうして休日に遊ぶ機会を設けたと。
普通に高塚本人が誘ったのでは100パーセント断られるのが目に見えているから、代わりに誘ってやろうと佐木が名乗り出たと。
そういう事らしい。
もうこの際クラスの女子なんてどうだって良い。
それよりも。

(あああああの野郎!!!)

絶対楽しんでるあいつ絶対楽しんでる。
席替えの時だけじゃ飽きたらずこんな事までしやがるのか。
いくら遊ぶのが久しぶりだからといって乗るんじゃなかったそうだあいつはこういう奴だった。
楽しみになんかするんじゃなかったオレの馬鹿。
まんまと 
引っ掛かってしまったオレを、どこかで佐木がピースをしながら笑っているのが目に見えてわかって更に腹が立つ。
殴る、あいつ絶対月曜日に殴る実行出来たためしはないけれど。

ふるふると震える拳を握りしめていると、視線を感じた。
間違えようもなく確実に変態の視線なのだけれども。

「……何」
「いやあ」

じろりと睨み聞く。
もごもごとはっきりしない口振り。
目が上下に動き、オレの服装を見ているのだと気付いた。

そういえば、私服姿って初めてかもしれない。
高塚はやはりというか、外見を裏切らずに随分と洒落た格好をしている。

なんだどこかおかしいか。
どうせダサイよ悪かったな。

別に誰かに言われたわけではないけれど自分の事は自分が一番良くわかっている。
心の中でぶちぶちとそんな事を思っていると。

「……や」
「は?」
「やばい思った以上にヤバイどうしよう」
「はあ?」

何言ってんだコイツ。

「森ちゃんかわいすぎ!」

ぷるぷると肩を震わせ、やばい鼻血出そう、なんて言いながら片手で自らの鼻から口元を覆う。
大丈夫かこいつ本当に、なんて思っていると、がしりと肩を掴まれ至近距離で顔を覗かれる。

「ちょっ!?」
「も、すっげえかわいい、どうしよう女の子に服買って上げる奴の気持ちわかっちゃったかも、脱がしてええ……!!」
「離れろおおおおッ!!!」

ハァハァと段々鼻息の荒くなる変態の顎に手を当て引っ剥がす。
冗談じゃない脱がされてたまるか、つかここどこだと思ってやがる日曜の駅前だいつもの事だけど場所を弁えろ。

「つーか、オレ帰るから!」

誰が好き好んでこんな変態と二人っきりで遊ぶかと、口をついて出てきた言葉に、

「え、帰っちゃうの?」
「うっ」

しゅん、と影を落とす高塚に一瞬怯む。

「ほんとに?ほんとに帰っちゃう?」
「あ、あた……」

当たり前だろ、と返そうとしたのだが。

「……やっぱオレと二人じゃ嫌?」
「っ、っ」

見える。
奴の頭に垂れ下がった獣の耳が見える。

それと同時に感じる周囲からの視線。
大半が、気を落とし悲しそうな表情をしている高塚に対しての同情らしい。

ここでこいつを振り切って逃げ帰ってしまうのは簡単な話、というか今すぐにでもそうしてしまいたいのだが、そんな事をしてしまったら完全にこちらが悪者になる雰囲気だ。
オレ悪くないのに理不尽すぎる。

「森」
「……っ」

オレより背高いくせにちらりと上目遣い。
可愛くもないしときめきなんて当然ながらこれっぽっちもない。

ない、が。

(な、なんなんだよその顔……!)

捨てられようとしている犬が飼い主に縋るようなそんな目に心が揺れる。

「…っ」

周りの音が妙に耳に付く。

ひそひそとこちらに向かって何かを囁き合っているように感じる。
自意識過剰だとはわかっているけど皆がこちらの様子を伺っているような気がして。

「~~っ、クソッ!わかったよ!遊べば良いんだろ遊べば!」
「!」

結局、そう叫んでしまった。

直後の奴の嬉しそうな表情に、ちらほらと黄色い悲鳴が上がった。






end.

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