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夢と現実
しおりを挟む「もう森にはちょっかい出さないよ」
「やっぱり男相手に、なんて気持ち悪いよね」
「オレも目が覚めたっていうかさ、やっぱり女の子の方が良いし。とにかく、森への気持ちは気のせいだったみたい」
「クラスも違うし、もう関わらないから、森もオレに関わらないで」
つらつらと告げられる言葉の数々。
そのどれもが、今までの高塚からは想像出来ないくらいに冷たくて、棘があって。
ふにゃりと緩んだところしか見た事のなかった目元は鋭く細められていて。
「……高塚?」
「……触らないでくれる?」
「……っ」
思わず伸ばした手は、あっさりと叩き落とされてしまった。
(こいつ、誰だ?)
見た目は確かに高塚なのに、全くの別人のようで。
なんで?
どうして?
お前、そんな奴じゃないだろ?
言いたい言葉は中々喉の奥から出て来てくれなくて。
「じゃあね」
そう言って立ち去って行くその後ろ姿を、呆然と見送ることしか出来なかった。
*
「……っ、は……っ」
がばりと布団から起き上がる。
「……夢……?」
ばくばくと激しく打つ鼓動。
さっきまでのあれは、夢だったのか?
妙にリアルで、本当に言われたみたいだった。
「……なんつー夢だよ……」
最悪な目覚めに、膝に顔を埋めてそう呟いた。
*
(……あー、なんか、学校行きたくねえなあ……)
こんな事を思うのは初めてだ。
あの時の高塚と女の子の会話が、思った以上に心に引っかかっているらしい。
学校へ行って。
高塚に会って。
夢でのような態度をとられたら、オレはどうするのだろうか。
あの時一緒にいた女の子と付き合う事になったって。
やっぱりオレへの想いは気のせいだったみたいだって。
いつもの笑顔で言われるのだろうか。
(……アホか……)
大体、付き合ってもいないのに、わざわざ高塚がそんな事報告してくるはずない。
オレの事を好きでなくなったのなら、このままフェードアウトすれば良いだけだ。
オレがどうこうできる事ではないのにそんな事を悶々と考え。
結局学校をサボるなんて出来るはずもなく、重い足取りで校門をくぐる。
そのままとぼとぼと歩いていると、
「森ちゃーん!」
「!」
背後からの声。
聞き覚えのありすぎる声にびくりと肩が震える。
と、同時に。
『気持ち悪いよね』
『目が覚めた』
『関わらないで』
夢の中での高塚の言葉と冷たい視線が一気に蘇ってくる。
震えそうになる身体と逃げ出したい気持ちを抑え、ゆっくりと振り返ると。
「おはよー!」
「……高塚……」
にこにこと。
いつとと全く変わりのない笑顔を浮かべた高塚がそこにいた。
「……っ」
「朝に会うの久しぶりだね!」
いつものように話し掛けてくる高塚に、オレは何も言えずにいると不思議そうに顔を覗き込まれる。
何でもないのだと伝えたいのに喉が張り付き声が出せない。
「森ちゃん?」
どうしたの、と恐らく続くはずだったセリフは背後から聞こえてきた甲高い声に遮られた。
「あー、高塚くーん!」
「……っ」
その声の主はまぎれもなく。
『じゃあ私なんてどう?付き合わない?』
そう高塚に言っていた女の子だ。
「あ……」
高塚がその声に反応し、身体を振り向かせようとした瞬間。
「……!」
オレは、無意識に高塚の袖を掴んでいた。
「……え?」
「っ、あ……!」
驚いたような声をあげる高塚。
しまった、なんで袖なんか掴んでるんだ。
こんな引き止めるような行動をして、一体どうするつもりなんだ。
そうは思うけれど手が離せない。
「……森ちゃん?どうしたの?」
夢では振り払われたけど、現実では逆に手を掴まれる。
先程途切れたセリフをもう一度言われ、更には心配そうに顔を覗き込まれる。
「……っ」
夢と真逆の高塚の態度にホッとしたのかなんなのか、じわりと視界が滲んでくる。
「っ、え?森ちゃん?!」
そんなオレに、高塚は目を見開き慌て始めた。
「わ、悪い……っ、オレ、先に行く……!」
「え?え?!森ちゃん……!」
戸惑う高塚の手を振り払い、オレは校内へと走り出した。
久しぶりに高塚と目を合わせて気付いた。
「……っ、マジかよ……?」
もう誤魔化せない。
オレは高塚が好きだ。
end.
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