高塚くんと森くん

うりぼう

文字の大きさ
36 / 71

嬉し恥ずかし

しおりを挟む




今日は嬉し恥ずかし、17歳の誕生日。

夜中、時計の針が12に差し掛かった瞬間にこれでもかとデコられたメールを受け取り、朝も朝でモーニングコールのようにおめでとうの電話がかかってきた。
差出人はもちろんこの男。

「森ちゃん、誕生日おめでとー!」
「……うわ」

朝一番でそう言いながら駆け寄ってくる高塚である。
その手には小振りだが可愛らしい、黄色と白をベースにした花束。
男相手にまさかの花束。
思わず出てしまった第一声を誰が咎められようか。

だがしかし、周りの反応は当然ながら違う。
特に女子。

「わーっ、綺麗!」
「作ってもらったの?」
「誕生日に花束なんてロマンチックー!」
「森くん愛されてるねー、羨ましい!」

きゃあきゃあと黄色い声をあげて取り囲まれた。
いや女子ならそうかもしれないけどオレだぞ?
花束なんて似合わないにも程があるだろ。

有無を言わさず手渡された花は確かに綺麗だけど。

「……てかお前今日そればっかだな」

朝からのお祝い攻撃にそう言うと。

「だって大事な日じゃん!」

臆面もなくそう言う高塚に言葉に詰まる。

嫌な訳じゃない。
誕生日を祝われるのは正直かなり嬉しいのだが、こんなにも大事に祝ってもらったのは小学校低学年以来だから照れる。

「あれ、森ちゃん照れてる?照れてる?顔赤い可愛いいいい!」
「ばっ、やめ!離れろ!」

ガッと頬を包まれ顔を覗き込まれ。
あまりの近さに、即座に腕を突っ張り高塚の顎を押す。

「ふふっ、ほんっと可愛いなあ森ったら!」
「可愛くねえから!」
「可愛い可愛い可愛い!」
「うるせえええ!」

バイト先でのあの一件以来、なんだか以前にも増して可愛いと言われている気がする。
いや、気がするどころか実際言われてんだけど。

あの後はなかなか赤みが引かなくて、やっと引いたと思って中に入り高塚の顔を見た途端にまた赤くなって。
結局ゆっくりなんて出来ないまま、飲むだけ飲んでさっさと帰ってしまった。

無意識に赤くなるもんだから始末に負えない。
なんだってこんなに高塚相手にどぎまぎしなければならないのか。
考えるとイラッとしてしまうが。

「森ちゃん?ほんとに怒っちゃった?」
「っ、怒ってねえよ」

ひょい、と再び間近に迫った高塚に、そう返すことしか出来ず。

(違う、高塚にどきどきしてんじゃねえ、男前な顔が近くにきたら誰だってどきどきするはずだ!そうだ!オレはおかしくない!)

以前キスをされそうになり、いくら綺麗でも男な時点で無理、と嗚咽を漏らしたのなどすっかり忘れ、そう言い訳をした。












そして放課後。

いつものように一緒に帰り、いらないというのに家の前まで送ってくれた高塚。
玄関の前で立ち止まり、じゃあなと声を掛けようとすると。

「あ、森ちゃん手出して」
「?手?」

なんだ、と思いつつ手を出す。
するとどこから取り出したのか、両手の平にちょうど納まる程の紙袋がその上に乗せられた。

「はい」
「へ?これ……?」

高塚と紙袋を交互に見る。

え、これって?
タイミング的には絶対に確実にそれしかないけれど。

「誕生日プレゼント」
「っ、え?」

言われ、オレの手元にやってきた紙袋をまじまじと見つめる。

ブランドとか全然わからないオレでもわかる、高校生が買うには明らかに高価そうな包み。
小遣いで買えるような代物ではないそれに、はっと気付く。

『欲しいものがあるんだよね』

そうにこやかに告げられたのは記憶に新しい。
なんでこんな中途半端な時期にバイトを始めたのかと思っていたが。

「あ……」

はっとする。

(まさか、欲しいものって)

いっぱい怒られて、覚えなきゃいけない事がありすぎて大変、なんて言っていたのに。
あんなに頑張って働いていたのに。

それが全てこれの為だったというのだろうか。

「……っ」

ぎゅうっと胸が締め付けられる。

「へへっ、お花はおまけ。こっちが本当のプレゼント」

渡せて良かった、とほっとしたように微笑む姿は紛れもなく男前。

「いらないなんて言わないでね?」
「!ばっ、言わねえよ!」

これでもかと心が込められているとわかっていて、そんな事言えるはずがない。
ないけど。

「?どうかした?」
「……いや、オレなんもしてないのに」

そう、オレは高塚の誕生日に何もしていない。
それどころかいつも通りに殴ったり蹴ったりなんかして、した事といえば街中で手を繋いで歩いたくらいだ。
恥ずかしすぎたけれど、あれしかしていないのに、こんなにまで祝ってもらうと申し訳なさが募る。

「気にしなくていいよ」
「でも」

こいつはいつもそうだ。
修学旅行の時にしろ今日にしろ、与える事に対して際限がなさすぎる。
それがオレにだけというのがわかっているから余計にやるせない。

「……」

唇を噛み締め、眉を落としてしまう。

「本当に気にしなくていいんだよ?オレがあげたいからやってるだけなんだし」

だからそうはいかないんだって。
それじゃオレの気が済まない。

どうしたらこいつが喜ぶのか、わからないわけじゃない。
自惚れではなく、オレが出来る事でこいつを喜ばすのなんて凄く簡単なことで。

「っ、も、森ちゃん!?」
「……」

ぼすっと、高塚の肩に頭を預けた。
預けたというよりも頭突きに近かったけれど。

途端にいつかと同じように慌て始める高塚。
それもそうだろう、オレからくっつくなんて普段だったらありえない。
むしろ皆無。

「え?え?あの、え?森ちゃん?」
「……」
「どうかした?え?あの」

相変わらずオレからの接触には弱いこいつに一瞬笑みが浮かぶ。
わたわたと手を上下させるのを横目にとらえ……

「……………ありがと」
「え」
「じゃあな!」

ぼそっと一言呟き、即座に離れ、脱兎の如く駆け出し。
背後で高塚の戸惑う声が聞こえたけど構わず屋内へと入る。

あんなほんの少しだけど、恥ずかしくて堪らない。
いつかのように、真っ赤になっているであろう顔。

(あー……やばい)

少し前から胸中に燻っている想いの正体が、すぐそこまできているような気がした。







end.

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

処理中です...