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かわいいあのコのお兄さん
しおりを挟む津田行弘、高校一年生ぴちぴちの15歳。
取り立てて目立つところのないオレにもつい最近気になるコができた。
それはもう可愛いコで、オレなんかが付き合えるはずはないのだけれど。
彼女は所謂高嶺の華。
顔を見て挨拶を交わすだけで、生きてて良かったひゃっほいと大袈裟に諸手を挙げていたのに。
なのに何故。
「そろそろオレと付き合ってくれる気になった?行弘」
「……」
何故にオレは彼女のお兄様に口説かれているのでしょうか。
*
渡辺秀一。
オレの気になっている相手、渡辺美由の一つ年上の兄。
同じ高校の先輩だ。
妹の美由もさることながら、秀一も校内ばかりか校外でも有名人。
顔も成績も運動神経も人当たりもパーフェクトとあればそれも頷ける。
親はとある会社の重役らしいし。
それでモテないはずはなく。
才色兼備の渡辺兄妹はご近所でも自慢の種。
揃って右から左から引く手あまたというのだから羨ましい限りである。
まあそんな訳で、美由が気になるとはいってもそれは憧れのようなもので。
付き合いたいだとかそういうのは全くなかったのだが、これは予想外だ。
全くの想定外だ。
ありえない。
ほとんど話した事もなかった先輩に告白されて真っ先に思ったのはそんな事だった。
確かにカッコイイさ。
男のオレから見ても先輩はカッコイイよ。
けどどう考えてもありえないだろ。
というかお兄さん、男が好きなんですか。
「違うよ、オレが好きなのは男じゃなくて行弘」
「人の心読まないで下さいよ!」
「読んでないよ、行弘が口滑らせてるだけ」
「マジでか……!」
心の呟きがそのまま口に出てしまっていたらしい。
のほほんとにっこり笑顔で言われたセリフに頭を抱える。
「ホント可愛いなあ行弘ってば。そんなにオレの事カッコイイって思ってくれてたなんて知らなかったよ」
「は?」
ああ、そうか、全部漏れてたのか。
わーもう本人目の前にしてカッコイイとかオレ超気持ち悪いんじゃないだろうか。
と、思ったけれどこの人の笑顔の眩しいこと眩しいこと。
一体何がそんなに嬉しいのか。
「オレ、カッコイイ?」
「……まあ、そうですね」
なんだこれ。
イヤミか。
面と向かって言うのは何だか癪だ。
肯定してしまうオレもオレだけど。
「じゃあ付き合えるよね?」
「………はい?」
待て。
何故そう繋がる。
思わず足を止めて先輩をまじまじと訝しげに見つめる。
「だってカッコイイって言ってくれたじゃん」
「いや、だからそれは……」
一般論を述べただけだ。
好みの顔だともましてや付き合いたいだの云々も言っていないのに何故そこに話が飛ぶ。
カッコイイと言われたから、なんてそんなもの付き合う理由になるか。
それを告げると。
「えー、だって他の人は、カッコイイから付き合ってって言うよ?」
何かおかしい事言った?と首を傾げる先輩。
なるほど周りの連中がそんなんばかりだったからかと妙に納得してしまった。
同時に呆れる。
これだから顔の良いやつは。
「……先輩、カッコイイって言われたら誰とでも付き合うんスか?」
「え?うん、まあタイプだったら」
あっさり頷きやがりましたよコイツ。
もてる奴ってやっぱりその辺の価値観が違うのだろうか。
知らず知らず、オレの口からは大きな溜め息が漏れた。
「先輩、それって結局顔しか見られてないって事ですよね?」
「うん、そうなるね。でもまあきっかけとしては十分でしょ」
「そんで、先輩も顔しか見てないって事っすよね?」
「んー、まあそうなるかな?」
「それで良いんですか?つーか、先輩もしかしてオレが顔だけで彼女選ぶと思ってんスか?」
だとしたら失礼な話だ。
いや、妹の美由を顔だけ見て可愛いなんて思っていたのも事実だが、中身を良く知らないのにお付き合いをするとかが全く想像出来ない。
オレはやはり中身もちゃんと知った上でこの人が良いなあと思える相手と付き合いたい。
そんなツラで高望みしてんじゃねえとか夢見てんじゃねえよ、なんて言わないでくれ。
「……」
「そりゃ先輩くらいカッコ良かったら相手の方から嫌って程寄ってきていちいち性格なんて確かめてらんないんでしょうけど」
そういうのは少し見直した方が良いんじゃないですか、と言おうとしたら。
「っ、行弘ッ!!!」
「どわッ!?は!?何!?」
ぎゅう、と正面から抱き締められた。
とっさに腕を突っ張るが跳ね返されてしまった。
筋肉なんて全然なさそうなのに何だこの力強さ。
(か、隠れマッチョ……!)
いやいや今はそんな事どうでも良いなんだこの状態!?
「行弘、やっぱ行弘超良い!」
「いやいやいやワケわかんないです離れて下さい!」
「無理!やーもう超可愛い!」
「かわいくないですから!それ先輩の目の錯覚ですから幻覚ですから!」
可愛い可愛いと言われながら、ぐりぐりと肩口に額を擦り付けられる。
周りの視線は痛いは腕の力も強いわ、とにかく離れたい一心でもがく。
先輩はやはりというか、力を緩めてくれる事はなかった。
道のド真ん中で抱き枕状態。
羞恥プレイですかこのやろう。
「バカだなあ、行弘ってば!オレが顔だけで行弘の事選んだと思ってるの?」
「それはないでしょう明らかに!」
オレが顔だけで選ばれるような造りでないのは公然の事実。
むしろそんな輩が現れた日には速やかに眼科と脳外科の受診をおすすめする。
「そんなわけないでしょー?そりゃ行弘は可愛いけど、オレはちゃんと中身も大好きなの!」
「かわいくないですから何回も言ってますけど先輩目おかしいですから」
「その謙虚なところがまた可愛い」
「耳聞こえてますか大丈夫ですか」
会話が噛み合っていないような気がする。
可愛いなんて言われて喜ぶ男が一体どこにいるというのか。
呆れて歩を進めようとしたが、未だ拘束されていてそれが出来ない。
いい加減殴っても良いだろうかと思い始めた時の先輩からの一言。
「ていうか、オレから告白したのって行弘が初めてなんだよね」
「…………………………は?」
耳に届いて理解するまでに数秒を要し、次いで出たのはたったの一文字。
まばたき数回を繰り返し口をぽかんと開く。
これはなんと返せば良いのだろうかと悩む。
「行弘」
「………なんですか?」
呼んだくせに続きを話そうとしない先輩に聞き返すと、にんまりと笑みを深められた。
ぐっ、と抱かれた腰に力が込められた。
「だから覚悟してね」
「え?」
笑っているはずなのに、目の奥が怪しく光った気がして息を飲む。
普段見せる事のない猛禽類のような気配にぞくりと背筋が震えた。
「……っ」
「絶対、逃がさないからね」
それは一瞬の事で、すぐに柔らかいものに変わった。
気のせいだったのかと思ってしまうくらいの変わりように戸惑う。
覚悟してと言われてもしたくない。
逃がさないと言われても正直逃げたくてたまらない。
苦笑いすら出て来ない中、ふと顔に影がかかり、
「……!!!」
あ、と思う間もなく啄むように唇が重なった。
開いたままの目に先輩が映る。
ドアップに堪え得るというのは美形の特権か。
ぴきりと身動きも出来ずに固まってしまっていると、閉じていた先輩の目がゆっくりと開かれた。
まるでスローモーションのように、日本人にしては薄い茶色が広がる。
それが凄く綺麗で。
(うっわ……)
一瞬、それに心を奪われ見惚れてしまった。
男相手に見惚れるとかほんとありえないのだけど、つい。
マジで綺麗。
これはオレでなくてもうっとりだと思う。
女の子だったらいちころなんじゃないだろうか。
「……行弘?」
「!!!!!」
間近で名を呼ばれ、はっとする。
「うわわわわわわ!!!離れて下さい!!!」
キスされて見惚れてる場合じゃねえ恥ずかしすぎる!
慌てて腕を突っ張り離れた。
遅すぎる抵抗ではあったが、先輩はすんなりと離れてくれた。
だったら最初から素直に離してくれれば良いのに。
恥ずかしさに染まる頬を感じながら、ごしごしと口を拭う。
周りよりも、目の前の男の視線が痛かった。
「酷いなあ、そんな汚いものみたいに拭かなくても良いじゃん」
「うっさいです!」
「……初めてでもないくせに」
「はいはいお陰様で初めてじゃないですけどね!」
「うん、オレが奪っちゃったからね」
「マジで黙って下さいよ!」
アレは人生最大の汚点だ。
今のも汚点だ。
何が悲しくて男に唇奪われにゃならんのだ。
ファーストどころかセカンドもサードもうっかり奪われてしまったことが情けなさすぎる。
もっと警戒しろオレ。
「じゃあオレこっちなんで!」
本当はまだ先でも良いのだが早く別れたくて後退りしながら告げた。
「家まで送るよ」
「いらないです男なんで!」
「行弘は可愛いから心配だな」
「だから可愛くないって言ってんでしょーが!」
言い返しながら先輩を置いて全力で走り去った。
これからちゃんと逃げ切れるだろうか。
いや、逃げなければ。
そう思ったとき。
『絶対、逃がさないからね』
「……っ」
とっくに先輩の姿は見えなくなっていたのに、頭の中で彼の声が響いて再び寒気に襲われた。
end.
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